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伊藤忠と戦略的パートナー契約、アパレル業界の卸売プロセスをデジタル化するJOOR

TECHBLITZ

ファッションブランドと小売店の間で生じる煩雑なやり取りを「デジタル」の力で簡略化するプラットフォームを開発したJOOR(本社:米国ニューヨーク)。JOORは、オンライン展示会や独自の受注管理システム、決済システムなどをそろえ、業界のペインポイントの解消に取り組んでいる。JOORを利用するブランド数は世界約150カ国で約1万4000を超え、日本では伊藤忠商事と戦略的パートナー契約を結んでいる。JOORのCEO Kristin Savilia氏に話を聞いた。

<font size=5>目次
アパレル業界の「お洒落じゃない」現状
見過ごされていた卸売プロセスのデジタル化
日本では伊藤忠と独占的戦略パートナー契約

アパレル業界の「お洒落じゃない」現状

―JOORはアパレル業界のどんな問題を解決しようとしているのですか。

 JOORは、煩雑で非効率な卸売プロセスをデジタルによって効率化し、ファッションブランドの競争力を高めようとしています。卸売プロセスとは、商品を製造するブランドが小売業者に販売する取引の流れを指します。展示会やショールームで商品を並べることや、オーダーの発注、オーダーを受けた商品の生産・出荷、支払い、配送、商品到着後の在庫管理といったプロセスですね。

 問題は、ファッション業界では未だにこうした業務において、Excelのスプレッドシートや紙のラインシートを使った手作業が主流となっており、とても手間がかかっているのです。手作業による取引は、別の問題も引き起こします。

 例えば、小売店からの注文がキャンセルされた時です。商品の生産・出荷の前段階でキャンセルが起きてしまい、それに気づかなかった場合、ブランドは平均して1800ドルほどの損失を被ります。また、スプレッドシートや紙で受注を管理する以上、オーダーの見落としや在庫予測の見誤りといった問題はどうしても発生してしまいます。

 つまり、ブランドと小売店のコミュニケーションが非常にアナログなため、業界全体で多大な「無理」「無駄」が発生しているのです。

Kristin SaviliaJOORCEODartmouth Collegeで歴史学の学士号を取得後、1991年にMacy’sに入社。同社ではメンズ商品やウィメンズのドレスなどのバイヤーを務める。その後、Linens 'N ThingsとGigMasters.comを経て、2005年にXO Groupに参画。ECやマーケットプレイス事業の責任者を務めた。2017年にJOORに入社、CEOに就任。現職。

―そうした問題を解決するため、具体的にJOORはどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

 まず、各ブランドの商品をオンライン上で展示する「バーチャルショールーム」が挙げられます。物理的な展示会に代わってオンラインで展示するため、24時間アクセスできるほか、高品質な画像・動画で商品を説明していて、バイヤー側にとって便利なサービスとなっています。

 次に、紙による煩雑な受注管理をデジタル化によって簡略化する「B2B受注管理システム」です。これを使うことでリアルタイムに注文を管理することができ、すぐに生産や出荷に入ることができますし、ヒューマンエラーもなくせます。また、取引データが自動保存されることから、再注文も容易になっています。

 さらに、「JOOR Pay」という決済管理システムも用意しています。JOORは世界150カ国以上で使用されており、日常的に他国間の取引が行われています。そこで、注文から決済までを一元管理し、リアルタイムで決済追跡できるシステムを用意したのです。これにより、決済の遅延やミスが減ります。また、為替レートや手数料の自動計算も可能です。

 この他にも、AIを用いたトレンド予測やブランド独自のレポート作成、KPI追跡システムなど、ファッションブランドの競争力を高めるさまざまな機能も搭載しています。

(Vimeo JOOR officialより)バーチャルショールーム クイックデモ

見過ごされていた卸売プロセスのデジタル化

―JOORを活用した顧客の成功事例には、どのようなものがありますか。

 オーストラリアの宝飾品ブランドの「Arms Of Eve」はJOORを通して100以上の新たなパートナーシップを小売店と確立しています。100以上という数字は同社の卸売ビジネスの約30%です。バーチャルショールームなどを通して、ブランドと小売店の距離が非常に近くなっていますから、新たなパートナーを探しやすいのです。

 また、英国の靴ブランドの「Loake」は、JOORを使って再注文数を20%増加させています。鞄ブランド「CLARE VIVIER」はJOOR Payを利用し、決済プロセスの効率性が高まっています。日本のブランドにおいても、「Scǎi」や「BEAMS」、「DESCENTE」、「A BATHING APE」などが当社の顧客です。

―JOORは2010年に創業されました。ソフトウエアによって、アナログな卸売プロセスを一元管理するというアイデアは、他にないものだったのでしょうか。

 アパレル業界のトレンドとして、顧客とタッチポイントのある部分のデジタル化は進んでいますが、卸売プロセスにさほど注目が集まらなかったのだと思います。当然ですが、消費者から見た時、どのようなプロセスで商品がECサイトや店舗に陳列されるかはあまり関係がありませんから。

 私がJOORでCEOに就任したのは2017年ですが、創業者のMona Bijoorと非常に似たキャリアを歩んでいます。私はMacy’sのバイヤーで、展示会で商品を買い付け、手作業で紙に商品を記入し、オフィスに戻ってエクセルで管理する、といったプロセスは非常に煩雑だったのです。しかも、バイヤー側は商品写真を展示会でしから見ることができないので、展示会で多くの写真を撮り、帰り際には一冊の本ができるほどの書類を持ち歩いていました。

 MonaからJOORに参画しないかという話をもらった時、私は非常に興奮しました。「私や同僚が苦しんでいた問題をこんな形で解決できるなんて!」とね。

image : JOOR

日本では伊藤忠と独占的戦略パートナー契約

―日本市場をどのように見ていますか。

 日本のアパレル市場はコロナ禍からの立ち直りが遅れた印象があります。一方で2024年は回復基調にあり、大きなチャンスが目の前にあると感じています。

 すでにJOORの顧客には多くの日本のブランドがいますし、伊藤忠商事と資本提携しています。日本のブランドは、国内での販売においても、海外においても、JOORを重宝していると思います。

 特に、海外に販路を拡大したい場合、JOORを使うのが最も効果的だと思います。バーチャル・ショールームを活用すれば、他国のバイヤーと簡単に繋がれますから。さらに、JOORは世界60カ国で小さな店舗も展開しています。こうした店舗に商品を卸すことも可能ですよ。

 今年はこれまで、海外の5800ほどの小売店が、日本のブランドをJOORを通して購入しています。海外からの関心は非常に高いと実感しています。

―日本企業と新たにパートナーシップを組むとき、どのような形態が理想だと考えていますか。

 さまざまな形態が考えられます。ただ、それよりも今は、JOORの日本の顧客を増やすことが先決です。現在、日本の約100のブランドがJOORに登録していますが、これを倍の200に増やしたいですね。

従業員数なし

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