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「年金は将来もらえない」は誤解!? 将来に備えた現役世代の対策を解説

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

年金制度の将来見通しと「もらえない」不安の実態

「年金は将来もらえない」という不安の背景

少子高齢化の進展により、年金制度の持続可能性に対する不安が広がっています。厚生労働省の2024年財政検証によると、現在の年金制度は長期的な持続可能性を確保できる見通しですが、給付水準については経済状況によって変動する可能性があることが示されています。

特に若い世代の間では、「保険料を納付しているにもかかわらず、将来年金を受け取れないのではないか」という不安が根強く存在します。この背景には、高齢化の進展による現役世代の負担増加や、マクロ経済スライドによる給付水準の調整があります。

この不安は、メディアによる過度に悲観的な報道も一因となっています。確かに、現在の年金制度には課題がありますが、それは「もらえない」という二元論で片付けられる問題ではありません。むしろ、制度の持続可能性を確保するための仕組みが適切に機能しているかを検証することが重要です。

さらに、世代間の公平性という観点からも議論が必要です。現在の高齢者が受給している年金水準と、将来世代が受け取る年金水準の違いについて、十分な理解と対策が求められています。

ただし、この違いは必ずしもマイナスの方向だけではなく、特に女性の労働参加が進むことで、むしろ年金水準が向上する可能性も指摘されています。

年金財政の長期的な見通し

2024年財政検証の結果によれば、経済成長率の違いによって将来の年金水準に差が生じることが明らかになっています。成長型経済移行・継続ケース(実質賃金上昇率1.5%)では、2059年時点での平均年金月額は男性が21.6万円、女性が16.4万円となる見通しです。

一方、過去30年投影ケース(実質賃金上昇率0.5%)では、2059年時点での平均年金月額は男性が14.7万円、女性が10.7万円と予測されています。これは、経済成長率が年金水準に大きな影響を与えることを示しています。

重要なのは、いずれのケースでも年金制度は維持され、一定水準の給付が確保される見通しであるという点です。完全に「もらえない」という状況は想定されていません。むしろ、経済成長を実現することで、より高い給付水準を確保できる可能性があることに注目すべきです。

また、年金制度の財政基盤となる積立金についても、長期的な運用戦略が立てられています。市場の変動に左右されない安定的な運用を基本としながら、適切なリスク管理のもとで運用収益の確保を目指しています。

世代別の将来年金受給額の予測

世代別の年金月額分布を見ると、興味深い傾向が浮かび上がります。1959年生まれ(65歳)と比較して、1994年生まれ(30歳)の世代では、特に女性の年金水準が向上する見通しです。

これは主に、若い世代における労働参加の進展と、厚生年金加入期間の延伸によるものです。具体的には、1959年生まれの女性の平均年金月額が9.3万円であるのに対し、1994年生まれの女性は成長型経済移行・継続ケースで16.4万円まで増加する見通しとなっています。

この変化は、単に金額の増加だけでなく、年金受給の質的な変化も示しています。従来の「専業主婦モデル」から「共働きモデル」への移行が進み、女性の経済的自立がより進むことが期待されます。

また、年金額の分布にも注目すべき変化が見られます。現在の受給者世代では、年金額の二極化(高額受給者と低額受給者の格差)が課題となっていますが、若い世代ではこの格差が縮小する傾向にあります。これは、厚生年金の適用拡大や、就労形態の多様化に対応した制度改正の効果といえます。

さらに、基礎年金の重要性も再確認されています。厚生年金の給付水準には収入による差が生じますが、基礎年金には一定の所得再分配機能があります。例えば、報酬比例部分で4倍の差があっても、基礎年金を含めた総額では2倍程度の差に収まるといった効果が確認されています。

こうした変化は、年金制度が社会の変化に適応しながら、セーフティネットとしての機能を維持・強化していることを示しています。ただし、こうした見通しは一定の経済成長を前提としているため、その実現に向けた取り組みも同時に重要となります。

年金制度を取り巻く環境の変化と対応策

労働参加の進展による年金加入状況の変化

若年世代における厚生年金加入者の増加は、将来の年金水準に大きな影響を与えています。厚生労働省の資料によると、1959年生まれの女性では厚生年金期間中心の割合が37.7%であったのに対し、1994年生まれでは74.6%まで上昇する見通しです。

この変化は、単なる数値の変化以上の意味を持っています。女性の就労促進や短時間労働者への厚生年金適用拡大などの施策が、着実に成果を上げているのです。同時に、専業主婦を中心とする第3号被保険者や、自営業者などの第1号被保険者の割合は減少傾向にあります。

特筆すべきは、この変化が世代を追うごとに加速している点です。2004年生まれ(20歳)の世代では、女性の厚生年金期間中心の割合が76.8%にまで上昇する見込みとなっています。これは、社会全体での女性の就労促進と、年金制度の適用拡大が相乗効果を生んでいることを示しています。

また、男性についても変化が見られます。1959年生まれでは厚生年金期間中心の割合が80.7%でしたが、1994年生まれでは89.9%まで上昇する見通しです。これは、非正規雇用者や個人事業主なども含めた、より幅広い層への厚生年金の適用が進んでいることを反映しています。

多様な働き方に対応した年金制度の見直し

年金制度は、働き方の多様化に対応するため、継続的な見直しが行われています。特に注目すべきは、短時間労働者への厚生年金適用拡大です。これにより、パートタイム労働者でも一定の条件を満たせば厚生年金に加入できるようになり、将来の年金水準の向上が期待できます。

具体的な適用拡大の条件は以下になります。

従業員数51人以上の勤め先 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満 所定内賃金が月額8.8万円以上 2ヵ月を超える雇用の見込みがある 学生ではない

また、国民年金においては産前産後期間の保険料免除制度が導入され、出産前後の期間における保険料負担が軽減されました。これは、出産・育児期の女性の年金権を保障する重要な施策となっています。

具体的には、出産予定日または出産日が属する月の前月から4ヵ月間の国民年金保険料が免除され、免除期間は満額の年金額を受け取れる期間として扱われます。

さらに、育児休業期間中の保険料免除制度も充実が図られています。育児休業中の厚生年金保険料が免除されるだけでなく、その期間は将来の年金額の計算に含まれる仕組みとなっています。これにより、育児による就業中断が年金受給権に与える影響を最小限に抑えることができます。

こうした制度改正は、働き方の変化や人生のさまざまなイベントに柔軟に対応できる年金制度の構築を目指すものといえます。特に、女性の就労継続支援や、仕事と育児の両立支援という観点から重要な意味を持っています。

マクロ経済スライドによる給付水準調整の仕組み

マクロ経済スライド(経済や人口の変動に応じて年金給付水準を調整する仕組み)は、年金制度の持続可能性を確保するための重要な仕組みです。成長型経済移行・継続ケースでは2037年に調整が終了する見通しですが、過去30年投影ケースでは2057年まで調整が続く可能性があります。

このマクロ経済スライドは、少子高齢化による現役世代の減少と、平均余命の伸びによる給付期間の延長という二つの要因を考慮して、給付水準を調整する仕組みです。具体的には、賃金や物価の上昇から一定率(スライド調整率)を差し引いて給付額を改定します。

ただし、この調整には重要な特徴があります。それは、名目額が下がらない「名目下限」という仕組みが設けられていることです。つまり、物価が下落する局面では、年金額の実質的な価値は維持されます。これは、年金受給者の生活の安定性を確保するための配慮といえます。

さらに、マクロ経済スライドによる調整があっても、実質賃金が上昇する場合には年金額も増加します。実際に、成長型経済移行・継続ケースでは、調整期間中でも年金額は物価上昇率を上回って増加する見通しとなっています。

この点は特に重要です。なぜなら、マクロ経済スライドは単なる給付削減の仕組みではなく、経済成長の果実を適切に分配しながら、制度の持続可能性を確保する仕組みだからです。経済成長率が高ければ、調整期間は短くなり、給付水準も高く維持されることになります。

将来の年金受給に向けた現役世代の対策

公的年金の加入期間を最大限確保する

将来の年金受給額を確保するためには、まず公的年金の加入期間を最大限確保することが重要です。特に、給付水準の高い厚生年金に加入できる機会がある場合は、積極的に活用することをお勧めします。

具体的なデータで見てみると、厚生年金期間中心の加入者と国民年金中心の加入者では、将来の年金額に大きな差が生じます。厚生労働省の同検証によれば、厚生年金期間中心の男性の平均年金月額は17.0万円であるのに対し、国民年金1号期間中心の場合は6.1万円と、約2.8倍の差があることが示されています。

保険料の支払いが困難な場合は、未納のままにせず、免除制度を利用することが賢明です。免除を受けた期間は、将来の年金額に一定程度反映されるため、全額未納よりも有利となります。例えば、全額免除の場合でも基礎年金の2分の1が保障されます。

また、将来の年金受給額を確認する習慣をつけることも重要です。「ねんきんネット」というオンラインサービスを利用すれば、現時点での加入記録や将来の年金見込額を簡単に確認することができます。定期的な確認により、必要に応じて追加的な対策を講じることが可能となります。

さらに、60歳以降の就労継続も年金額の増加につながります。例えば、65歳からの年金受給を選択した場合、60歳から65歳までの就労期間は年金額の計算に含まれ、受給額の増加につながります。また、在職老齢年金制度により、一定以上の収入がある場合は年金の支給が調整されますが、その分は将来の年金額に反映される仕組みとなっています。

iDeCoやNISAを活用した私的年金の準備

公的年金を補完する手段として、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)の活用が効果的です。これらの制度は、税制優遇を活用しながら長期的な資産形成を行うことができる特徴があります。

iDeCoは掛け金が全額所得控除となり、運用益も非課税となる税制優遇制度です。例えば、月額23,000円(年間276,000円)を拠出した場合、年間約55,000円の所得税・住民税が軽減されます(所得税率20%の場合)。また、60歳以降に受け取る年金にも税制優遇が適用されます。

運用商品の選択肢も豊富で、預金、保険、投資信託など、自身のリスク許容度に応じた運用が可能です。長期的な資産形成を考える場合、インフレに備えて分散投資を行うことも検討に値します。ただし、運用にはリスクが伴うため、自身の知識や経験に応じて慎重に判断することが必要です。

NISAは、年間120万円までの投資枠で運用益が非課税となる制度です。2024年からは、より長期の資産形成に適した「新NISA」制度がスタートし、非課税投資枠が拡大されています。投資初心者でも始めやすい投資信託などを活用して、長期的な資産形成を目指すことができます。

特に重要なのは、これらの制度を早期に開始することです。複利効果により、開始時期が早ければ早いほど、同じ投資額でもより大きな資産形成が期待できます。例えば、月額1万円を30年間投資した場合と20年間投資した場合では、最終的な資産額に大きな差が生じる可能性があります。

老後に向けた資産形成と生活設計の工夫

年金制度は安定的に運営される見通しですが、老後の生活をより豊かなものにするためには、年金以外の収入源も確保しておくことが望ましいでしょう。そのためには、現役時代からの計画的な資産形成と生活設計が重要となります。

まず、老後の収支計画を立てることから始めましょう。一般的な老後の生活費は、夫婦二人で月額20~25万円程度と言われています。これに対し、年金収入がどの程度カバーできるのか、不足分をどのように確保するのかを具体的に検討する必要があります。

具体的な取り組みとして以下のような方法があります。

毎月の収支を見直し、固定費を削減する 光熱費や通信費などの見直し 不要な契約やサービスの解約 節約習慣の確立と継続 将来の大きな支出に備えて、計画的に貯蓄を行う 教育費や住宅関連費用の見積もり 緊急時の備えとしての流動性資産の確保 定期的な積立投資の実施住宅ローンがある場合は、繰り上げ返済を検討する 金利負担の軽減効果の試算 返済計画の見直しと最適化 老後の住居費負担の軽減保有資産の見直しを定期的に行い、運用効率を高める 資産配分の適正化 運用コストの見直し リスク管理の徹底健康管理を徹底し、将来の医療費・介護費用の抑制を図る 定期的な健康診断の受診 適度な運動習慣の確立 バランスの取れた食生活の実践

また、働き方の選択も重要です。65歳以降も働き続けることで、年金支給額の増額や追加的な収入が期待できます。近年は、高齢者の就労を支援する制度や、柔軟な働き方を認める企業も増えています。

さらに、家族との話し合いも大切です。特に夫婦の場合、お互いの年金受給見込額や資産状況を共有し、将来の生活設計を一緒に考えることが重要です。また、子どもがいる場合は、介護や相続についても早めに話し合っておくことをお勧めします。

このように、年金制度の理解と活用、私的年金の準備、そして総合的な生活設計を組み合わせることで、より安定した老後生活を実現することができます。重要なのは、現状を正確に把握し、できることから着実に準備を進めていく姿勢です。

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