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熊本空港アクセス鉄道 県が絞り込みルート案を公表!空港駅は南側敷地外での整備案、2034年度の完成をめざす

鉄道チャンネル

2023年3月23日に供用を開始した、阿蘇くまもと空港ターミナルビル(画像:Pixta)

熊本県は、2025年6月18日の熊本県議会の特別委員会で、空港アクセス鉄道のルートの絞り込み案を公表しました。熊本空港アクセス鉄道は、阿蘇くまもと空港(以下、熊本空港)への熊本市中心部とのアクセス向上のために計画され、いくつかのルートで検討された結果、JR豊肥本線の肥後大津駅を結ぶ鉄道路線が現在の想定になっています。2027年度の着工で、2034年度の完成を目指すとしています。
熊本市内中心部から空港への公共交通でのアクセスの課題を解決するための、熊本空港アクセス鉄道の計画に関して、これまでの経緯と今回の整備案を時系列で、詳しく解説します。

熊本市内中心部から熊本空港への公共交通アクセスと課題

熊本空港から公共交通機関で移動したい場合、現在はリムジンバスか、JR肥後大津駅まで30分に1本程度運行している無料のシャトルバス「空港ライナー」を利用するしかありません。熊本空港から熊本市内中心部の熊本駅へ行くには、空港ライナーでJR肥後大津駅に出れば電車で移動できますが、重い荷物を持って乗り換えが必要なうえ、1時間以上かかってしまいます。
また、朝夕のラッシュ時など遅延が恒常化していること、熊本空港の国内線・国際線利用者は30年後に約2培となる見込みのため大量輸送の課題もあることなどから「定時性・速達性の確保」「大量輸送」を実現できる、空港アクセス鉄道の整備が長らく求められてきました。

1997年から空港アクセス鉄道を調査するも2008年に一度は凍結、そして再始動

2018年度に比較検討された空港アクセス改善策

熊本県は1997年 から、空港アクセス鉄道の調査を断続的に進めてきました。2005年には、JR豊肥本線からの分岐や熊本市電の延伸、IMTS(電波磁気誘導式のバス輸送システム)などさまざまな可能性を視野に調査。
その後、JR三里木駅からの空港延伸についてさらなる調査が進められましたが、豊肥本線の分岐・延伸による空港アクセス整備は多額の費用が必要なのに対し、採算性を確保できるほどの需要を見込めないと判断され、2008年6月に計画は一旦凍結されました。

空港を取り巻く環境が変わり、計画が再始動
その後、2011年に九州新幹線が全線開業したこと、2016年の熊本地震から創造的復興が求められていること、新ターミナルビルの建設やインバウンドの増加などを理由に熊本空港の利用者増加が見込めることなどから、再検討されることに。2018年度には「JR豊肥線の延伸」、「空港と熊本駅を結ぶモノレールの新設」、「健軍電停から空港への熊本市電延伸」といった選択肢が検討され、「鉄道延伸」が最も効果的で、早期に実現できる可能性が高いという結論が出ました。

3つの鉄道延伸ルートから「三里木ルート」を採用

問題となったのが、鉄道延伸のルートです。空港新線の分岐駅は熊本側から菊陽町の「三里木ルート」、同じく菊陽町の「原水ルート」、大津町の「肥後大津ルート」が検討されました。
このなかで「三里木ルート」は、三里木駅と熊本空港の中間にサッカーJ2・ロアッソ熊本のホームスタジアムである熊本県民総合運動公園があることから、中間駅を設ければ、空港の利用者だけでなくサッカーの観戦客も利用できます。2019年2月20日、JR豊肥本線「三里木駅」からの分岐ルートを採用する方向で、熊本県とJR九州が同意しました。

再検討の末「肥後大津ルート」でJR九州と基本合意

このまま「三里木ルート」で計画が進むかに思われましたが、このルートには課題がありました。熊本駅から大分駅までを結ぶ豊肥本線は、肥後大津駅から熊本側が電化区間で、大分側が非電化区間となっています。熊本側を走る電車は肥後大津駅で折り返し運転を行っていますが、三里木駅で空港アクセス鉄道を分岐する場合、三里木駅で乗り換えが必要となり、スーツケースなどを持って移動する旅行客にとっては不便です。
また、試算の結果、想定される利用者に対して採算性を確保できないと判断されたこともあり、「原水ルート」「肥後大津ルート」も再び検討されることになりました。

大手半導体企業TSMCの進出で事態が一変
2021年、台湾の世界最大手半導体企業「TSMC」の子会社「JASM」の半導体製造工場が、菊陽町の工業団地「セミコンテクノパーク」に進出することが決まり、事態が一変しました。人口4万人程度の小さな町に多くの人口流入が見込まれ、自動車通勤による交通渋滞の問題も生じます。「肥後大津ルート」が一気に有利な状況に。2022年12月「肥後大津ルート」でJR九州と基本合意が交わされ、事業化へ向けて動き出しました。

肥後大津ルートでの整備ルートの絞り込み案を公表

「肥後大津ルート」は、熊本空港からJR豊肥本線肥後大津駅までの約6.8kmの区間を結ぶ計画で、2027年度の着工、2034年度末の開業を予定しています。2022年12月時点で大まかな鉄道ルート案が出されていましたが、今回はさらに絞り込んだ案を公表。2022年度の時点で約1.5kmあったルート幅を、約500mに絞り込みました。

鉄道(構造)縦断イメージ。区間ごとの盛り土や高架橋、トンネルなどの計画も示されました

現在想定されている熊本空港アクセス鉄道は、全長6.8kmの全線単線です。肥後大津駅を出て豊肥本線と分岐し、南側へ大きくカーブ。国道57号線を跨ぐかたちで高架橋を使って越えて、大津高校の東側を南下します。白川を渡り、高遊原台地をトンネルで抜けて、空港南側の敷地外に出るルートです。

空港駅は駐車場を挟んだ南側に、地上駅として整備予定

終点の熊本空港駅は、ターミナルビルの地下に直結するのではなく、空港駐車場の南側、敷地外にあたる場所の地上に整備するとのこと。ターミナルに近ければ近いほど利便性が高いところを、敢えて敷地外の地上に整備する理由として熊本県は、空港の南側に2023年4月、東海大学阿蘇くまもと臨空キャンパスが開校したことなどから、将来の発展性が期待できることを挙げています。また、整備費用の面でも大きな差が出るとのことです。
また、敷地外に駅を整備することで空港と駅は駐車場を挟んで120メートルほど距離が生じますが、空中回廊や地下通路での接続を検討。利用者の利便性に配慮しながら計画を進めていくとしています。

大津町に中間駅の設置を検討
空港アクセス鉄道の線路は、上りと下りの列車が同じ線路を走る単線で計画されており、約6.8kmの路線延長となります。熊本県は速達性を向上させるため、路線の中間地点に列車の行き違いができる交換設備を整備する考え。合わせて、大津町で中間駅の設置も検討するとのことです。

概算事業費は物価高騰などを踏まえて見直し

熊本県はこれまで、整備に必要な概算事業費を410億円程度と想定していました。しかし、近年の物価高騰などを踏まえて見直しを行い、需要予測や費用便益分析(かかる費用に対する社会貢献度の評価)、収支採算性の再算定を進め、9月の定例県議会を目標に調査結果を公表する方針です。

熊本空港アクセス鉄道の開業目標は2034年度。まだ先の話ではありますが、開業すれば熊本空港から熊本駅までの所要時間が大幅に短縮されます。より便利で快適に熊本県内を移動できる日を楽しみにしつつ、今後の動向を見守りましょう。
(注釈のない画像:熊本県)

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