奄美大島・児童養護施設で性教育 産婦人科医が「コンドームの使い方」を教えるワケとは
性教育について、奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生に取材。島唯一の児童養護施設の子どもたちへ行った理由や抱える問題、本当に役立つ性教育の内容など(全2回の1回目)。
見る➡男の子の「精巣トラブル」 停留精巣・遊走精巣・陰嚢水腫・鼠径ヘルニア…泌尿器科医が解説奄美大島で、園児から高校生まで、幅広い年齢層の子どもたちに「本当に役立つ性教育」を伝える産婦人科医の小徳羅漢先生。
小徳先生の次なる活動の場所は、奄美大島に唯一ある児童養護施設「白百合の寮」。今回は、児童養護施設で性教育を行った理由と問題について話していただきました。
児童養護施設で性教育を実施した理由
──今回は、島唯一の児童養護施設「白百合の寮」でも性教育を実施されたことについて聞かせてください。そのきっかけは何だったのでしょうか?
小徳羅漢先生(以下、小徳先生):私はもともと「お産ができる総合診療医」を目指して、奄美大島で離島医療に従事していました。しかし、産婦人科医として患者さんと向き合う中で、子宮頸がんや子宮体がん、若年妊娠、10代の梅毒感染など、現実にはさまざまな問題があることを痛感したのです。
子宮頸がんや若すぎる妊娠など多くの問題で、最終的に苦しむのは女性たちです。産婦人科医として何かできることはないかと考えたときに、最も必要なのは「性教育」だと強く感じました。
正しい知識を教えない社会の問題もある
──なぜ、性教育が必要だと考えたのでしょうか?
小徳先生:近年、赤ちゃんを授かっても育てる環境が整わず、親子ともに苦しい状況に追い込まれてしまうニュースが後を絶ちません。育児の孤立や経済的な困難から、十分なケアを受けられなかったり、最悪の場合、虐待につながってしまうこともあります。
しかし、これらの出来事は決してママだけの責任ではありません。むしろ、ママたちを十分にサポートしなかったり、「自分自身や子どもを守るための知識」を教えてこなかった社会や大人の側に、大きな問題があると感じています。
特別支援学校での性教育が激しいバッシングを受けたこともあった
──日本は海外と比べて、性教育が大きく遅れていると聞きます。
小徳先生:はい。しかも、文部科学省による「歯止め規定」(※注1)の影響もあり、学校での性教育が制限されがちです。
過去には、特別支援学校でわかりやすい教材を使って性教育を行った教員が、激しいバッシングを受けて、裁判にまで発展したケースもありました。
このような出来事が続いた結果、教育現場はますます萎縮し、子どもたちが性に関する正しい知識を得る機会が奪われています。その結果、知識がないまま大人になり、望まない妊娠や性感染症など、負の連鎖が生まれてしまっています。そんな現状を何とか変えたいと思いました。
(※注1)歯止め規定とは、中学校の保健体育で「受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わない」と定めた学習指導要領の規定です。一般的に、「妊娠については教えても、セックスについては教えない」ルールと解釈されています。
生まれた子どもが再び母と同じ施設へ行くことも
──児童養護施設で育った子どもたちに性教育が必要な理由を教えてください。
小徳先生:児童養護施設で育ったママやパパの多くは、幸せに出産して家庭を持ち、子育てをしています。ただ一方で、十分なサポートを得られずに妊娠・出産を迎え、生まれた子どもが再び児童養護施設で育つというスパイラルが、一部で起きているのも事実です。
それは、児童養護施設で育ったママやパパには、特有の困難さや課題を抱えていることがあるからです。 例えば、経済的な事情で預けられ、保護者や養育者との関係が構築できていない人も多いことが挙げられます。
産婦人科医として診察室で出会った児童養護施設出身のママたちは、妊娠を告げると本当に幸せそうな笑顔を見せてくれます。
でも、いざ出産すると、さまざまな理由で子どもを育てられないケースを何度も目にしました。そんな現実を前に、産婦人科医として何かできることはないか、とずっと考えていたのです。
相談相手がいなくて1人で問題を抱え込んでしまうケースも
写真:maruco/イメージマート
──具体的な課題について教えてください。
小徳先生:児童養護施設で育ったママやパパの中には、妊娠・出産にまつわるトラブルや、予期せぬ健康上の問題が起きたときに、十分なサポートを受けられない人もいます。
児童養護施設にいる間は、職員が一人ひとりの子どもたちに寄り添い、親身になってケアをしてくれます。でも、施設にいられるのは原則18歳まで(最長22歳)(※2)。18歳になると、多くの子が施設を出て、自立しなければなりません。
施設を出てからも職員とのつながりが続くこともありますが、予想外の妊娠や産後のトラブルが起きたときに、誰にも相談できず、一人で問題を抱え込んでしまうケースも少なくないのです。
(※2)2024年に改正児童福祉法が施行され、児童養護施設や里親家庭で育つ若者のサポートについて、年齢上限(原則18歳・最長22歳)は撤廃されました。
病院の受診にもさまざまなハードルが
「性教育の授業では、『ケガや病気をしたら、病院に行く』という、基本的なことから話
をしました」(小徳先生)。 写真提供:小徳羅漢
小徳先生:また、生理や妊娠の悩みは、実の親子でも相談しにくいものです。ましてや、児童養護施設で育った子どもたちが体調に不安を感じたとき、異性の職員には話しづらく、病院を受診するにもさまざまなハードルがあるのが現実です。
だからこそ、彼ら・彼女らが自分の身を守るために、病院の受診の仕方や、性に関する基本的な知識をしっかり身につけてほしい──。そんな思いで、性教育の活動を続けています。
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海外に比べて遅れていると言われる日本の性教育。十分な教育がないことから、望まない妊娠や性感染症などの問題に直面するケースも少なくありません。
そんな悲しい問題を少しでも減らしたいと奮闘する小徳先生。2回目では、児童養護施設で行った性教育の内容を詳しく教えていただきます。
取材・文/横井かずえ