NHK紅白歌合戦の中森明菜「I MISSED “THE SHOCK”」その姿はため息が出るほどの美しさ!
紅白で歌った「I MISSED “THE SHOCK”」
“Best Performance on NHK 紅⽩歌合戦” における「I MISSED “THE SHOCK”」は、昭和最後の年を飾る、中森明菜のパフォーマンスが見られる貴重映像だ。放送は1988年12月31日、『第39回NHK紅白歌合戦』である。中森明菜は連続6回目の出場で「I MISSED “THE SHOCK”」を歌った。
といっても他の出場回に比べ、ちょっと意外な選曲である。過去5回の歌唱曲を見ても、いずれ劣らぬその年の代表作であり、大ヒット曲ばかりである。常に派手なパフォーマンスやパワフルな楽曲、あるいはドラマチックな作品が選ばれているのだが、「I MISSED “THE SHOCK”」はこの年の11月1日にリリースされたばかりの新曲なのだ。
ファンはともかく、まだ世間に浸透していない段階において『紅白』で歌われたことが珍しいのだ。当初は、前作の「TATTOO」が歌唱曲の候補に挙がっていたところ、明菜本人が「I MISSED “THE SHOCK”」を歌うことを熱望したのだという。『紅白』の歌唱曲は、この時代NHK側が決めることが多かったので異例のケースといえるだろう。
1980年代後半の明菜サウンド
この「I MISSED “THE SHOCK”」は中森明菜22作目のシングルで、シンガーソングライターの福士久美子がQUMICO FUCCI名義で作詞・作曲を手がけており、アレンジは前作の「TATTOO」に続きEUROXが担当している。
EUROXは元TAOの関根安里らを中心としたバンドで、ニューウェイヴ的なサウンドながら関根のバイオリンをフィーチャーした独特の音楽性に根強いファンがいる。明菜が1986年に発表した異色アルバム『不思議』も共同プロデュースしており、彼らのニューロマンティック的で妖艶な音作りは、1980年代後半の明菜サウンドの1つの軸であった。
タイトな打ち込みの音、起伏の少ないメロディーながら、明菜の歌唱法はAメロでは淡々と、Bメロではアクティヴかつ官能的に歌い上げ、全体に冷ややかな手触りの中、主人公の孤独と絶望が浮かび上がるかのようだ。後半に向かってサウンドは分厚くなり、「♪I MISSED “THE SHOCK”」のフレーズが何度もリピートされていくうちに、歌声は次第に熱を持ちはじめ、聴き手を巻き込んでいく。前半のクールさと終盤のエモーショナルな表情の対比が鮮やかで、メロディー、サウンド、歌唱法のいずれも中森明菜の新境地と呼べる楽曲だ。
異質な素材をぶつけ合う明菜のパフォーマンス
本番での中森明菜は、トップアイドルひしめく中での7番手で登場。大きな王冠を被り、ヨーロッパの王女のようなデコラティブな衣装を纏っている。そのビジュアルに加え、あまり動きのないパフォーマンスはオルゴール人形のようで、表情を動かさずに淡々と歌い上げる姿は、ため息が出るほどの美しさである。
ブルーのライティングを基調に、背後の壁面には何十台ものモニターが配され、都会的でクールな演出がクラシカルな衣装と独特のマッチングとなっている。「DESIRE -情熱-」での着物&ボブのカツラ、「TATTOO」でのジャングルビート&ボディコン衣装など、あえて異質な素材をぶつけ合う明菜のパフォーマンスがここでも活かされているのだ。
レコード音源と同じく、何度も何度も「♪I MISSED “THE SHOCK” 」のフレーズを繰り返しながら、最後は 「♪SHOCK!」と一言でバッサリとカットアウトする様が、むちゃくちゃカッコいい。歌唱は全体的にあっさりとした印象もあるが、逆に衣装のインパクトは絶大だった。視聴者もこういうタイプの中森明菜は新鮮だったのか、『紅白』出演後、すなわち翌1989年に入るとセールスが伸び始め、結果として1988年にリリースした「AL―MAJI」「TATTOO」よりもセールスは上回った。
ここまで6回連続の出場を果たした中森明菜も、いったんこの年で出場記録が途切れる。ちなみに松田聖子や小泉今日子など、1980年代のアイドル戦線を競った仲間たちもこの年を最後に、一度『紅白』の舞台を去っている。単に昭和最後の年という区切りだけでなく、一つの時代の終焉を目前にした、シンガーたちの輝きがこの年の『紅白』にはあった。