ジョーダン・ルーデス「精神的な準備こそが、最高の演奏を可能にする」ドリーム・シアター『PARASOMNIA』インタビュー
ヤング・ギター3月号掲載ドリーム・シアター(DT)大特集のWEBインタビュー第2弾。ラブリエのメール・インタビューに続いては、“鍵盤の魔術師”ジョーダン・ルーデスのインタビューをお届けしよう。こちらもラブリエ同様、本来はメールでの質問に記述形式で回答いただく予定だったのだが、どうやら先方から返送されてきた内容を確認する限り、その場でパブリシストが質問を読み上げ、ルーデスが口頭で答える…というスタイルで以下のインタビューは行なわれた模様。よって、先のマイアングやラブリエとは趣を異にする、“生きた言葉”による回答を得ることができた。
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7/8拍子で頭をかきむしるようなセクションがあったら、私が関わっている可能性が高い
YG:DTは2025年に結成40周年を迎えますが、あなたが加入してからもすでに四半世紀以上が経過しています。当時から豊富なキャリアを持ち、いくつものバンドから共演を望まれていたあなたが、1つのバンドでこれほど長く活動を続けられた要因は何だと思いますか?
ジョーダン・ルーデス(以下JR):(バンド加入以降のキャリアは)DTとの長い旅だった。彼らは偉大なプレイヤーであるだけでなく、責任感があり、自分達の仕事に真剣に取り組む善良な人々だ。そんな現代のトップ・ミュージシャンとバンドを組めることを幸運に思っているよ。バンドを成功させるためには、バンド・メンバー以外にも多くの要素が必要で、私達の組織は常に堅実で生産的だった。これらのことが、私がここでの25年間を楽しみ、繁栄させる状況を作り出したんだ。
YG:DTでは通常、曲作りは楽器隊のメンバーがジャムるところから始まります。最新作『PARASOMNIA』のどの曲やパートが、主にあなたのアイデアに基づいて作られたのでしょうか?
JR:そうだな…、DTのようなバンドでは、曲作りのプロセスはアイデアの渦の中に入っていくようなものなんだ。誰が何を始めたのか、はっきり覚えているのは難しい。でも、私は間違いなくたくさんのアイデアをその中に提供している。特に複雑に聴こえたり、7/8拍子で頭をかきむしるようなセクションがあったら、それは私が関わっている可能性が高い(笑)。私の役割は、パズルのピースをテーブルの上に置くことだと思っているんだ。
YG:本作のようなコンセプト・アルバムでは、音を通してイメージを喚起させることが重要で、実際、『PARASOMNIA』では映画音楽を彷彿とさせるアレンジや構成が散見されます。あなたが好きな、あるいは影響を受けた映画音楽作曲家というと?
JR:私はトーマス・ニューマン、ダニー・エルフマン、ヴァンゲリスといった作曲家が大好きなんだ。大編成のオーケストラ曲は私の頭脳から生まれることが多いけど、ジョン・ペトルーシとのディスカッションがきっかけになることも多い。ジョンが「ここで何かオーケストラ的なことをやったらどうだろう?」と提案してくれて、そのアイデアを実現させるためにクリエイティヴな道を歩むことになる。ジョンが大局的なヴィジョンを提供し、私がそれを実現するために細部に取り組むことが多いんだ。
YG:「Midnight Messiah」の5分45秒辺りで、ギター・ソロ(タッピング)と思われる速いハーモニーのフレーズがあります。左チャンネルのフェイザー・エフェクトのパートはペトルーシ、右チャンネルはシンセでよろしいですか?
JR:そうだよ。上手くブレンドして、クールでロックなサウンドになるように心掛けたんだ。我々にとってユニゾンはとても大切にしているスタイルだよ。
YG:このアルバムにはオルガン、シンセ、ピアノなど様々なキーボード・サウンドが使われています。これらの音の選択について、プロデューサーであるペトルーシから細かい指示がありましたか?
JR:キーボード・サウンドの多くは、私のイマジネーションと長年の経験から生まれたものだ。とはいえ、ジョン・ペトルーシはプロデューサーとして、キーボード・アレンジを形作る上で重要な役割を果たしている。特にキーボード・パートは重要な部分で、音楽のスタイル的な方向性に影響を与えることが多いので、私達は非常に緊密に協力しているよ。ジョンが、ある特定のヴァイブやテクスチャーを試してみることを提案してくれることがあるんだ。またジミー・Tという素晴らしいエンジニアがいて、私達が創り出すサウンドスケープのニュアンスを捉えるのに貢献してくれている。このアルバムでは、アナログ・スタイルのシンセやその他のテクスチャーに傾倒し、音楽にユニークな個性を与えている。“Minimoog”を持ち出して楽しんだりもしたよ! 私がよく使うサウンドと実験的な試み、そしてバンドの総合的なヴィジョンのバランスが取れているんだ。それは常にチーム・ワークの賜物であり、そのダイナミックさがプロセスをエキサイティングでやりがいのあるものにしているんだ。
YG:ペトルーシは『A DRAMATIC TURN OF EVENTS』(2012年)からバンドのアルバム・プロデュースを担当し、最新作でプロデューサーとして6枚目のスタジオ・アルバムとなります。サウンドのクオリティを含めて、彼のスキルは時間の経過と共に明らかに向上していると感じますが、プロデューサーとしてのペトルーシをどう評価していますか?
JR:ジョンはプロデューサーとして素晴らしい仕事をしている。彼はディテールに対する素晴らしい耳を持ち、各アルバムのサウンドやフィーリングに対する明確なヴィジョンを持っている。何年もかけて、彼は最高のパフォーマンスを捉えるだけでなく、我々がバンドとして書く音楽を完璧に引き立てるプロダクション・スタイルを作り上げるという点で、本当に技術を磨いてきた。ジョンの最大の強みは、音楽の技術的側面と感情的側面のバランスを取る能力だ。彼は常に、楽曲のハートが損なわれないようにしながら、最高のサウンドを実現するために私達を後押ししてくれる。バンド・メイトとしてもプロデューサーとしても、音楽と深く結びついている人と仕事をするのは刺激的なプロセスだよ。そして、これまでの結果が物語っているように、どのアルバムもサウンド的にもクリエイティヴ的にも一歩前進しているように感じるね。
YG:あなたは現在68歳ですが、いまだにキーボードの魔術師としてトップを走り続けています。レコーディングでもライヴでも、DTの高度にテクニカルなフレーズを演奏するとなると、20代の頃とは準備の過程が違うのではないかと想像しますが、実際はどうですか?
JR:何年もかけて、準備とは単に音を練習することではなく、自分の考え方を準備することだと学んだんだ。もちろん、私のウォーム・アップのルーティンは、効率を重視し、私達の音楽の要求に対して肉体的に準備万端な状態にしておくことに重点を置いて進化してきた。だが最も大きな変化は、ショウの前に正しい精神状態になる方法を理解したことなんだ。5万人の前で演奏しようが1,000人の前で演奏しようが、私は自分自身を中心に置き、最も困難な瞬間であってもステージに集中力と自信をもたらす方法を学んだ。技術的な習得も重要だが、精神的な準備こそが、プレッシャーの中で最高のパフォーマンスを可能にするんだよ。
YG:ところで、あなたはSNS上で定期的にギターを弾いている動画を公開しており、常に上達していることが分かります。あなたのシグネチュア・ギターである“Boden JR Sorcerer”もストランドバーグから発売されていますが、そのユニークな仕様について教えてもらえますか?
JR:気づいてくれてありがとう。私もギターに深く関わることができて最高だよ! “Boden JR Sorcerer”には、私が大好きな機能がたくさん搭載されているんだ。“Sustainiac”ピックアップは無限のサステインを生み出すことができるし、ミカ・ティースカによるカスタム“Sorcerer”インレイは唯一無二のルックスをもたらしてくれる。それに軽量で快適なチェンバード・ボディ、人間工学に基づいたストランドバーグのエンディア・ネック、キラー・トーンを生み出す“SSH+”ブリッジ・ピックアップ…、万能でインスピレーションに溢れ、演奏するのがとにかく楽しいギターだよ。この楽器に対するギター界の反応を見ていると、信じられないような気持ちになるね!
YG:ギターを弾くことでどのようなインスピレーションを受けますか? それはDTの新しいアルバムに何らかの影響を与えていますか? また、今後DTのステージでギターを弾く可能性は?
JR:リフについての考え方が変わったし、作曲へのアプローチの仕方にも間違いなく影響を与えた。ジョンがやっていることや、ギター・パートが全体像の中でどのようにフィットしているかをより深く理解できるようになったんだ。私がDTのステージでギターを弾くことに関しては……まあ、ジョンは私がキーボードの後ろにいるのを望んでるんじゃないかな(笑)。正直なところ、それが一番いいのかもしれない。私はギターを個人的な創作活動の場として楽しみ続け、ステージでのシュレッダーは巨匠に任せるつもりだよ。
YG:これでインタビューは終わりです。ありがとうございました!
JR:素晴らしい質問をありがとう!
(インタビュー:平井 毅 Takeshi hirai Pic: Mark Maryanovich)