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海のギャング<ウツボの仲間>飼育可能? 海水魚飼育の初心者におすすめな3種をピックアップ

サカナト

ウツボ(提供:椎名まさと)

ウツボの仲間は、その独特な見た目や格好良さから、近年アクアリストに人気の魚となっています。

野性味あふれる、獰猛な性格といかつい顔をしたものから、かわいらしい顔とおとなしめの性格をしたものまで色々な種が知られており、魅力的な魚たちです。今回はこの<ウツボの仲間>の飼育基礎をご紹介します。

なお、ここでは海水魚の飼育について扱っています。海水魚は真水(淡水)で飼育することはできません。また海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。

もちろん、一度飼育した魚は、海や川へ逃がすようなことのないようにしましょう。

また「ウツボ」という名称は、種標準和名ウツボを指す場合と、ウツボ科魚類全般を指すことがあります。ここでは原則「ウツボ」とした場合は種の標準和名ウツボを指し、ウツボ科魚類全般については「ウツボの仲間」という言葉を使用します。

ウツボ科魚類の特徴

ウツボ科魚類はいずれも、ヘビのような細長い体をしており、一見爬虫類のようですが、ウナギ目にふくまれる魚類のいちグループです。

ウツボの仲間は魚類である(提供:椎名まさと)

爬虫類のヘビの仲間のように見えますが、外見上鱗はなく、背鰭を持っているため容易に識別できます。

また海洋に見られるヘビの仲間、爬虫類のウミヘビはどの種も肺呼吸をしますが、ウツボの仲間は魚類であり、鰓呼吸をします。

胸鰭がないことが特徴(提供:椎名まさと)

一方、ほかのウナギ目魚類に含まれる種とは、背鰭・臀鰭につながった尾鰭があること、側線孔は頭部付近にのみあり、体側にはみられないこと、後鼻孔は眼前方の背側にあることなどで見分けられます。

しかし、なんといっても胸鰭がないことによって、ほかの多くのウナギ目魚類と見分けることができるでしょう(ただしウツボ科以外にも胸鰭がない種がわずかにおり、その場合はほかの特徴も組み合わせる必要がある)。

アミメウツボの鋭い歯(提供:椎名まさと)

ウツボ科魚類は三大洋の熱帯から温帯域に生息しており、その種は200種をこえます。

この科の魚の特徴といえば「」を思い浮かべる方も多いと思いますが、大部分の種は鋭い歯を有しているものの、種によっては臼歯のような歯を持つ種も知られています。どの種も動物食性で小魚やタコ、イカなどを食べているほか、甲殻類を好むものもいます。

ウツボ科は大きく分けて2つのグループ

ウツボ科は大きくふたつのグループに分けられます。キカイウツボ亜科ウツボ亜科です。

キカイウツボ亜科のなかにはキカイウツボ属やタカマユウツボ属、アミキカイウツボ属などが含まれます。一方、ウツボ亜科にはウツボ属やアラシウツボ属、コケウツボ属、ハナヒゲウツボ属などが含まれます。

背鰭・臀鰭は体の尾端付近にのみあるのがキカイウツボ亜科、背鰭は肛門より前方にあり、臀鰭は肛門の後方から始まるのがウツボ亜科で、区別は容易です。

キカイウツボ亜科のアミキカイウツボ(提供:椎名まさと)

一般的にアクアリウムトレードに乗るのはほとんどがウツボ亜科のほうですが、キカイウツボ亜科の種もあまり多くはないものの、観賞魚として販売されることがあります。

キカイウツボ亜科の魚は潮だまりに見られるアミキカイウツボが代表的な種で、この種は30センチほどということでキカイウツボの仲間は小型種というイメージがありますが、キカイウツボ亜科のChannomuraena vittataは全長1.5メートル近くになります。

この大型種は標準和名はついていないものの、日本でも漁獲され、沖縄美ら海水族館で展示されたこともあり、仮の和名もつけられました。今後の研究に期待したいところです。

初心者向けのウツボの仲間3選

ウツボの仲間は種類は多いのですが、初めて飼育する人でも飼いやすい種といえるものについては、いくつか条件があります。

まず、丈夫であること。次に、25℃程度の水温で問題なく飼育できること。そして、超大型にならないことです。

クモウツボ Echidna nebulosa(Ahl, 1789)

ウツボの仲間飼育初心者に強くおすすめしたいのが、クモウツボです。この種は黄色い眼と鼻管が目立ち、体側には暗色の斑点があり、その中に黄色(もしくは白色)の斑点という模様が入るという綺麗な色彩をもつため人気があります。

海水魚専門店ではしばしば入荷しますので入手も容易であり、そして何より飼いやすく、初心者に最適な種であるといえるでしょう。また高知県以南の海では採集することも可能で、写真の個体は筆者自身が磯の潮だまりで採集したものです。

クモウツボ(提供:椎名まさと)

一般的にウツボの仲間といえば「海のギャング」とか「獰猛な性格」というイメージがもたれやすいのですが、本種はそのようなイメージからかけ離れた姿をしており、その可愛さから女性のファンも多いです。とくに筆者の母は、このクモウツボを寵愛していました。

クモウツボはウツボの仲間を飼育するうえで入門種として最適であり、本種でウツボの仲間の飼育の基本を覚えるとよいでしょう。

クモウツボと同じアラシウツボ属の魚ではほかにも汽水域に入るナミダカワウツボや、体側に横帯をもつシマアラシウツボ、大西洋産のチェインモレイなどが知られており、飼育しやすい種が多いです。

ただしこれらの種のうち、ナミダカワウツボは淡水魚として熱帯魚店で販売されることもあるものの、実際には純淡水での長期飼育はできず(調子をくずしやすい)、塩分を多少必要とする点に注意が必要です。

サビウツボ Gymnothorax thyrsoideus(Richardson, 1845)

クモウツボの次に飼育におすすめのサビウツボ。細かい模様があり、頭部にかけて褐色から紫色に変化する体色もおしゃれ。そして眼が白いというちょっと変わった色彩をしています。

クモウツボのようにカラフルなものではないのですが、こちらも人気がある種です。

サビウツボ(提供:椎名まさと)

ウツボ科としては比較的おとなしい性格ですが、鋭い歯を有しており、かまれると怪我をするおそれがあります(筆者は実際にかまれ怪我をしたことがある)。大きいものは全長60センチになることもあります。

よく似たものとして体中に小さな斑点がちらばるアセウツボや、西インド洋や紅海にすみ、頭部に黒い斑点が入るジオメトリックモレイなどが知られていますが、これらの種は従来はSiderea属とされ、ウツボ属とは別属として扱われてきたことがあります。

これらの種は潮だまりで見られることもあり、水質や水温の変化にも(比較的)強い、強健な種といえます。

ウツボ Gymnothorax kidako(Temminck and Schlegel, 1846)

種の標準和名ウツボも飼育に向いています。

温帯性の魚のため、あまりにも高水温が続くと厳しいですが、25℃程度であれば普通に飼育することができ、丈夫で飼いやすい種といえます。

ただし歯は鋭く、かまれると大けがをするおそれもありますので、絶対に素手で餌を与えたりしないようにしましょう。関東沿岸でも見ることができ、採集することもできます。

ウツボ属の魚ではこのほかヘリゴイシウツボやモバウツボといった種も初心者向けであるといわれますが、筆者はこれらの種の飼育経験はなく、ここでは省略します。

飼育が難しいウツボの仲間

一方、ウツボの仲間としては飼育が難しいものも知られています。

「リボンイール」「リノムレーナ」ことハナヒゲウツボは性転換をするウツボ科魚類として知られ、それに伴い未成熟期は黒、雄の成魚は青色、そして雌の成魚は黄色と、成長と共に体色を変化させます。

ハナヒゲウツボの雄(提供:PhotoAC)

見た目は美しく繊細な種で、ダイバーやアクアリストに親しまれている種類ではありますが、本種は性格についてもまた繊細であり、初心者には飼育は難しい種だといえます。

飼育サイトなどにおいて、ハナヒゲウツボを「小型種で飼育におすすめなウツボの仲間」と紹介していることもありますが、実際にはその細長い体は1.2メートルを超えるくらいにまでなり、小型水槽では飼育しにくいところがあります。

インディアンモレイのような超大型種も初心者には向かない(提供:椎名まさと)

このほか、ドクウツボやニセゴイシウツボ、インディアンモレイ、グリーンモレイといった2メートル近くになるような種についても、初心者には飼育が難しいといえるでしょう。

大型になる種は当然大型水槽が必要になり、飼育に必要な器具も大掛かりなものが必要となるからで、初心者には難しいところが多くあります。

多くの魅力をもつウツボ。ぜひ一緒に暮らす家族として迎えてみてはいかがでしょうか。

(サカナトライター:椎名まさと)

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