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【特集】データから世界を見る「データサイエンス」 企業でも教育でもこれから必須に?

にいがた経済新聞

日々の売上、顧客の声、商品の動き──DXやAIの普及などにより、身の回りのあらゆる「数字」が収集可能になり、そこから次の一手となるヒントを導き出すことができるようになった。得られる膨大な情報から知見を見出す「データサイエンス」は、都市部だけでなく地方の中小企業でも重要性が高まっている。データがソリューションをもたらすのはマーケティングだけではない。作業の効率化や職人的な暗黙知の数値化など、「数字」からの気づきはあらゆる業種・業界で今後さらに活用は進むだろう。そして、こうした社会の要請を受け、教育機関でもデータ人材を育成する学科の設立が近年相次いでいる。

今回は、ビッグデータを活用して企業や自治体の課題を解決するINSIGHT LAB株式会社と、地域医療へのソリューションを提供する株式会社コルシー、そして2026年度に「健康データサイエンス学科(仮称、認可申請中)」を新設する新潟医療福祉大学へインタビューし、データサイエンスの現場と人材に期待されるスキル、そしてこれからの展開を追った。

目次

◎INSIGHT LAB ビッグデータ活用のスペシャリスト
◎コルシー データサイエンス×医療で医師の偏在解消を
◎新潟医療福祉大学 全国でも珍しい「健康」データサイエンス学科の設置へ

INSIGHT LAB ビッグデータ活用のスペシャリスト

INSIGHT LAB・事業推進部の黒岩淑香部長。同社の「新潟研究開発センター」には立ち上げから関わり、現在は新潟大学大学院で非常勤講師としても活動している

「データサイエンスはただの分析手法ではなく、企業が意思決定をする際の精度を高めるための手段」だと話すのは、INSIGHT LAB株式会社(インサイトラボ、東京都新宿区)事業推進部の黒岩淑香部長

INSIGHT LABは、データ活用によって企業や自治体の課題解決やDXに取り組んでいるIT企業。2020年6月には新潟市に「新潟研究開発センター」を設置し、県内でも多くの企業のDXに携わっている。特にデータ基盤の構築やデータ可視化の面で強みを持つが、さらに分析やAI活用に至るまで、データサイエンスに関わるほぼすべてを一貫して支援できる体制を築いている点が特徴だ。

また、顧客企業の状況や課題に合わせてチームを組む点も強みの一つ。黒岩部長によると「社内にデータ基盤やデータ可視化などそれぞれの部門があるが、そのチームに縛られず、お客様の課題に対応できる最適なチームをプロジェクトごとに編成している」という(写真はINSIGHT LAB本社で撮影)

データサイエンスは、単に集めたデータを分析すればよいというものではない。黒岩部長は、都内のあるアパレル会社での事例を紹介する。

「その会社はデータ活用を積極的に推進するチームを立ち上げたが、当初はデータが部門ごとに分断された状態(サイロ化)していた。そのため『データを意思決定に活かす』というデータサイエンスの本質に至るまでに、データを統合したり、整えたりという複雑な工程があった。そこで弊社では、データの基盤を新しいものに置き換えることで無駄な工数を削減することに取り組んだ」(黒岩部長)。データ活用のためにシステムを導入したり、部門ごとにアプローチを取っていても、会社全体としてはデータを活用しづらいという事例は多いという。データを利用しやすい形に整えることもデータサイエンスでは重要になるのだ。

近年、AIが急速に普及しているが、それを支えているのも大量のデータであり、いかに活用しやすく整備されているかも大切だ。黒岩部長によると「AIのパフォーマンスを最適化するには、取り入れるデータの質が重要。特に社内に貯まったデータを活用したAIを使う場合、データの構造などによってもアウトプットの精度が変わる」という

同社は地方でも取り組みを進めている。例えば2022年には、新潟県三条市から委託を受けて市内中小企業のDX支援を開始。紙の日報をデジタル化することで業務の中の課題を抽出し、作業の効率化を図る。「都市部と比べて地方では課題がより明確で、課題を解決したいという(地域の人の)思いも強い。データ分析をするためのデータ整備や、データを扱える人材の育成も重要で、そこへ携わることができることにやりがいを感じる」と黒岩部長は語る。

データ活用の最前線を走る同社。だがデータサイエンティストに必要なのは、IT系のスキルだけではないという。「もちろんPythonなどへの理解は必要だが、データ活用以前に、お客様が何を解決したいのか、データから何を導き出すのか、そして結果をお客様に伝えるというビジネスコミュニケーション力も重要」(黒岩部長)。データ分析の現場では、顧客が自覚していない課題が浮き彫りになることも少なくない。対話を通じて課題を引き出して設定する実践力が、実務の中では重要になる。

コルシー データサイエンス×医療で医師の偏在解消を

コルシーの堀口航平代表取締役社長は群馬県高崎市の出身。新潟大学大学院を卒業後、医療系人材紹介のエムスリーキャリア株式会社などを経て、2018年1月に現・コルシー代表契約医師の佐野宏和氏とともに同社を創業した

一方で医療分野に特化し、地方の医師不足や診療科偏在という日本の医療課題にデータの力で挑むスタートアップ企業が株式会社コルシー(群馬県前橋市)だ。県内では新潟駅前のイノベーション拠点「NINNO」や新発田市に拠点を構える。同社は全国の医療機関から日々送られてくる心電図のデータを判読し、その結果と所見を医師に提供するサービス「CORSHY」を展開している。

地方の病院では医師の人手不足が深刻化しているが、さらに現代においては医師の専門化が進み、特定の分野の医師を揃えることができない点がこれを加速させている。各医療機関でも、心電図の判読が追いつかないケースや、専門の医師がいないという課題がある。オンラインで心電図のデータを集めて判読し、フィードバックする仕組みで地域医療の問題の解決を図るのがこのサービスだ。

「病院は専門が細分化しており、医療が進歩するほど1人の医師が診察できる範囲は狭くなっていく。本来は1つの病院に様々な診療科の先生がいて助け合うのが理想だが、現代はそうはいかない地域が出てきている」と熱弁するのは、コルシーの堀口航平代表取締役社長。こうしたなかで、医師の足りない分野がある病院を、インターネット上で専門医のチーム(コルシーのスタッフ)と繋ぐことで補おうというアイデアだ。同社には、全国の100近い医療機関から月間約10万件もの症例が集まるという。

堀口社長はコルシー起業前、地方で医師を確保する仕事にも関わったが、「2年間、大手のパワーを持ってしても実績ゼロのような地域もあり、人を動かすことの限界も感じた」と当時を振り返る。こうした経験から、デジタルの活用による医師不足解消へ目を向けた(写真はコルシーが収集している心電図のデータ)

堀口社長は、「近年は起業する医師が増えているとともに、医療とITなどの分野の間の溝も急速に埋まってきている」との見方を示す。「医師は『人を救いたい』というのが原点にあるが、そのアプローチの方法は自分が目の前の患者を救うことだけではない。製薬や医療制度を作ることも医療だし、私たちのようなIT企業も『医療をやっている』と言えると思う」

また、定期的に医療機関ごとの診察データを分析し、フィードバックしている。医師や患者、診察の状況などによって生じる診断のブレを抑える。「医師や病院ごとのトレンドなど、様々なファクターで分析し、医師や医療機関にフィードバックしている。医師は経験や感覚を元に判断するが、標準化することで正確な判断を支援する」(堀口社長)。こうした分析はまさに、データサイエンスの領域だ。

また堀口社長は、データ解析によってこうした医師の「職人的な感覚」が解析されていくことにも期待を寄せているという。「心電図では正常な波形でも医師が『胸騒ぎ』を感じ、実際に検査すると病気が見つかることがある。この『胸騒ぎ』の言語化が課題で、医師のノウハウや直感の裏付けができていない。これは医療だけではないと思うが、職人的な勘を言語化・具現化していくことがデータサイエンスに求められる」。

専門家による集合知を作り、どこでもアクセスできるようにすることで全国の医師と医療機関をバックアップする体制を作り出したコルシー。「医師はジェネラリストではなくエキスパート。しかし、このエキスパートのリソースが行き届かないことが問題。医師をジェネラリストにできるのがITやビッグデータの力ではないかと思っている」(堀口社長)。

新潟医療福祉大学 全国でも珍しい「健康」データサイエンス学科の設置へ

2026年度に「健康データサイエンス学科(仮称、認可申請中)」を新設する新潟医療福祉大学

データサイエンスの需要が高まるとともに、人材の不足も目立ちはじめている。前出のINSIGHT LAB・黒岩部長は「データリテラシーを持った人材が不足しているのはどの地域でも共通の課題で、特に関東と比べると、地方は学ぶ機会や情報を受け取るチャンスが少ないと感じている」との見解を示す。前述のようにデータサイエンスに重要なのは課題への洞察力や仮説を立てる力。IT系の学校がそのままイコールになるわけではない。

こうした状況から、大学などでデータサイエンス系の学科を設ける動きが加速している。新潟県内で来年度・2026年4月に設置を予定しているのが、新潟医療福祉大学(新潟市北区)の「健康データサイエンス学科(仮称、認可申請中)」だ。

データサイエンスは分野の垣根を超えて様々な業種・業態で活用されており、前出のコルシーも医療分野の企業だが、教育機関においては経済やビジネス関連の学科が多い。同大学のデータサイエンス学科は県内では初となる「健康」の冠が付いており、全国的にも類似するのは順天堂大学の「健康データサイエンス学部」のみだ。

新潟医療福祉大学健康データサイエンス学科設置準備室の松岡弘樹氏

「健康データサイエンス学科(仮称、認可申請中)」の学びの中核は、基礎的なデータサイエンス知識と、それを応用するための実践的なスキルの取得の両立にある。1〜2年次ではプログラミングや統計学、数学といった土台を固め、3〜4年次で医療・福祉・スポーツ分野の専門性を身につけるカリキュラム構成となっている。

同学科の大きな特徴は「医療を学ぶ他学科の存在」だと設置準備室の松岡弘樹氏は語る。「本学では、チーム医療をキーワードに、各学科が連携して医療の現場を学んでいくプログラムがある。そこへデータサイエンスの立場から関わっていきたい。医療系や福祉系の学科にとっても、データサイエンスのような他分野と関わって仕事をしていくのは、価値のある経験になると思う」。学科間の連携により、現場の課題をデータから読み解き、データをもとにした解決策を提案する実践型の学びが期待される。また、そうした場でのコミュニケーションの取り方を学べる点も実践ならでは。

同大学はスポーツが盛んな点も特徴。同大学では、強化指定クラブとして15のスポーツ種目を指定してトップアスリートの育成に取り組んでおり、多くのプロスポーツ選手を輩出している。そういった強化指定クラブと連携して試合や選手のデータから戦略を提案していくような関わり方を現在考案していると松岡氏は解説する。

珍しい点で言えば、同大学はeスポーツに関する教育展開を検討している。趣味性が高いと思われるeスポーツだが、例えば高齢者施設での活用により認知症予防などの貢献が期待されており、そうした分野にも「eスポーツを活用して貢献していきたい」と松岡氏は語る(画像は新潟医療福祉大学のwebサイトより)

松岡氏は、データサイエンス人材にとって大切なのは「好奇心」と「根気強さ」だと話す。「社会の目に見えない現象を見える化するとどうなるんだろう? と考えられることは重要。興味のある分野を分析して、それが社会に響けばビジネスチャンスになる。あとは根気強さ。課題解決に向けた分析を開始しても、地道な検証が必要なので、めげずに頑張れる人が向いている」

一方で、1〜2年時には基礎から学べる構成となっており、裾野を広げている。「もちろんデータサイエンスを専門的に学んできた高校生は少ないと思うが、PCでデータを扱う授業も充実しているし、本学の学修支援センターにも数学が苦手な学生へのサポート体制がある。『工学系が苦手』だとか、『文系だから』という理由で諦めてほしくはない」(松岡氏)。

進路については、「この大学の特色を生かすなら、スポーツ分野ならスポーツチームやスポーツ関連企業・団体、医療分野なら病院や医療関係施設、製薬会社、福祉分野なら高齢者施設や福祉施設など、様々な選択肢がある」と松岡氏は話す一方で、「社会的にDX化が叫ばれており、どんな業界でもIT使える人材が必要とされている。自分の興味ある分野で幅広く就職先を探せると思う」という。

コルシーの堀口社長も「やはり学科を選ぶ際に『医療に関わりたいけど、様々な面で医師になるのは難しい』と考える学生はたくさんいる。そうしたなかで、データサイエンスという選択肢も存在することは、学生にとっていいことだ」と期待を寄せた。

人口減少化にある日本、特に地方ではほかのDXと同じく、データ活用による効率化や暗黙知の共有が重要になっていくことは間違いない。それとともに、「データサイエンティストだけではなく、ビジネスパーソンにもデータから知見を得る力が必要」との見方も松岡氏は示す。少なくとも現在、AIなどを使いこなすためにもITやデータに関するリテラシーは必須のスキルとなり始めている。

データ収集のツールも日進月歩で進化している。日常のあらゆる動きが数値化されるとともに、データサイエンスで分析できる事柄も今後さらに増えていくだろう。何を解析するか、どこに課題を見つけるか、という問いの力もより重要になっていく。

今回紹介した先駆者たちのつくる道がどのようになっていくか。それを見守るだけではなく、自ら進んでみることが必要だろう。

【関連リンク】
INSIGHT LAB webサイト

コルシー webサイト

新潟医療福祉大学 webサイト

新潟医療福祉大学 健康データサイエンス学科(仮称、認可申請中)ページ

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