世界から注目された山口市 伊藤市長に現状・今後を聞く
2024年の国内は、元日に発生した令和6年能登半島地震、その翌日に起きた羽田空港での航空機衝突事故と、衝撃的な出来事が相次ぎ、暗いムードの中でスタートした。だが、1月9日に米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が発表した「2024年に行くべき52カ所」において国内で唯一山口市が紹介されたため、地元は湧き立った。全国的に注目も集め、テレビ番組でもたびたび特集が組まれるように。また、5月には米ニューヨーク・マンハッタンで開かれた「ジャパンパレード&ストリートフェア」に初参加。さらに11月には、スイス観光賞の文化遺産部門を受けるなど、山口市への注目度はこれまでになく高まっている。市の現状と今後について、伊藤和貴山口市長に聞いた。
(聞き手/サンデー山口社長 開作真人)
―あけましておめでとうございます。昨年は、新年早々山口市が世界中から注目を集め、驚きました。
伊藤 NYT紙やスイス観光賞など、本市が国内外からスポットを浴びました。これは、長い歴史の中で、先達の方々から受け継がれてきた「西の京」としての文化や街のたたずまい、そしてそこに住む皆様の日々の営みの豊かさを評価いただいたものと認識しています。市民の皆様におけるシビックプライドの醸成につながる、一つの良いきっかけになったのではないでしょうか。
新市誕生から今年で20年
―今年は「平成の大合併」による新山口市誕生から20年を迎えます。
伊藤 本市は、2005年10月1日、旧山口市、旧小郡町、旧秋穂町、旧阿知須町、旧徳地町の1市4町の対等合併により誕生。さらに2010年には旧阿東町が加わり、現在の形になりました。合併後は、20年代に本格的な人口減少局面に突入すると予測された中で、「将来の人口減少局面にあっても発展する都市づくり」および「一定の人口減少が進む地域にあっても安心して暮らし続けられる地域づくり」を目指してきました。
―具体的には、どのような施策を?
伊藤 真っ先に取り組んだのは、後者の農山村を始めとした21地域づくりです。住み慣れた場所で安心して暮らせるよう、市内21地域全てに地域づくりや防災の拠点となる地域交流センターを設置。さらには、農産物等の販売・交流拠点となる道の駅などの機能強化、コミュニティ交通の構築などを行いました。また、「地域づくり協議会」を全ての地域に設置。地域が主体的に使い道を決定できる地域づくり交付金を創設するなど、”地域のことは地域で解決できる”山口らしい地域づくりを進めてきました。その結果、「農山村等における人口の転出超過を抑制する」との目標を達成しています。
―では、前者の「都市づくり」についてはいかがでしょうか。
伊藤 まず、まちづくりの命題だった、新幹線の停車駅であるJR新山口駅周辺のポテンシャルを発揮させるため、駅の南北自由通路および駅前広場、隣接地へのKDDI維新ホールの整備など、これまでに900億円を超える投資を行いました。その結果、合併以降の新山口駅の乗車人員数は増加に転じ、小郡地域の人口もこの20年間で約3000人増えました。そして、駅周辺の商業地基準地価が、2021年から4年連続で県内1位の上昇率を記録するなど、交流人口の拡大や地域経済の活性化に大きな効果が発揮されています。
―小郡都市核に続いて、山口都市核の整備に取り組まれています。
伊藤 市本庁舎および周辺整備を始めとした中心市街地の活性化、湯田温泉こんこんパークの開設を含む湯田温泉の再生整備が本格化しているところです。歴史・文化や昔ながらのまちなみ、都市型温泉である湯田温泉など、このエリアの魅力が海外からも高く評価されている中、更に磨きをかけたいと思います。
―市民生活についてはいかがですか。
伊藤 待機児童解消に向けた保育園等や放課後児童クラブの定員拡大、子ども医療費の段階的な無料化、さらには福祉に関するあらゆる悩み事を丸ごと受け止める身近な相談窓口「やまぐち『まちの福祉相談室』」の開設など、旧町単位では実現困難だった市民サービスを実現することができました。
人口は、当時推計を約6000人上回る
―合併効果として、他にはどのようなことがあげられますか。
伊藤 2020年の国勢調査における本市の人口は、合併当時の国の推計を約6000人上回りました。人口減少対策として、一定の成果が現れているものと考えています。合併時に想定していた人口減少局面にいよいよ突入しつつある中、「若者の大都市圏への転出超過の抑制」「子育て世代からさらに選ばれるまちづくり」「農山村エリアの転出超過の抑制」は、引き続きの課題だと考えています。また、この20年間に、本市も2度の大きな災害を経験しました。市民の生命や財産を守る防災・減災対策にも注力すべきだと認識しています。
―昨年9月には、秋穂二島地域で5日間にわたる大規模な林野火災も発生しました。
伊藤 延べ面積37ヘクタールを焼損しました。山口県消防防災航空隊および自衛隊による空中消火、地域の消防団員による献身的な消火活動、さらには地域の皆様のご支援で、人的被害や民家への延焼もなく無事鎮火できました。「関係機関との連携」、そして「地域における共助の力」の重要性を、改めて感じたところです。
姿を現した新本庁舎 窓口サービスは5月から
―新築工事中の市役所新本庁舎棟が姿を現し、どのような施設になるのか気になっている市民も多いと思います。
伊藤 新本庁舎整備の1期工事となる新本庁舎棟は、昨年末までに仮囲いも取れ、その姿をはっきりとご覧いただけるようになりました。外観の特徴として、各階に設けた白い水平のひさしが、背後にたたずむ白い垂直の塔を持つ山口サビエル記念聖堂と呼応し、山口市のアイデンティティを空間的に高めるものとなっています。内部では、議会フロアに徳地の名産である滑(なめら)松や大内塗を使用。また、トイレや会議室などを示す案内プレートに徳地和紙を用いるなど、山口の地域資源を各所に取り入れています。機能面では、従来と比較して、一次エネルギー消費量を50%以上削減する ZEB Ready(ゼブ レディ)の認証を取得しており、環境負荷を低減する建物となっています。
―われわれが実際に利用できるのは、いつからでしょう。
伊藤、窓口サービスの開始は、5月上旬を予定しています。住所異動、出生、死亡、婚姻等ライフイベントに関連する各種手続きや証明書の発行がワンストップで完結する「書かない、待たない」窓口になります。
―駐車場等の整備はどうなりますか。
伊藤 立体駐車場、市民交流棟、広場については、現庁舎の解体後、2期工事として順次進めることとしています。豊かな自然と共生する憩いの場でありながら、周辺地域への回遊性が図られ、新たなにぎわいや交流を創出する場の整備を進めていきます。
―周辺地域とどう「繋がる」のか、お聞かせください。
伊藤 行政、文化、教育、商業、人材育成機能等の集積を図り、暮らしと賑わいを支える都心形成を進めていきます。パークロードは、市役所広場との連続性などに配慮した道路改良を検討中。早間田交差点は、歩行者動線を確保するため、交差点の平面横断化に向けた改良を考えています。さらに、駅通りと中心市街地およびその周辺については、「居心地が良く歩きたくなるまち」を形成する「まちなかウォーカブル」を推進しています。亀山周辺と中心市街地といった特性の異なる2エリア間の回遊性を高めるためにも、これらは重要な取り組みです。
外国人宿泊客は過去最多 「次の旅の目的地に」
―山口市の知名度が国内外で高まりましたが、今のところ、オーバーツーリズムになっている国内他都市に比べますと、米国や欧州からの観光客の増加人数は少ないように感じます。外国人など、今後の観光客増に向けた取り組みについて、お聞かせください。
伊藤 湯田温泉の宿泊施設からは「週末の予約は満室が続いている」という声を、新山口駅周辺のビジネスホテルからは「ビジネス客以外に観光客の利用が増えた」との声も伺っています。また、湯田温泉旅館協同組合によると、昨年1月から10月までの外国人宿泊者数は約1万2000人で、対前年比で約3600人・42%増加しました。そのうち欧米からの宿泊者は1300人で、500人弱・57%増と聞きました。したがって、昨年1年間の外国人観光客数は、過去最多となる見通しです。
―過去最多ですか。
伊藤 「外国人を見かけることが増えた。特に欧米の人とまちで出会うことが多くなった」と耳にするようになりましたし、わたし自身も欧米からの観光客を湯田温泉や香山公園などでよくお見掛けするようになったと感じています。急激な観光客の増加ではなく、徐々に増えているという状況であり、NYT紙で紹介された「西の京」としてのまちの魅力や人々の温かみなどを、ゆっくりと楽しんでいただけると感じています。
―今年は、さらに来訪者が増えそうですね。
伊藤 4月から10月まで大阪・関西万博が開催。また、2026年秋の山口県におけるデスティネーションキャンペーン(DC)を前にプレDCが開かれるなど、多くの外国人観光客を誘客できる機会が続きます。世界に誇る歴史文化、多彩で美しい自然など、本市ならではの観光資源を磨き上げ、万博への出展やプレDCにおける大都市圏等でのPR、海外での現地プロモーションなど、さまざまな機会を捉えた積極的な情報発信に取り組みます。既に多くの外国人観光客が訪れている東京や京都、お隣の広島県等から、次の旅の目的地として本市に足を運んでいただけるよう、誘客促進を図る考えです。
昨年2月、生成AIを業務に導入 直近2カ月の利用は約2000件
―昨年2月、生成AIを業務に導入されました。
伊藤 最初にワーキンググループを立ち上げて、実証利用による検討を重ねました。その上で昨年2月、既存の業務用チャットツールに機能を追加する形で、生成AI「ChatGPT4・0」を本格導入しました。利用に当たっては、個人情報の保護や著作権、生成された情報の真偽や根拠の確認等に留意する必要があるため、ガイドラインを作成。職員に周知した上で活用を進めています。
―どの程度利用されているのでしょうか。
伊藤 直近2カ月、昨年10月16日から12月15日までの使用実績は、2026件でした。
―成果として感じられることは?
伊藤 例えば、「複雑で長い文章を市民の皆様に分かりやすい形に要約する」「文章の校正」「エクセル等表計算ソフトのプログラム作成・修正」など、これまで時間をかけて職員が取り組んでいた作業において、かなりの業務効率化を図ることができています。
―一方、課題にはどのようなことが挙げられますか。
伊藤 生成AIに対する指示や質問が適切でない場合は、期待する水準の回答が得られないことがあります。使い方を学んでいくことが重要だと認識しており、有効活用事例を適宜作成して周知も図っていきます。
―これからの活用についてはいかがでしょう。
伊藤 職員の業務効率化という観点でも、一人一人が生成AIの特性を理解し、その上で積極的に活用。そこから市民サービスの充実につなげていきたいと考えています。デジタル技術は日々大きな進化を遂げています。例えば、スマートフォンで市民からの相談対応を24時間365日受け付けるなど、サービス向上に資するツールの一つとして、生成AIが様々な分野で活用できることを期待しています。