アートの最前線へ ― 「アートフェア東京2025」で出会う新たな才能(読者レポート)
アートフェア東京が、東京国際フォーラムで始まりました。(会期は3月6日から3月9日まで)
開会式
本アートフェアは、今年で19回目となる、国内で最大級かつ国際的なアートフェアです。
出展するギャラリーは139軒で、古美術、工芸、日本画、洋画、現代アートまで、幅広いジャンルの美術作品が展示されます。
展示風景
展示は、「ギャラリーズ」、「クロッシング」、「プロジェクツ」の3つの展示セクションに分かれています。
それでは、各セクションから現代アートの若手作家を中心に、数点ずつ紹介します。
ギャラリーズ
骨董から現代アートまで、時代やジャンルを超えた作品が展示されます。昨今のアートマーケットの成熟ぶりと複雑性を体験できます。また、ベテラン作家の新作や、新進作家の挑戦的な作品も見られます。
高瀬栞菜(イムラアートギャラリー)
地下2階の会場の出入口を入ってすぐの場所に高瀬の作品はあります。左側のガラスの壁の反対側にも作品があるので、まわり込んで見て下さい。
展示風景
画面中央で曲がりくねっているオレンジ色の線は「矢」です。後ろのカーテンの間には、飛び交う「矢」が見えます。青色のソファの周りにいる2匹の犬はソファで「休む矢」を見ていて、下側の犬は睨んでいるようにも見えます。
矢尻の先から涙と汗を流している「矢」は働きすぎの人々を表し、2匹の犬は冷たい社会の比喩かもしれません。「矢」も私たちも、時折は休憩が必要という、作家のメッセージでしょうか。
高瀬栞菜《休む矢》
寺内誠(ギャラリー広田美術)
軽やかで、明るい画面の作品が並んでいます。描かれているのは植物の花や葉のようです。色の輪郭がシャープなので、制作について聞いたところ、いろいろなテクニックを使い分けているそうです。
寺内によると、「実物を見ると、絵の具の厚みや凹凸感がよくわかります。ぜひ会場で見てほしいです。」とのことです。
展示風景
Tomohiro Takahashi(MAHO KUBOTA GALLERY)
Tomohiro Takahashiは、ぬいぐるみをモチーフにした、とても可愛らしい作品を制作します。黄緑色の怪獣が描かれた《Painting #2》は、いかにも彼らしい印象ですが、その左側の《SUGER FREE》は、あまり見かけない題材で描かれています。
Tomohiro Takahashi (左から)《SUGER FREE》 / 《Painting #2》
《SUGER FREE》には、白熱するオークションの場面が描かれています。価格は、通貨ではなく、果物や野菜で表示されています。
これは、昨年、彼の作品が実際にオークションに出品されたことをきっかけに制作されました。自身の作品がオークションで、取引されることに対する複雑な気持ちが「平和な爆弾」として、皮肉を込めて表現されています。
Tomohiro Takahashi《SUGER FREE》
葛西由香(GALLERY MONMA)
GALLERY MONMAは、札幌の旭ヶ丘の住宅街にあります。所在地は札幌ですが、国内に限らず、海外で活発に活躍する道内作家も取り扱っています。
展示風景
葛西は「札幌のギャラリーまで見に来ていただくのは大変ですが、アートフェア東京なら、気楽に来ていただけると思います。そこで気に入った作品があれば、次はぜひ札幌まで見に来てくれると、嬉しいです。」と話してくれました。
展示風景
クロッシング
数百年の伝統と各地の文化を伝える地方の工芸団体や百貨店の美術企画などの展示が見られます。陶芸、漆芸、染色、金工、ガラス工芸など、見どころが多いです。
寺澤季恵(金沢卯辰山工芸工房)
金沢卯辰山工芸工房は、加賀藩御細工所の精神と役割を受け継ぎ、伝統工芸の継承、発展並びに伝統産業の振興を目的としています。
寺澤は、本工房の研修生です。
展示風景
ごく細いガラスで作られた、シャボン玉のような作品です。とても綺麗な作品ですが、無機的な印象を持ちました。このような作品を通して、寺澤は、“生命は豊かなもの”というメッセージを届けようとしています。腐敗や死から「生」を感じ取ろうとする寺澤にとって、生命と非生命の境界は限りなく曖昧なもののようです。
展示風景
松木桃子(香川県漆芸研究所)
香川県の漆芸は彫りの技術と色漆の使用が特徴です。松木は、そのような特徴を活かし、生活で使える器を制作しています。
展示風景
展示作品は、実際に手で触れ、持ち上げることもできます。その手触りの良さと軽さは、驚くほどです。
松木は「ぜひ会場で漆の良さを体験してほしい」と話してくれました。
展示風景
プロジェクツ
新進アーティストの個展、グループ展が開催されます。比較的新しいギャラリーが多めです。
道又蒼彩(aaploit)
道又は、自分を含め、社会の中の居場所や現在地を模索する人々に関心があるようです。作品に見られる他者との距離感は、微妙な共感を誘います。作品の並べ方に決まりはないので、上下左右を入れ替えるとストーリが変わります。解釈に幅のある楽しみ方ができる作品です。
展示風景
おわりに
その他にも、アートフェア東京は見どころが満載です。展示場所のうち「ギャラリーズ」セクション(地下2階)は、有料ですが、「クロッシング」と「プロジェクツ」のセクションがある地下1階は無料で鑑賞できます。
丸の内か銀座に出かける予定があれば、少し足を伸ばし、アートフェア東京で最新のアートに触れてみてはいかがでしょうか。
みぞえ画廊
江上越 大丸松坂屋百貨店
アートコートギャラリー
ギャラリー椿
KOGEI Art Gallery 銀座の金沢
大雅堂
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2025年3月7日 ]