「加藤和彦の音楽性の再評価に繋がってほしい」ーーザ・フォーク・クルセダーズなどで活動した音楽家の功績を映画とライブで辿る
2009年にこの世を去ったミュージシャン、加藤和彦の作品をよみがえらせる『加藤和彦トリビュートコンサート』が7月10日(水)にロームシアター京都メインホール(京都)、7月15日(月)にBunkamuraオーチャードホール(東京)で開催される。
加藤和彦は1960年代にザ・フォーク・クルセダーズのメンバーとしてデビュー。1967年発表「帰って来たヨッパライ」では実験的な音楽性で衝撃を与え、翌年「イムジン河」(作詞:朴世永/作曲:高宗漢)の日本語詞版では発売中止騒動が起きるなど、日本の音楽史にさまざまなトピックスを打ち立てて来た。以降もサディスティック・ミカ・バンドの一員として活動したほか、竹内まりやらの楽曲もプロデュース。
同公演では、小原礼、奥田民生、田島貴男、高野寛、坂本美雨、ハンバート ハンバート、GLIM SPANKYらが出演し、それぞれの演奏で加藤が手掛けた数々の楽曲を振り返っていく。
また、そんな加藤の音楽的な功績をさまざまな証言で辿るドキュメンタリー映画『トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代』が5月31日(金)より全国公開。加藤の愛称「トノバン」がタイトルに付けられた同作にも、加藤が音楽家としていかなる変化を遂げていったかなどが映し出されている。
同映画のメガホンをとった相原裕美監督は、加藤の音楽性について「すごく革新的。「帰って来たヨッパライ」からサディスティック・ミカ・バンドまでなんて(音楽的に)つながらないですし、そのあいだに「あの素晴しい愛をもう一度」(北山修と共作)も手掛けています。いずれも自分のオリジナリティがある」とさまざまな驚きがあると語る。
ちなみに相原監督自身は加藤のことをそれほど詳しくなかったため、撮影前には関連書籍を読み、周辺人物にも取材。映画にはきたやまおさむ(北山修)やつのだ☆ひろ、泉谷しげるらのほか、当時のプロデューサーや家族ぐるみで関係のあったコシノジュンコが出演。「僕は「帰って来たヨッパライ」と、サディスティック・ミカ・バンドと、「ヨーロッパ3部作」(1979年から1981年)くらいしか知らなかった。だけどあらためて話を聞いていくと、とてつもなく新しいことをやっている人なんだなと感じました。それは音楽はもちろんのこと、洋服などにも表れているのではないでしょうか」と興味が湧いたと話す。
一方、作品のなかでは加藤の人間性は追わなかった。あくまで音楽家としての加藤に迫るようにしていたそうで、「この映画の目的は加藤さんの音楽に対する再評価。というのも、サディスティック・ミカ・バンドでご一緒なさっていた高橋幸宏さんが、「加藤さんはもっと評価されてもいいのにな」とおっしゃっていて、それについてずっと考えていたんです。そこで自分のなかでも「なるほど」と感じるものがあり、いろいろリサーチしてあらためて「加藤さんの音楽ってすごいんだ」と思って、この映画を撮り始めたので。ただ、新しいこと、人がやらないことにとらわれているかのように進んでいらっしゃったところが、加藤さんの魅力だとは思います」と語った。
相原監督は、この映画を「音楽を目指している人たちに観てほしい」という。
「加藤さんの時代はメールもなにもなかった。でも今はネットですべてつながることができる。さらにCDというフィジカルなものが、サブスク、配信へと変わりました。でももっと新しいやり方ができるんじゃないかと思います。既存のK-POPのようなやり方に乗っかるんじゃなくて、(音楽を目指している人たちが)もっと新しいやり方を考えて、自分たちで音楽を発信できるんじゃないかって思います。そういうものを考えるキッカケになれば嬉しいです」
また『加藤和彦トリビュートコンサート』については「皆目、見当がつかないですが、きっと独自の解釈が出るはず」と期待を膨らませた。
取材・文=田辺ユウキ