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日本発の「shio pan」がバンコクで一大ブーム

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日本発の「shio pan」がバンコクで一大ブーム

現在、バンコクではパン業界で静かなる激戦が繰り広げられている。意外にも、その主役は素朴でずんぐりとした形の小さなロールパンだ。「shio pan(塩パン)」と呼ばれるこれらのパンは、20年ほど前に日本で誕生した。

同地での人気を経て、今やバンコクの最先端を行くベーカリー、カフェ、週末のマーケットにまで勢力を拡大。焼き菓子で有名な店までもが、この流れに乗るべく生地の配合を改良し、チーズや柚子バターを詰める、あるいはトリュフを加えるなど、バンコクらしい「リミックス」を施してブームに乗ろうとしている状況である。

まだ食べたことがない人にとって、塩パンの見た目は実に地味に映るだろう。艶やかな砂糖やチョコレートのコーティングもなければ、幾重にも重なる層や奇をてらったトッピングも見られない。基本的には、わずかに自然なしわが入った黄金色のロールパンに、ひとつまみの粗塩がまぶされているだけだ(焼成中に内部のバターが溶け出してできた小さな割れ目ができることもある)。

それを口にした瞬間、塩パンへの執着が始まる。外側は薄い殻のようなパリッとした食感で、内側はほとんど空洞に近く、ふわふわ。口の中にふわりと広がるのは、決して力強くなく、控えめにそっと染み込んでくるミルキーでリッチなバターの風味である。

そうしたブームの中、全ての塩パンが正しく作られているとは限らないという問題も起きている。生地の密度が高くて油っぽく、まるでディナーロールでガーリックトーストを作ろうとして、肝心のニンニクを忘れたような仕上がりになってしまっているパターンもある。塩気が強過ぎるもの、乾燥し過ぎたもの、見た目だけ「SNS映え」を狙って実際には食べられたものではないものも少なくない。

塩パンはシンプルだからこそ、高度な技術が求められ、外はカリッと中はふんわりという絶妙なバランスを実現するのがいかに難しいかに気づかされる。そして、「完璧な塩パン」との出合いがいかにまれであるということもだ。だからこそ、人々は追い続けるのであり、そのこと自体が塩パンの魅力の一部となっているともいえる。

さらに興味深いのは、塩パンのブームからバンコクの食文化の変化がうかがえることだ。常に「次のトレンド」を追い求めるこの都市においては、これまでバスクチーズケーキやキューブクロワッサンのような派手なスイーツがブームになってきた。

塩パンはむしろその対極に位置する存在なのだ。甘くもなく華やかでもない。だから、人々の心をつかんでいるのだろう。バンコクの食文化は、今静かに成熟し始め、派手さではなく、さりげない完成度を評価する段階に来ているのだ。

今タイで「塩パン」がブームになっている理由

「塩パン」は、日本発の影響だけでこの国に広まったわけではない。そのブレークの契機は、韓国への旅行人気にあった。同国を訪れたタイ人観光客たちが、現地で「ソグムパン」と呼ばれる塩味のパンに出合い、それを持ち帰ったことがきっかけとなる。

多くの人がその味に夢中になり、その需要はバンコクのベーカリーにも波及。独自のバージョンを開発する店が次々と登場したのだ。「塩パン」として販売する店もあれば、韓国名のまま提供する店もあるが、いずれも共通しているのは、塩気とバターの満足感を、しっかりと届けているという点である。

ブームの初期においては、日本風または高級志向のベーカリーにおけるニッチな商品として登場した塩パンだが、今やこのトレンドは一般層にまで浸透。クールなカフェから職人系ベーカリー、さらには一般的なスーパーに至るまで、塩パンはバンコクのあらゆる場所で見かけるようになった。いわば、ミニマルで心落ち着く「新たな定番」となりつつあるのだ。

本当のルーツは東京ではなく愛媛

「塩パン」は文字通り、日本語で「塩のパン」を意味する。今のカルト的地位を築くきっかけを作ったのは、愛媛県にある小さなベーカリー「パン メゾン」だ。

日本の蒸し暑い夏には、食欲が落ちやすく、パンの売れ行きも落ち込む。そのため人々は、冷たい麺や果物を選ぶ傾向にある。そこで同店の創業者である平田巳登志は、夏季の売上不振を解消するために、あえて「夏だからこそ食べたくなるパン」を考案した。

彼がたどり着いたのが、バターをたっぷり使用し、軽く塩を利かせたロールパンだった。汗で失われる塩分を補給でき、子どもから高齢者までが食べやすい柔らかさを兼ね備えている。

生地でバターを包み込み、焼成中に内部で溶け出すよう設計され、底部には香ばしい焼き目がつくよう工夫もされた。また、焼いても完全には溶けきらず、味を引き立てる塩を求めて、世界中の塩を試したという。

こうして完成したバターの風味が豊かで底はカリッと、塩味が絶妙なこのパンは、日本の蒸し暑い夏にぴったりなパンとなった。そして、(年中高温多湿の)バンコクのパン愛好家たちの心にも見事にフィットしたのだ。

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