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藤枝MYFCの2024シーズン振り返り。須藤大輔監督「僕はあの光景を忘れない」

アットエス


10月26日、藤枝MYFCホーム最終戦後のセレモニー。就任4年目の須藤大輔監督はスタンドに深々と頭を下げた後、サポーターに語り掛けた。

「リーグ中盤以降、選手やスタッフがさまざまな試練を乗り越えて結果を手繰り寄せてくれた。ただ、プレーオフには届かなかった。まだ、何かが足りないということ。来年こそ、足りないものをつかみ取りにいきたい」

指揮官の挨拶にはクラブとしての地力が備わってきたという手応えと、目指した場所にたどり着けなかった悔しさが交錯した。

昨季はJ2昇格1年目ながら資金力のある強豪クラブと互角以上の戦いを繰り広げ、大方の予想を覆す12位でフィニッシュ。指揮官は今季を、J1昇格に向けた「勝負の年」と位置づけていた。

開幕直後は攻守の歯車が噛み合わずに苦しんだ。初白星を挙げたのは第5節のアウェー山形戦。続くホーム熊本戦でも勝ち点3を手にしたが、この後5試合で1分け4敗と再び長いトンネルに突入した。10試合を終えた時点で藤色軍団は19位に沈んでいた。

理想と現実の狭間で揺れた昨季は守備ブロックを敷く戦い方にシフトして残留争いから抜け出したが、今季の須藤監督は昨季と同じような状況に陥っても「超攻撃的」の看板を降ろそうとはしなかった。結果と内容の両方を求めていく道を選んだ。

流れが好転したのは3−2で今季初の逆転勝ちを収めた第12節のアウエー水戸戦。ここから群馬、栃木、秋田を一気にたたいてJ2ではクラブ初となる4連勝を飾った。

群馬戦のロスタイムに飛び出した矢村健とアンデルソンによる“ツインシュート”と、秋田戦で中川風が終了間際に決めた決勝弾は、崩壊が近づいているように見えたチームを勇気づける劇的なゴールだった。

チームはここから巻き返し、残留争いから抜け出すことに成功。中盤以降はプレーオフ進出を視野に入れ、上だけを見て戦った。超攻撃的スタイルを貫いたからこそ手にしたものも大きかった。

「シーズン序盤、全く点が取れない、勝てないという時期でも、サポーターは何のブーイングもせずに、拍手で『次があるぞ』と言ってくれた。僕はあの光景を忘れない」。指揮官のサポーターへの感謝の言葉には来季への決意がにじんだ。

27歳の点取り屋が覚醒 矢村健の“らしさ”が凝縮されたゴールは…

今季のチームMVPに矢村健を挙げることに異存はないだろう。エースは今季16点をたたき出し、得点ランク4位に食い込んだ。

169センチの小柄な体をゴムボールのように跳ね上げて、どんな態勢からでもシュートを狙う。決めたゴールはどれも“技あり”ばかりだったが、月間ベストゴールに輝いた10月5日のホームいわきFC戦で見せたシュートは特に“矢村らしさ”が詰まっていた。

前半16分、オフサイドぎりぎりのタイミングで最終ラインの背後に飛び出すと、右斜め後方からの浮き球パスを横目で確認しながら、素早く落下点へ。体を倒しながら右足を高々と振り上げて繰り出したのは、誰もが予期しなかったジャンピングボレーだった。

点取り屋の嗅覚がそうさせたのだろう。「自分の感覚を信じて打った。『らしさ』が出たゴールだと思う」。難易度の高いシュートを涼しげにやってのける9番の真骨頂だった。

27歳。決して日の当たる道を歩き続けてきたわけではないストライカーが、この藤枝で覚醒の時を迎えた。

発展途上クラブの宿命と、超攻撃的エンタメサッカーの継続

今季はラスト7試合で白星を挙げられずに失速し、最終順位は昨季よりも一つ落として13位に終わった。だが、須藤監督が理想に掲げる「超攻撃的エンターテインメントサッカー」の成熟度は増している。

今後の大きな課題を挙げるとすれば、須藤監督を超えるほどの存在感を放つ選手が現状では見当たらないことだろう。

「チームの顔」になりつつあった選手たちは次々に“個人昇格”を果たし、より大きなクラブへと移籍していった。エンタメサッカーの軸になると期待される大卒ルーキーMF浅倉廉(静岡学園高出身)は2ゴールにとどまり、定位置奪取には至らなかった。

藤枝がJ1への昇格を果たさない限り、主力選手たちがこの場所を踏み台にして資金力のあるクラブへとステップアップしていく流れは変わらないだろう。発展途上クラブの宿命だ。

外に出ていった選手たちの穴を埋めるように若手が輝きを放ったり、旬を過ぎたベテランが再生したりする光景もエンタメの一つではあるが、クラブの殻を突き破る選手がチームに現れた時、これまでとは一味違った景色が見られるようになるはずだ。スタジアムを染める藤色はさらに広がり、スタンドは熱を帯び、周囲の選手たちも感化されていく。

J2の舞台で3年目となる来季は開幕から上位戦線をかき回せるか。目の肥えたサッカーどころのファンもうなる超攻撃的エンターテインメントサッカーでJ1への扉を開いてほしい。(シズサカ編集部)

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