【富山・金沢】一年に一度、まちが工芸一色に染まる。「GO FOR KOGEI 2025」【岩瀬エリアをレビュー】
金沢の東山エリアと富山の岩瀬エリアの2カ所で同時開催される工芸の祭典「GO FOR KOGEI 2025」が、2025年9月13日(土)〜10月19日(日)まで開催されています。
アート好きから街歩きが好きな方にまでおすすめしたいこのイベントに参加し、岩瀬エリアを散策してきたのでご紹介します。
松本勇⾺《スカイネッコ》2025 と、アーティスティックディレクターの秋元雄史さん
「GO FOR KOGEI 2025」は、2020年が初開催の工芸のイベント。
北陸にゆかりのあるアーティストを中心に国内外のアーティストも参加し、まち全体を使って作品を展示します。
今年のテーマは「工芸的なるもの」。
「工芸の周辺という意味合いで、このテーマを設定しました。そのため、有形のもの(工芸品)はもちろんのこと、作家や職人が素材・技術と向き合う態度や、それらが作り出す多様な暮らしの姿など無形のものも感じてほしいです」と話すのは、「GO FOR KOGEI」の アーティスティックディレクターを務める秋元雄史さんです。
作家の松本勇馬さんと《スカイネッコ》2025
岩瀬のシンボル、富山港展望台の横に佇むのは、松本勇馬さんによる《スカイネッコ》。
一見すると大きな猫ですが、猫からするとここは狭い空間。
身を潜めるように落ち着く姿が、どこか愛らしく映ります。
松本勇⾺《ムウ》2025
旧林医院の前には、松本さんの作品《ムウ》が展示されています。
病院に行く際に子どもが駄々をこねる様子を牛にたとえ、童⼦が牛を引いている姿を表現しているのが印象的です。
これらの2作品は、地元の人々と総勢106人で力を合わせて作り上げました。
夏の日中は暑いため、早朝や日が落ちてから作業を進め、ようやく完成にたどり着いたそうです。
わらで作られ屋外に設置されているため、時間とともに変化していく表情にも注目したい作品です。
近年は動物を題材にした作品が多いという松本さん。
特に、わらで毛並みを表現する手法がしっくりくるのだそうです。
そんなわらで表現された顔や手、おしりの丸みに温もりを感じながら、ぜひ鑑賞してみてください。
葉⼭有樹《⿓孫皇帝図》2024、手前のコマと樽は舘⿐則孝作品
岩瀬インフォメーションセンターのある桝田酒造店 満寿泉では、葉山有樹さんと舘鼻則孝さんの作品に出合えます。
葉山さんによる、本展初公開の《龍孫皇帝図》は、アルミ複合板に圧着してタイルのように仕上げた作品。
青と白で表現された龍と皇帝は力強く、どこか神聖な雰囲気をまとい、桝田酒造店 満寿泉のブランドイメージともよく響き合って感じられます。
舘⿐則孝×桝⽥酒造店《Masuizumi Bottle Art》2025
1階には、舘鼻則孝 x 桝田酒造店のコラボレーションによる《舘⿐則孝×桝⽥酒造店 Masuizumi Bottle Art》が展示されており、ショーケースの中にはコラボデザインの現代アートを施した酒瓶が並びます。
実際に桝⽥酒造店の日本酒が入っているそうです。
舘⿐則孝《ディセンディングペインティング "雲⿓図"》2024
街に溶け込み、昨年の作品に今年の作品を重ねていくことでも知られるこのイベント。
昨年も人気を集めた《ディセンディングペインティング "雲龍図"》が、今年も床⾯全体を使って展開されています。
酒蔵ならではの木に染みついたふくよかな香りと現代アートの融合は、何度見ても新鮮。
舘⿐則孝《ヒールレスシューズ》2025
さらに、米国歌手レディー・ガガに愛用されたことで世界的に知られる舘鼻さんの代表作《ヒールレスシューズ》も展示され、圧倒的な存在感を放っています。
作家のアリ・バユアジさんと《One Eyed Rangda》2023
桝⽥酒造店から歩いてすぐの「セイマイジョ」で展⽰されているのは、インドネシア出⾝のアーティスト、アリ・バユアジさん。
アリさんはバリ島に流れ着いたプラスチック製の⿂網を集めてほどき織ることで新たなテキスタイル作品を作り出しています。
今回の展⽰では、コロナ禍のパンデミック時に制作した、バリ・ヒンドゥー教の神話に登場する魔⼥「ランダ」をモチーフにした作品を中⼼に展開。
プラスチックは⼈間に多くの恩恵をもたらしましたが、⼀⽅で重⼤な環境問題にもなっています。
ランダの⻑い⾆にある鏡には鑑賞者自身の姿が映り込み、「世の中で起きている悪いことに、自分も無関係ではないのでは?」と問いかけてきます。
怖さとかわいらしさが同居し、まるで息づいているかのような存在感を放つ作品です。
サエボーグ《サエポーク(吊り豚)》
旧岩瀬銀行の2階で出会えるのは、富山県生まれのサエボーグさんの作品です。
ラテックス素材のパーツを切り出し、接着剤でつなぎ合わせ、空気を入れたボディスーツを吊り下げた《サエポーク(吊り豚)》などを展示した牧歌的なランドスケープが広がります。
その横では、インスタレーションを行った際の映像も上映されています。
サエボーグさん
一見楽しげに見える光景であればあるほど、そこには徹底的に管理された家畜の「生」あるいは「性」をめぐる人間社会のメタファーが潜んでいます。
ジェンダーや介護、生命の再生産や消費といったテーマを、痛烈に批評する作品です。
桑⽥卓郎《プランター》2025 ポリエチレン
蕎麦の名店として名高い「酒蕎楽 くちいわ」のお庭には、桑田卓郎さんの《プランター》が展示されています。
桑⽥卓郎 展⽰⾵景
さらに、「GO FOR KOGEI 2025」の開催期間中には、「うつわと楽しむ蕎麦屋の新しいスタイル」として、桑田さんのうつわでお料理を提供する特別メニューを予約制でいただけるとか。
イベント⾵景「うつわと楽しむ蕎⻨屋の新しいスタイル」
「盛りにくい形のうつわもあるけれど、そういったところも含めて現代アートとそばというクラシックな料理との出会いを楽しんでいただければと思います」と語るのは、くちいわの店主・口岩倫彦さん。
他にもアーティストたちによるさまざまな表現の作品が、まち全体に散りばめられる特別な一カ月間。
ぜひこの機会に岩瀬を訪れ、工芸の息づく街歩きを楽しんでみてください。
GO FOR KOGEI 2025
場所富山県富山市(岩瀬エリア)、石川県金沢市(東山エリア)
開催日2025/9/13(土)〜10/19(日)
時間10:00-16:30(最終入場16:00)
休場水曜
料金共通パスポート:一般2,500円、学生2,000円
各インフォメンションセンター岩瀬インフォメーションセンター:桝田酒造店 満寿泉(富山県富山市東岩瀬町269)
東山インフォメンションセンター:HATCHi 金沢 by THE SHARE HOTELS(石川県金沢市橋場町3–18)
駐車場【岩瀬エリア】富山港展望台(10台・無料)、岩瀬カナル会館(75台・無料)
【東山エリア】東山観光駐車場(15台・有料)
公式webサイト( https://2025.goforkogei.com/ )
この記事のライター
岩井なな(いわいなな)
富山県黒部市出身のインタビュアー・フリーライター。ライフワークはおしゃれホテル滞在で、年間全国100施設以上を訪問。北陸と東京の2拠点生活をしながら、全国各地のグルメ&おしゃれな名店を発掘するフードライターとしても活動する。