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『ある魔女が死ぬまで』声優インタビュー連載第8回:メグ役・青山吉能さん×ファウスト役・榊原良子さん |『ある魔女』での収録の思い出は、一生忘れられない大切な宝物に

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2025年4月より放送中のTVアニメ『ある魔女が死ぬまで』(以下、ある魔女)。電撃の新文芸で刊行中の坂先生によるライトノベルを原作とした作品で、呪いによって余命1年を宣告された見習い魔女・メグと、その師匠である魔女・ファウストが過ごす日々が描かれます。

アニメイトタイムズでは、これまで『ある魔女』に出演するメインキャスト陣へのインタビューを連載形式でお届けしてきましたが、その連載も遂に最終回となります。

第8回では、主人公・メグを演じる青山吉能さん、メグの師匠・ファウストを演じる榊原良子さんの再びの対談が実現。

最終回収録時の心境から、『ある魔女』という作品の思い出、死というテーマについての話題まで、様々なお話を聞くことができました。

前回の記事はこちら

【写真】『ある魔女』青山吉能×榊原良子インタビュー【連載第8回】

最終話は、『ある魔女』で初めての未知の物語

――まず、最終話の台本を読まれた時の感想を教えてください。

青山吉能さん(以下、青山):私は、台本よりも先に原作を読ませていただいていたんですけど、第11話って、ちょうど原作の2巻の最後にあたる話なんですよね。(収録時は原作小説3巻の発売前だったため)未知の物語を1ページずつ読んでいくのって、私は『ある魔女』では初めての体験だったので、第12話が一体どんな話になるのかって全く予想がつかなくて。

やっぱりどうやって終わるのかは前々からものすごく気になっていたんですけど、「こういう終わり方をするんだな」っていう納得とか、もっと先の展開が見たくなっちゃったり、いろいろ悶々と考えていたのを思い出します。

榊原良子さん(以下、榊原):その原作2巻の最後のページのところで、エルドラとの会話が一言、二言だけあるんですけど、そのシーンから、彼女が持っている悲しみと苦しみにメグが関係しているんだろうとか、いろんな想像が膨らんでいて。

その前にはファウストとメグの過去も明らかになりましたけど、ファウストって過去をずっと自分の中に閉じ込めていたんですよね。そこからどういう風に物語が展開するのかが、台本をいただいた時に期待していた部分でした。

その上で読んだ時に感じたのが、ファウストは二人をそれぞれの性格に合わせて、形は違えど愛情を注いで育てていて、どちらも大切に想っているということ。二人のナイーブなところには触れないようにもしていたり、一見ぶっきらぼうに振る舞っているけど、すごく繊細なところも持ち合わせている人なんだなと思っていましたね。

――榊原さんはファウストというキャラクターをどのように解釈されたのか、改めてお聞かせください。

榊原:ファウストがメグに何かを伝える時の教えって、実際に自分が学んできたことなんじゃないかなって思ったりしていました。きっとまだ若かった頃は、自分で何度も失敗をしながら成長した経験があると思うんですね。最初からすごかったわけではなく、実は努力の人なんじゃないかなって。

エルドラとのことも、そのうまくできなかったことの一つだと思うんです。エルドラとメグって二人共繊細ですが、メグに対しては繊細な部分も理解した上で、「彼女なら大丈夫」と信頼しているようなところがあるように感じていました。

――メグとファウストの関係性についてはどのように感じられましたか?

青山:もう、ファウストお師匠様の「愛」を、全12話を通して感じ続けてきたお話だったなと。

まぁ、メグの側は結構雑にこき使われて、「クソババア」みたいなとんでもない言葉を使ったりするんですけど(笑)、ファウスト様としては、メグが相手ならそれだけの言葉でも伝わるという二人の強い信頼関係を感じていました。

たまにファウスト様がキツイ言葉を使う時でも、「この子なら大丈夫だ」っていう愛が節々にあふれているんですよね。私自身としては「メグ、もっと大人になりな」と想いながら台本を読んでいました。

こういうちょっと凸凹な感じのコンビって本当に大好きで、まだまだこの二人がやいのやいのやってる姿を見られたらなと思いつつ、メグは一人で旅に出てしまったので、きっとあの時のお師匠様の言葉を、時折思い出したりするんだろうな……と想像しています。

――実際に、最終話まで収録を終えての心境をお聞かせください。

青山:第1話が始まってから「生きる」とはなんなのかという問いを、どのお話でも自分に投げかけていました。それはアフレコやインタビューで榊原さんとお話していてもずっと感じていて。

私は1人の人間として、メグのように目的を持って歩めているだろうか、周りの温かさをしっかりと受け止めていられているだろうか……と、悩みは尽きません。

メグの大いなる旅がこれから始まりますが、メグにとってのラピスのように、自分にとってもこの作品がいつでも初心に立ちかえることのできる場所であったらいいなと思います。

榊原:第10話で、メグの故郷オルロフでの過去の魔力災害のシーンがありました。そして、その後ファウストが幼いメグを抱えて、病院の院長に助けを求める場面ですね。

必死の形相で院長に懇願するところを、「泣き」の演技ではない表現で…… というディレクションを事前にいただいていました。

そこで、私がまだ30代の頃に、洋画の吹き替えで似たような表現を求められた時に、 どうしても「泣き」が入ってしまい、複雑な感情を押し殺した演技が出来ず四苦八苦し、思うようにできなかったことを思い出しました。

その時の記憶が鮮明に残っていて、「この場面」「この短いセリフ」だけは、演じ切らなければと、本番に臨んだことが強く印象に残っています。本番、何もダメ出しがなかったので、「長い年月しっかりと生きていれば、やはりいろいろな物が身になるんだなぁ」と、感慨深いものがありましたね。

――最終話は二人の別れのシーンも印象的でした。どんなお気持ちで演じられましたか?

青山:実は最終話は、第11話から少し時間が空いてからの収録だったんです。本編の内容としてもアクアマリン編が終わり、収録当時はキャスト陣も次の展開を知らない状態だったので第12話がどんなお話になるかドキドキで……(笑)。

Aパートで知らされる真実と、そこからメキメキと湧きあがる決意。ファウスト様の愛のある送り出しにはまたまた涙が出そうでしたが、メグは泣かない子なのでグッと抑え、その笑顔が新たな旅路を明るく照らしてくれたかなと思います。

榊原:ファウストは、エルドラとメグとの関係を、自分が生きている間に何も語らずに墓場まで持って行くと決意していたのですが、過去の魔力災害の真実が明らかになった後、ファウストの心には別の「新たな思い」が生まれていると感じました。

メグの心の広さ、そしてエルドラの深い罪悪感を目の当たりにし、より一層、自分の成した事の重さを感じていたと思います。この先の二人の関係、そして、メグに対して、自分が新たに成すべきこと、それを抱えて生きて行くことにより強い覚悟をもって、臨むつもりだったのではないかと思いました。

将来の漠然とした不安や噴出する問題にも、自分はもっともっと冷静に、もっともっと的確に対応しなければならないと、心に決めているように思いました。変わらぬファウスト独特の態度のままで……。

メグが去っていく寂しさはありますが、「心配しないで。何があっても私はあなたのために、何でもする!」と、心の中で静かに語りかけているのではないか、と感じましたね。

―― 一般的には、TVアニメの最終回の収録ってどんな気持ちになるものなのでしょうか。

青山:やっぱり、一抹の寂しさみたいなのはありますよね。

榊原:そうね、でもだいたいそれが来るのは終わった後、何日か経ってからかな。やっぱり収録が全部終わるまでは、最後まで気を抜いちゃいけないって想いが強いですし、演じる時にノイズになる感情は、作品に持ち込んではいけないと思っているので。

青山:『ある魔女』でのお話をさせてもらうと、第1話の収録の時に「メグ本人は絶対に泣かない」というディレクションがあったのがすごく印象的だったんです。人の死に心を揺さぶられたり、声が震えることはあっても、涙は絶対に流さない。

今回第12話の台本をいただいた時、もう私はボロボロ泣きながらチェックしてたんですけど、それは青山の感情であってメグのものではないんですね。メグはそこにきちんと蓋を出来る強さをもった子だというのは強く意識しながら演じていました。

――最終話のメグのように、故郷を離れるという経験はお二人もされていると思いますが、その時のことを思い出されたりしましたか?

青山:メグの場合、自分の知らなかったことを知るために旅に出るので、夢を叶えるために東京に出てきた私とはちょっと違うとは思いますが、その上でお話させていただくと、当時の私ってなんか浮かれていたというか、本当に何も知らなくて。東京に来さえすれば声優になれると思ってたんですよね。

――分かります。10代の頃のあるあるですよね。

青山:本当に。今思い返すと若いなぁと思うんですけど(笑)。

そこから私自身、「そんなに甘くないんだ」ということを痛いほど思い知りましたし、メグの場合、私とは比べ物にならない覚悟をしてはいると思うんですが、それでも不安や恐怖はあるだろうし、今まで経験したことのない辛い出来事にいつか直面するだろうなと。そういう意味では、昔の自分と重ねられる部分は確かに一部あったのかなと思います。

榊原:私は小学校6年生くらいまで、千葉県の柏市で育って、そこから父の転勤で引っ越してきてから、ずっと東京にいるんですね。

だいたい20年くらい前、今は柏市はどうなっているのか気になって、実際に見に行ったことがありましたが、もう全然当時の面影がなくて。

当時あった民家も、私が通っていた小学校も、流れていた小川も何もなくなっていて、そういう景色を実際に見てしまうと、私にとっての故郷ってどこなんだろうと。

――そうですよね。景色も変わって、知っている人もいなくなったりすると、果たしてそこは「故郷」と言えるのか……。

榊原:そう、だから今は、私の頭の中に浮かんでくる、あの夏の青空こそが故郷なのかなと思っていますね。

本当に空に落ちていきそうなくらい濃い青で、私はそれを野原で大の字になりながら見上げていて。

現実では色々変わっていても、あの頃の故郷の思い出は記憶にずっと残っているので、私が生きている限りはずっと思い浮かべることができますから。

榊原さんにとっての悪役の原点は、マクベス夫人だった?

――収録を通して、メグのセリフはかなり多かったと思うのですが、榊原さんから見た青山さんのご活躍はいかがでしたか?

榊原:これが新人の子だったら“頑張り”だと言えるんですけど、彼女の場合はもうその域はとっくに通り越していて、ベテランに近づいていますから(笑)。その上で、どんな時にもメグそのものであり続けられるパワーのようなものは感じました。

もしかしたら私自身はファウストとしてブレていた時もあったかもしれないと思っていますが、彼女はとにかくブレることが一度もなかったなと。

メグは時々すごい汚い言葉を吐くことがありますが(笑)、青山さんが言うと不思議とまったく下品に聞こえないんです。青山さんの演じるメグは、ぽこんと叩いたりしたいと思わせない、愛らしさのようなものがある。それって本当にすごいことで、そういうご自身の声質や雰囲気は大切にしてほしいと思っています。

青山:ありがとうございます。ただ、メグとしてそれで良かったのか、ちょっと考えてしまうところもあるんです。もしかしたら、もっと品のなさみたいなのを出した方が良かったのかなと。

榊原:いえ、多分青山さんが持っているものと、メグの持っているものって似てるんじゃないかと私は思ってるの。

メグも口ではね、「クソババア」みたいなこと言っているけど(笑)、彼女の心の奥にある聡明さや美しさを引っくるめると、「クソババア」という言葉でも汚く聞こえないはず。

逆に、本当に心が汚い人がどんなに丁寧な言葉を使っても、汚く感じられる時ってあるんですよ。青山さんの声からはそういう汚さみたいなのを感じないから、すごくメグには合っていたんじゃないかなと。

さっきのお話を聞いて、東京でいろんな挫折をご自身が味わったからこそ、地に足をつけた表現ができたのではないかと私は感じています。

青山:ありがとうございます。もうそこまで言っていただいて、本当に嬉しすぎます……。

――青山さんご自身としてはどうですか?

青山:私はそんな自分の心を表現することについて、あまりポジティブに捉えられていなかった部分があって。

素直って、場合によってはいい意味にもなるんですけど、私はどちらかというと、小さい頃から言わなくてもいいことを口にしてしまうタイプで。歳を取るにつれ、自分の気持ちに蓋をするのが癖みたいになってしまっていました。

それはお芝居に対しても同様で、素の自分を出すと怒られてしまうんじゃないかという恐れがあって、最初は蓋をして演技をしていたんですけど、もうダメダメで。それから少しずつ、蓋を開けてみるようにしたら、自分の根っこから出てくるお芝居って荒いんだけど、良さはあるよねって、自分でも思えるようになってきたんです。

――少しずつ自分を出せるようになってきたと。

青山:そうですね。メグに出会ったのもちょうどその最中で、彼女は良い意味での素直さを持っているキャラクターなんですよね。それまで私がなかなか認められなかった部分を、メグに肯定してもらったような気になれて、メグのおかげで自分の蓋を開けるのが怖くなくなってきたところがありました。

あと、私はずっと榊原さんのファンだったので、まさかファウスト様を榊原さんが演じられて、共演させていただけるとは夢にも思っていなくて。ちょっとこう、やっぱり最初は役柄のイメージに引っ張られてしまい、怖い感じの方なのかと思ってドキドキしていたんですよ。

……今思うと、本当になんてことを考えてたんだ、って恥ずかしいんですけど(苦笑)。

榊原:分かる分かる。私も新人の時は本当に先輩が怖くて、ずっと「怖い怖い」って思っていたから(笑)。

青山:でも実際にお会いしたら、本当に柔らかくてユニークなお方で、いろんなお話をお聞かせくださって、本当に収録が楽しみになっていました。

榊原さんとお話したいあまり、早めにスタジオに入っていましたし、当たり前ではあるんですけど、培ってきたものの差がありすぎるので、少しでも吸収したいなって。お芝居に加えて、お人柄も本当に尊敬できる方であることを身を持って感じて、その両軸で引き込まれていきました。

だから、お師匠様と弟子という間柄でご一緒させていただいた『ある魔女』の12話分の収録は、私にとって二度と忘れることはないであろう時間で、人生の宝物の一つになったと思っています。たぶん、私が死ぬ時も走馬灯のようにこの頃の光景が浮かぶだろうと思えるくらい、素敵な思い出をいただきました。

――青山さんが榊原さんのお芝居に惹かれたのは、どの作品だったのでしょうか。

青山:『PSYCHO-PASS』の禾生局長です。ちょうどアニメの放送中が、熊本から上京したタイミングだったんですけど、いろんなところで展示会やイベントをやっているのが衝撃で。もういろんなところに行って、局長のお声を聞いて回っていました(笑)。

榊原:ありがとうございます。本当に怖い役だったけど(笑)。

青山:いやもう本当に、この温かくて柔らかいお人柄からは、あのお声は想像できないですよね……!

榊原:でも学生の頃ね、私はマクベス夫人が得意だったの。反対にオフィーリアとかは柄じゃないと思っちゃって。多分、あれが私にとっての悪役の原点で、ああいう役を演じると、すごく解放された気分になるの(笑)。

青山:やっぱり対極のところにあるからこそ、そういうエネルギーが湧いてくるような感覚なのでしょうか?

榊原:そうね。私、若い頃は太ってたりもして、自分は可愛くないってコンプレックスがずっとあったの。

それを解消したのが30歳くらいの頃で、「可愛さなんて別になくたっていいじゃない」って吹っ切れて、そこから可愛いお芝居もできるようになったのね。だから、そういうコンプレックスが自分の力になることはあると思うの。

コンプレックスに押しつぶされたらダメなんだけど、逆にコンプレックスがあることを、自分の宝だと思うくらいの気持ちでいた方が良いんじゃないかなって。

――榊原さんの演じられる悪役というと、ものすごくカリスマ性のある印象も強いです。

榊原:相手を二度と立ち上がらせないような言葉を隠し持っているような役が多いですね。なかなか言わないんですけど、最後の最後にそれを口にしてくるみたいな役が(笑)。

でもそれは、私自身が言われて傷ついた経験があって、言われた側の気持ちが分かるからこそできているのかなと。言われた当時は辛かったけど、あの時の経験が役立っているのだと今振り返ると思えますね。

青山:そのお話を聞くと、役者って本当にどんな経験でも活かせるものなんだなって改めて感じます。

――そういう意味では、ファウストは強いカリスマ性に加えて、優しさも持ち合わせているキャラクターですよね。

榊原:実際、私がファウスト役をすごくやりたいと思ったのは、私のこの図太い感じで、果たして彼女の優しさを表現できるのかという気持ちがあったからなんです。

今までは本当に冷たい役が多かったから、優しさを表現できるかが心配で、自分の中では「これで出来ていたらいいな」と思いながら、試行錯誤の連続でした。多分、声優は皆そうだと思うんですけど、私も自分の声があまり良くないと思っているんですね。

青山:めちゃくちゃ分かります……! チェックの時とか……。

榊原:そう、分かるでしょ(笑)。人になんと言われようと、自分の声というものはとても気になる。

青山:いや、本当におっしゃる通りで。やっぱり皆そうなんですね。

榊原:でもね、きっとそう感じている人の方が良い表現ができるの。自分に酔っていると見えなくなっちゃうから、そういう気持ちは絶対どこかに持っていた方が良いと思う。

――ファンの人たちからは、いい声だっていう言葉がたくさん来ると思うので、それに流されすぎてはいけない難しさみたいなところもあるんですね。

榊原:そうですね。いわゆる「いい声」って言われる人たちにも、皆それぞれ違った悩みが絶対にあるんです。でも、格好いい声じゃないことを自覚しているからこそ、格好良く聞かせることができているのではないのかなと思います。

――青山さんとしては、どんなところに榊原さんの演技の凄みを感じられましたか?

青山:やっぱりまずは、本当に唯一無二のお声を持たれているところがあって、榊原さんが言葉を発するだけで、セリフに込められたメッセージ性が自然と出てくるんですよね。ちょっとした言葉の中にも、愛情や温かさ、厳しさみたいなものが全部込められているというか。収録で掛け合いをやらせていただいても、言葉が流れていかない重みというか、心の奥底に言葉が刺さるような感覚があるんです。

実際、メグはファウスト様の言葉でいろんな考えや行動のきっかけを得ることが多いですが、メグって結構楽な方に流されやすそうなタイプじゃないですか。そうならないのは、ファウスト様の言葉がそれだけメグの心にも刺さっているからで、このファウスト様の言葉が持つ説得力は、榊原さんにしか出せない表現なんだって感じました。

――セリフや出番が抜きん出て多いわけではないと思いますが、最後まで存在感がすごかったです。

青山:そうなんですよ。回想の中のみ登場する回もありましたが、それでも存在感がとてつもなくて。これは本当に真似できない、榊原さんが培われてきた経験が乗っているからこそなんだろうなと思います。

榊原:それは私自身が両親を介護した経験も大きかったのかもしれません。私にとってはとても辛い経験でしたが、やっぱりその時に「死」や生きることの意味について考えて、少しずつ分かってきたんですね。

私は父と母、両方を看取りましたが、母は心肺停止で脳死の診断が出て、最終的に私が決断をしたんです。その時の私は「奇跡の芽を摘んでしまったのではないか」という罪悪感があって、その後も本当に何ヶ月も悩んでたんですけど、その判断が正しかったか間違っていたのか、それは私が死んだ時に、閻魔様の前に行ったら分かるだろうと。だからそれまでジタバタせず、潔く全部を受け止めるように、残りの人生を生きようと思えるようになりました。

その経験があったからこそ、ファウストを演じる時も色々なことを考えさせられて。フレアおばあちゃんが亡くなってしまうエピソードも、ファウストは既に「死」を自分自身のこととしても受け止められるからこそ言えたセリフなんだろうなと、考えたりもしていました。

「生きる」ということの意味を考えさせてくれた『ある魔女』という作品

――全12話を通して、印象的なエピソードを教えてください。

青山:第8話の、宮本充さんが演じられていたテッドが登場した、悪魔崇拝のエピソードは印象的でした。『ある魔女』って最後は結構ハッピーエンドになることが多いんですけど、彼だけは救えなかったんですよ。

榊原:そう、そうだった。私、「地獄に帰りな」まで言ってしまっていたものね(笑)。

青山:その後、奥さんと娘さんは、アクアマリンで平和に過ごしてるんですけど、テッドだけはそうならなかったのがすごく心の中に引っかかっていて。たまたまなんですけど、実は宮本充さんとは、私がデビューした作品でもご一緒させていただいて、その時も本当によくしていただいたんです。

それから今回、久々にご一緒できて嬉しく思っていたところだったので、まさかこんな結末になるとは……みたいな気持ちがありましたね。

榊原:私もあの回は印象深くて、あの回ってファウストが身体を張ってメグを助けるじゃないですか。もちろんファウストがメグを助けるのは分かるのだけれども、自分の親指を犠牲にしてまでそうしたのは、きっと何か理由があるんだろうと引っかかっていたんです。それからファウストの過去が分かってエルドラも出てきて、ようやく腑に落ちたような気持ちでした。

――最終話まで終えて、『ある魔女』という作品に対して、改めてどんなことを感じられましたか。

青山:とても月並みな言葉になってしまいますが、悔いを残さない人生を送りたいなって感じました。人生の終わりって、どこか先は長いようには感じられるんですけど、きっとそういうのも、意外とあっという間にやってくるんだろうなと。

そう考えると、1日1日を後悔しないようにしたいものの、結構大変なことでもあると思うので、「せめてこの日だけは」「この瞬間だけは」という目標を持ち続けることで、より良い人生を送れるようにしたいと思うきっかけになった作品でした。

あとは、一生懸命に生きることの意味も、『ある魔女』から教わったように思います。

終わりがいつ来るか分からない中で、それでも一生懸命に生きる強さを、メグが教えてくれた気がしています。

榊原:私の人生の最終目標って、“ピンピンコロリ”なんです。多分、この先も生きていると、いろんなことがあると思うんですけど、「それでも目一杯生きよう」と感じさせてもらえた作品でした。とにかく目一杯生きたら、突然死ぬことも怖くないなって。

でも、その上でいっぱい生きようと。70歳近くになって、いろんな病気にかかることもありましたが、それがあったからこそ、もう一回ここから再スタートを切るんだ、という気持ちになれました。

とにかく目一杯生きたら、最後には幸せだったなって。この作品を通して、そう皆さんにも思ってもらえるようなお手伝いができていたら良いなと思っています。

――最後に、『ある魔女』の物語を見届けた、視聴者に向けてのメッセージをお願いします。

青山:『ある魔女が死ぬまで』という作品は、コメディ調には描かれているんですけど、私自身、生きることの楽しさや奥深さみたいなものを学ばせてもらいました。

それが皆さんにも届いて、お母さんとかお父さん、おじいちゃんおばあちゃん、隣に住んでる人でも、周りの人を少しだけ大切にしてみようとか、そういう小さな幸せみたいなものがちょっとずつ伝染していく、そんなきっかけになってくれたら嬉しいなと思います。

榊原:この作品をご覧になった皆さんに、辛いことや嫌なことは生きていたらたくさん起きるけど、それはずっとは続かなくて、いつかは克服できるんだと気づいていただけたら嬉しいです。

さっき、私自身も目一杯生きるとお話しましたが、お父さんやお母さん達もね、大人になっても、いくつになっても皆悩みはありますから。「大人だから頑張らなきゃ」じゃなくて、「ギクシャクしてもいいから、一生懸命生きればいいんだ」っていう風に応援してくれている、そんな素敵な作品だったと思います。

――ありがとうございました。

[取材・文/米澤崇史]

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