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稲垣吾郎「この先もやれる限り続けていきたい」 歓喜に包まれ100回公演も達成! 舞台『No.9 ―不滅の旋律―』開幕レポート

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(左から)剛力彩芽、稲垣吾郎、白井 晃

2024年12月21日(土)東京国際フォーラム ホールCにて稲垣吾郎主演舞台『No.9 ―不滅の旋律―』が開幕した。

誰もが知る大作曲家、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの半生を群像劇として描くことで、彼の生き様や人間的魅力をより鮮明に私たちに教えてくれる『No.9 ―不滅の旋律―』。物語は、ベートーヴェンが自分に相応しいピアノを求めて一軒のピアノ工房を訪ねるところから始まっていく。

音楽家としての才能を開花させ、ここからさらに成功への輝かしい道を歩んで行こうというギアの上がった状態でのベートーヴェン。身なりも整い姿勢も良く、声も大きく、周囲が自分をどう思うかなどはお構いなし。弟・ニコラウスの制止を気にも留めず思ったことはズバズバと口に出し、あっという間にその場を支配してしまう。しかし、ピアノ職人のナネッテもプロとしてのプライドを持って正直な心で“接客”する。音楽職人同士のぶつかり合いが小気味よく、そこから激動の時代を背景にウィーンの街に生きる人々の生命力と、ベートーヴェン自身が放つ熱とスピードとがシンクロしたかのような力強いリズムが現れ、舞台上の体温が微熱のように高まっていく。その肌感に「よし、彼らの物語と向き合っていくぞ」と、客席の集中も研ぎ澄まされるような導入である。

偉大なる作曲家・ベートーヴェンの人生。父親とのトラウマを抱え続け、日々進み続ける聴力の衰えに怯え、愛する女性には去られてしまい……となるとつい悲劇的な物語を想像してしまうが、『No.9』は違う。ベートーヴェンの周囲にはふたりの弟はもちろん、音楽的同士やビジネスパートナーを始め、立場を超えた様々な形で多彩な友情を結んだ人々がいる。自身が生み出す素晴らしい音楽=頭の中に鳴り続ける音も止むことはない。物語の中心は「曲を書けない芸術家の孤独」ではなく、彼と彼の才能を愛する人々との不器用な関係を見つめたヒューマンドラマ。ベートーヴェンの日々はシリアスでもあるがドタバタとした賑やかさにも溢れ、それぞれのエピソードには必ず「愛」が存在する。「人間が息づくところにベートーヴェンの音楽あり」。周囲を巻き込まずにはいられない天才と、愛すべき天才に振り回されながら人情で支える人々との上質なホームドラマのようにも思えるのだ。

ベートーヴェンは自身の才能を自覚する堂々とした姿の一方、好奇心旺盛で、細かくて、心配性で、愛情表現が下手。また、自身が信じる正義を守るためには身体を張って戦いもする。ひたすらに人間臭く、嘘をつけない人物だ。演じる稲垣吾郎はその複雑な人物像を、力強い発声と豊かに語る目の表情や姿勢を駆使してとてもチャーミングに表現。颯爽とした青年時代からふくよかな精神を得た熟年期まで、“暖かな硬質”とでもいうような独特の存在感で強い印象を残していく。

そうしたクセだらけの天才を支え続けるマリアを演じるのは剛力彩芽。おきゃんな少女から有能な秘書としてベートーヴェンを支える心身の頼もしさを得ていくグラデーションも絶妙で、しなやかな芯の強さも美しい。後半、バディを組んでさらに疾走するベートーヴェンとマリアは貪欲でタフ。世界中にベートーヴェンの音楽が響き続けている現代へと続く、音楽の旅路の出発点がそこにあった。

舞台上全体、天井高くから床に向けて真っ直ぐ張られたたくさんのロープは場面によって壁や柱や街の小路の見立てにもなり、セットを固定する役割を持ったものという実用性からふと作品を貫く“職人魂”を見出したり、時には何枚も重なり合う五線紙のラインにも見えたり……と、こちらのイマジネーションを大いに膨らませてくれる面白い効果が。また、生演奏のピアノは上手と下手に1台ずつ。ドラマを追いながら演奏者の姿を生で見て音楽家の息遣いを感じられるのも、ベートーヴェンのドラマには欠かせない要素だ。音楽そのものもこの作品にとって重要なキャストの一員なのである。

クライマックス、花吹雪のように楽譜が舞う中響くのは、「交響曲第9番」の「歓喜の歌」。人生は音楽、人間は誰もが楽器であり、五線紙は最高の武器だと言ったベートーヴェンの渾身の指揮! このシーン、センターに君臨する稲垣はまさにベートーヴェン、まさに楽聖。身体を翻し客席に向かって指揮をするその神々しい姿は、観客たちの人生の音楽をも指揮しているような絶対的なオーラを纏っていた。そうして音楽に包まれ、歌声に浄化され、ヴァイブスに酔いしれて魂が激しく躍動する音楽家は、空間全てを音楽そのものに変えていたのだった。その想いに賛同し時空や区別や隔たりを超えて集まったウィーンの人々、喜びに満ちた表情で歌い上げる彼らの合唱は続いていく──。

再演を重ね常に新しい『No.9』を追い求めてきたカンパニーが到達したこの熱狂この歓喜の余韻こそ、私たちが現実世界で正しく戦う心の拠り所であり、意思ある行動へのエナジーにもなるはず。舞台と私の世界を地続きにしてくれる演劇のパワー、ベートーヴェンの豪傑な魂のメッセージが強く胸に宿る。

さらに……2024年12月24日(火)には記念すべき100公演を達成! 特別カーテンコールが行われた。本番を前に行われた囲み取材から、登壇者のメッセージを紹介する。

稲垣吾郎(ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン)

初日開けて今日で3日目、お客様もたくさん来ていただいて、毎日幸せを噛み締めながらベートーヴェンを大切に演じています。このあと100回目を迎えますが、ホントに感謝の気持ちでいっぱいです。嬉しいです。計算してみたら10万人以上のお客様が見てくださったことになるって考えると……すごいですよねぇ。この舞台は特にお客様も一緒になってベートーヴェンの世界、ベートーヴェンの音楽を奏でている、そんな感じがするんですね。それはやはりベートーヴェンの音楽の力が大きくて、何度やってもあの「第九」が流れる瞬間に、音楽のチカラってすごいなぁと、僕らもいつも舞台の上で感動しています。4年ぶり4度目の上演、ベートーヴェン・スイッチのリモコンがオフになっていても主電源はずっと入っていて、いつも自分の中にベートーヴェンの火種みたいなものがある。そういう感覚で過ごしてきたので、今回も自分のベートーヴェンが蘇ってきている感じです。彼は本当に僕と真逆の人間なので、そういうのをもうひと人格として自分の中に持っておくのもすごく面白いんですよね。いつも感情をむき出しにして情熱的に生きているベートーヴェン、僕はちょっとポーカーフェイスというかそういうところを隠すタイプなので憧れがあります。舞台の上で、いつも気持ちがいいです。剛力さんの深い愛、母性を持ったマリアも、再演を重ね目覚ましく成長されていて頼もしいし素晴らしいし、お母さんみたいです(笑)。『No.9』は僕にとって大切な作品、代表作と言って頂くのは嬉しいこと。100回を迎える今日はひとつの通過点ですね。この先もこのメンバーでやれる限りずっと続けていきたいですし、やれる自信もあります。まずは千秋楽までカンパニー一丸となりお客様に深い感動をお届けできるように頑張っていきます。劇場でお待ちしております。

剛力彩芽(マリア・シュタイン)

吾郎さんはいい意味でまさにベートーヴェン! 出会った頃から変わっていない、ホントにベートーヴェンそのものなんですけど……やっぱり歳を重ね、どんどん晩年のベートーヴェンに近づいて、より深みとかが増していっているなと感じます。私も一番最初に参加させていただいたのが25歳で、自分自身でも大人なのか子供なのか、どっちにいったらいいのか悩んでいた時期でもあったのですが、30代に入ってすごく30代が楽しくて、今、すごく素直に感情を表現できる気がしています。同じ役を演じながらもどう変わっていくのか、お客様に「前と違うマリアだね」って言ってもらえるように……というのも考えながら演じていますし、ベートーヴェンと向き合った時の素直な気持ちが、3回目にしてまさに素直にできるようになったのかなぁとも思います。吾郎さんに「お母さんみたい」と言われたのも嬉しいです(笑)。こうしてまたベートーヴェンの傍にマリアとして居させていただけること、本当に感謝しています。

白井晃(演出)

4回目の上演。お稽古の初日に思ったことは、「本当にまた新しく『No.9』と向かい合おう」ということ。実際、セリフも変化していたり、ピアノソナタも増やしてみたり、ということをしています。吾郎さんのベートーヴェンには今まで以上に深みと重み、そして落ち着きも感じますね。以前「舞台の上で一生分怒った」と言っていましたが(笑)、とても重厚さが増してこられたな、というのが実感です。剛力さんのマリアはもう永遠にマリア、マリアそのもの、変わらずマリアですが、今回は大人になってからのマリアがより力強くなっているんじゃないでしょうか。お二人には長年やってこられた信頼も感じますし、そういった意味でもより落ち着きを感じています。

舞台『No.9 ―不滅の旋律―』は、2024年12月31日(火)まで東京国際フォーラム ホール Cにて東京公演、その後、久留米公演(2025年1月11日(土)~12日(日)久留米シティプラザ)、大阪公演(2025年1月18日(土)~20日(月)オリックス劇場)、浜松公演(2025年2月1日(土)~2日(日)アクトシティ浜松 大ホール)へと続く。

取材・文=横澤由香

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