子どもの「困った行動」を引き起こす食事の正体 「低血糖」「栄養不足」を専門家が徹底指導
朝しんどくて起きられなかったり、急に怒ったりするといった子どもの行動は、血糖値の急上昇・急降下が引き起こしているケースがあります。血糖が身体に与える影響や、血糖コントロールの重要性、避けるべき食事について栄養療法の専門家・野口由美先生が解説します。
「スマホを3時間以上使う子ども」成績は平均以下? スマホ利用が学力に与える悪影響を脳科学者が解説「朝起きられない」「不安で落ち着かない」「かんしゃくをよく起こす」といった子どもの行動に、悩んでいる親もいるでしょう。どうにか治そうと病院や専門家を頼ったけれど、なかなか改善しない……と、途方に暮れている方もいるかもしれません。実はこのような行動は、普段、何気なくとっている食事が引き起こしている場合もあります。「食べる物や食べ方に気をつければ、改善できる可能性があります」と、栄養療法の専門家である野口由美先生は言います。本連載では、子どもの困った行動につながるNGな食事について解説します(全2回の1回目)。
普段の何気ない食事が問題行動を引き起こす?
私たちの身体は食べたものでできているといわれますが、最近では、体調不良だけではなく、パニック障害などの精神的な疾患も栄養不足が関係していることがわかってきています。具体的にどのような症状を訴える子がいるのか、野口先生は次のように話します。
「当クリニックを受診される子どもの中には、『いじめなどはなく、学校に行きたい気持ちはあるのに、朝起きられず、不登校になってしまう』『玄関や校門までは行くものの、その先に行こうとすると急にドキドキしてきて動けなくなる』など、さまざまなケースがあります。
そのような子に普段どのような食事をしているかを聞くと、朝食を抜いていたり、菓子パンなどで朝ごはんを済ませていたりと、食事に問題があることがほとんど。実際に血液検査を行うと、低血糖、タンパク質や鉄欠乏といった結果が見られます。つまり、栄養トラブルが関係しているのです」(野口先生)
栄養と“困った行動”の関係性
栄養トラブルの中でも、困った行動と関連しているのは低血糖と栄養不足の2つだと、野口先生は続けます。
「低血糖と栄養不足は相互に作用していますから、それぞれへの対策が必要です。しかし、まず行うべきなのは低血糖対策です。低血糖を改善しない限り、栄養を補充しても症状は良くならないからです。
そもそも血糖とは、血液中に含まれるブドウ糖のこと。ブドウ糖は、脳や筋肉のエネルギー源として利用される栄養素です。
『ブドウ糖が足りない=エネルギー不足』なので、頭が働かなくなったり、身体も思うように動かせなくなったりします」(野口先生)
大人でも、仕事をしていて夕方になると頭がボーッとしてきて、甘い物が欲しくなることがあります。こうしたときは、まさに低血糖状態に陥っている状態です。
「低血糖になると、頭にも筋肉にもエネルギーがいかなくなりますから、次のような症状が現れます。
<低血糖になると見られる症状>
・頭がボーッとする
・一つのことに集中できない
・話を聞いていても眠くなる
・頭に霧がかかったような感じがする
・難しいことを言われると、思考がストップする
・朝起き上がることができない
・じっと座っていられない
・しんどくて、学校まで歩くことができない
低血糖は、感情にも影響をもたらします。低血糖になると、身体はホルモンの一種であるアドレナリンの分泌をうながし、血糖値を上げようとします。
アドレナリンが分泌されるときというのは、緊急事態のようなモード。たとえば突然、熊やライオンに遭遇した場面を想像していただくと理解しやすいでしょう。『戦うか、逃げるか』という緊急事態ですから、一瞬で身体に緊張が走ります。
そのため、ドキドキして汗をかいたり、頭に血がのぼってイライラしたり、不安や恐怖を感じることがあります。次は、低血糖によるアドレナリン分泌で起こる感情にまつわる症状です」(野口先生)
<低血糖によるアドレナリン分泌で起こる症状>・先生にあてられると、緊張して異常に汗をかいてしまう
・勉強でわからないことがあると、パニック状態になる
・夜中にドキドキして目が覚めて、不安でたまらなくなる
低血糖になってしまう原因とは?
低血糖になってしまう原因を野口先生に聞くと、「食事の間隔を空けすぎていること」「血糖値を急上昇させるものをとっていること」の2つだそう。これらについて、さらに先生は解説を続けます。
NGな食事①「食事の間隔を空けすぎている」
血糖値は食事をすると上がりますが、時間の経過とともに下がります。ですから、一食抜いたり、食事と食事の間隔を長時間空けるだけでも低血糖になります。
そのうえ、食事を抜くとお腹が空くので、次の食事では早食い・ドカ食いをしたり、血糖値を上げようと糖質中心のものを選びがちに。すると血糖値は急上昇しますが、反動でその後血糖値はグンと下がり、再び低血糖に陥ってしまうのです。
NGな食事②「血糖値を急上昇させるものを食べる」
①でも説明した通り、血糖値は急上昇すると、その後急降下し、低血糖を引き起こします。そのため、血糖値を急上昇させるものをとることも、低血糖になる原因の一つ。血糖値を急激に上げる代表的な飲食物は次のとおりです。
<血糖値を急上昇させる飲食物>
1 砂糖
2 小麦粉
3 牛乳
4 コーヒーなどカフェインを含むもの
5 アルコール飲料
現代は、コンビニやファストフード店がいたるところにあるので、クッキーやチョコレート、ドーナツ、甘いジュース、ジャンクフードなどを常食している子も少なくありません。これが、結果的に低血糖を引き起こしています。
たとえば、「食欲がない」「時間がない」などの理由で朝食を抜き、昼食時には、お腹が空いたからとドカ食いや早く食いをする。夕方になると小腹が空いて菓子パンを食べる……というような食事をしていませんか? これらは、まさに低血糖を引き起こす食事といえるのです。
砂糖と小麦粉を使ったお菓子は、血糖値を急激に上げるのでなるべく避けることが大事です。 写真:maruco/イメージマート(イメージ写真)
まずはきちんと3食食べよう
ここまで、低血糖を引き起こす原因について教えていただきましたが、低血糖を防ぐにはどのような食事をすれば良いのでしょうか。
「何よりもまず、規則正しく3食食べることが重要です。それでも症状が改善されない、少量しか食べられないといった場合には、食事と食事の間に、栄養を補うための食事・補食をとると良いでしょう。
補食には、鶏そぼろや卵そぼろの一口大おにぎり、お味噌汁、葛湯、甘栗、干し芋、焼き芋、黒豆などの煮豆、ゆで卵、りんごやみかんといったフルーツがおすすめです。また、骨付き肉をねぎや生姜、にんにくなどと煮出して作るボーンブロススープも栄養価が高いので良いでしょう。
補食としてNGなのは、ファストフードやスナック菓子、小麦粉や砂糖をたくさん使ったお菓子です。
ポイントは、お腹が空く前に食べること。これらの補食をこまめに取り入れると、血糖値が安定し、不安やイライラ、身体のだるさなども落ち着いてきます」(野口先生)
血糖コントロールは少しずつ取り組もう
低血糖対策を行ううえでは、その子のペースに合わせて少しずつ取り組むことも大事だと先生は言います。
「それまで甘いお菓子や甘いジュースをとるのが習慣になっている子は、いきなり『やめなさい!』と言うと、かんしゃくを起こすことがあります。実はこれも、低血糖の症状の一つなのですが、この場合は無理やり取り上げなくてもOK。補食を取り入れていくと、血糖値が安定して、甘い物を自然と欲しなくなるはずです。
また、そもそもご飯を食べたがらない子もいますが、これも低血糖でエネルギーがなく、腸管が働いていないことが原因かもしれません。それで、ご飯を欲しがらないのです。
何も食べたくないという子には、少量のりんごやみかんなどを食べさせてあげてください。すると、腸管が動き出し、食欲が出てくるでしょう」(野口先生)
親は子どものことを思えば思うほど、焦ったり、子どもに無理強いをしてしまいがちです。しかし、「初めから完璧を目指さず、ゆったり取り組んでいってください」と野口先生。
第2回では、実際にどのような栄養素をどれくらいとったら良いのか、具体的な食事法について解説していただきます。
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◆野口 由美(のぐち ゆみ)
医学博士(大阪大学)。日本医学放射線学会放射線診断専門医。日本抗加齢医学会専門医。
関西医科大学卒業後、関西医科大学附属病院内科などでの勤務を経て、九州大学病院心療内科へ。そんな中、自身の病気が発覚。療養の経験から、西洋医学にさまざまな補完代替医療を組み合わせた統合医療クリニック「クリニック千里の森」を開設。栄養療法やバッチフラワーレメディなどを用いて、薬に頼らない医療を提供している。
取材・文/阿部雅美