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魅力は美味しさ以外にも シラス世界初展示の裏側

タウンニュース

「来場客が生きたシラスを見て興味を持ってくれるのがやりがい」とほほ笑む大下さん

前回は、現館長の崎山直夫さんによる証言をもとに、新江ノ島水族館の礎を築いた名誉館長である故・堀由紀子さんの功績について触れた。一方で、他の施設とは全く異なる形でのユニークな展示で話題をさらった同館。2回目にスポットを当てたのは、江の島の特産品であり、10年前に世界で初めて生体展示を行った「シラス」について。展示作業に尽力した前任者から重責を引き継ぎ、現在飼育を担当している大下勲さんに取材。その舞台裏に迫った。

「『シラス』という名の魚はいないんですよ」。こう口火を切った大下さん。一般的にシラスという言葉は、カタクチイワシやマイワシの稚仔魚(ちしぎょ)のことを指す。

2013年、同館では地元に根差した展示を行おうと、特産品であるシラス(カタクチイワシ)の飼育を検討。しかし、その道のりは平たんではなかった。

シラスは元々砂地に生息しており、漁獲や輸送のダメージで衰弱してしまうため、展示に漕ぎ着けるのは困難だった。長期展示の実現には館内でカタクチイワシを育て、そこで卵からシラスを孵(かえ)し、成魚になるまで飼育する循環づくりが必要となる。世界で初めてカタクチイワシの繁殖と大量育成に成功した水産総合研究センターの協力を得て、水族館での繁殖と育成の研究に取り組んだ。

特に苦労したのは、孵化した後のシラス飼育だった。通常、魚の飼育では水槽に酸素を送るエアレーションやろ過装置を設置して水の循環を行うが、シラスにとっては些細な刺激が命取りになる。研究過程では、ろ過装置によって槽内のシラスが全滅してしまったことも。そこで「掃除より生存」という方針を立てた。空気を可能な限り絞り、ろ過装置の使用を取りやめた分、水槽は汚れてしまったものの、シラスの生存率は上がった。

試行錯誤の末、14年にシラスの展示をスタートした。水族館での生きたシラスのお披露目は、狙い通り大盛況だった。以降、繁殖と育成を続け、今飼育しているシラスは11代目にもなる。

シラスの魅力について大下さんは「奥深さ」だと語る。「食物連鎖の中で数多くの生き物の生態系を支えているという側面がありつつ、群れを成して鱗を光らせながら泳ぐ姿はとてもきれい」。シラスの魅力に触れた来場客の様子を見て、満足そうに笑みを浮かべた。

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