「すべては同じ惑星でつながっている」 画家・山崎美弥子さんと考える本当のサステナビリティ
カンバスを染める神秘的なグラデーション。この世のものとは思えぬ美しい作品が、アーティスト・山崎美弥子さんによる連作“1000年後の未来の風景”です。幼少期に垣間見たスピリチュアルな世界を描いたものだといいます。
その絵から不思議な癒やしや愛のパワーを感じるといった声も聞かれ、2021年より毎年開催されている東京・青山のスパイラルガーデンでの展覧会は大盛況。近年ではファッションブランドとのコラボレーションを発表するなど、日本での人気も高まっています。
今年も7月31日(水)からスタートする展覧会『Planet Journal 惑星日記』の準備の合間を縫って、山崎美弥子さんとのリモートインタビューが実現しました。モニター越しにハワイの離島・モロカイの心地よい風を感じながら、創作のこと、島での暮らしやサステナビリティについて思うことなどお話くださいました。
ハワイ語の“アフプアア”こそ、サステナビリティの元祖
————まずはいま山崎美弥子さんが住んでいらっしゃるハワイの小さな島、モロカイでの暮らしについて教えてください。
モロカイ島の東部にハラヴァという渓谷があるんですが、そこは古代ポリネシア人が最初に定住した場所だと言われています。なぜこの地なのかというと、海からカヌーでやってきたときに、滝が見えたからなんです。滝があるということは川がある、つまり真水があるから飲水もあって作物も育てられるし動物も飼える、人間が住める場所だとわかるからなんですね。そういう場所のことをハワイ語でAhupuaʻa(アフプアア)というんですが、その土地のなかですべてまかなえて永遠に暮らしていけるわけですから、サステナブルな暮らしの元祖ですよね。
そう考えると、現代のようにどうすればサステナブルになるかではなくて、そもそもサステナブルな場所でないと人間は生きていけなかった。昔から変わらない生活が根付くこの地にいると、実感としてすごくわかります。東京に住んでいるときは気にもとめていませんでしたが、とくに水源の大切さを感じるようになりました。
————水資源を守るために、ふだんの生活ではどのような工夫をされていますか?
まず水源は、山からもらっています。先ほどのアフプアアほどダイレクトではないんですが、山の方に滝があって、そこに水を貯める独自のウォーターシステムがあります。この辺一体がアソシエーションになっていて、山の水をみんなで管理して使用しているんですね。
キッチンやバスルームから出る生活排水は家のパイプを細工して、庭に植えたバナナやパパイヤなどの樹木に流れるようにしています。そうなると、どういう洗剤を使うのかが重要になりますよね。界面活性剤などの汚水がかかったバナナとか食べたくないじゃないですか。なので、キッチンでは洗剤を使わずお湯だけで洗うように。ふだんから油料理をあまりしないので、それだけで十分きれいになります。お風呂もシャンプーやボディーソープといったものは使わずお湯だけ。これには気候も関係していると思います。日本と違ってハワイは湿気がなくサラサラしているので、脂っぽくなったりベトベトすることもないんですよ。
人間は惑星の一部。サステナブルでないと生きられない
————使った水がどこへいくのか、家の中でダイレクトに見えるわけですね。
何が言いたいかというと、キッチンやシャワーで流したお水は、巡り巡って自分の口に入るということ。それは日本に住んでいても同じです。例えば界面活性剤の入ったシャンプーを使ったとして、いい匂いだし髪もサラサラですてきだし、まさかその排水を自分が食べることになるとは思ってもいないじゃない? 都会だとダイレクトに見えないから、どこかに消えたくらいに思っている。
でも、それは消えてない。その汚水が海に流れて魚が食べているかもしれないし、どこかの畑に流れてそこで収穫された食べ物を食べているかもしれない。今回の展覧会のテーマである「惑星日記」と同じで、ぜんぶつながっているんですよ。すべて惑星の一部なんです。
幼少期の神秘的な出来事の探求が、人生のテーマに
海と空の絵。ハワイに移住するまでは東京を拠点にファッションイラストレーターとして活躍していた。
————山崎さんが描く作品テーマ、“1000年後の未来の風景”とはどういうものなのか教えてください。
私が小学校5年生くらいのときに体験した出来事がもとになっています。体験といっても意識の中でのことであって、なかなか言葉で説明するのは難しいので、いつもこういう例え話をしています。
私たちがふだん認識している世界がモノクロだったとします。ある日、手の届くところに窓があることに気づいてパッと窓を開けてみたら、いままで見たことのないカラーの世界が広がっていた! というような体験でした。
そのときから「あれは何だったんだろう、どうすればあれをもう一度体験できるんだろう」。その2つを探求することが私の人生になりました。その当時から絵が好きだったのもあり、自分のなかに残っているものを表現しようと美術という手段で描くようになりました。
海と空の絵。「モロカイ島の美しい空と海は、東京で見ているものと同じ。すべてひとつながりなんです」。
————“1000年後の未来の風景”というタイトルにはどういう意味がありますか?
ある知人から“1000年後の未来の風景”という言葉をもらったんです。それを聞いたとき、私が子どものときに体験したのが、1000年後の未来のことだったんだ、と気づきました。そう名付けたことによってわたし自身、創作テーマを説明しやすくなりましたし、みなさんにも伝えやすくなったように思います。
体験した“真実の世界”を、絵筆を使って訳している
————山崎さんの作品は、ハワイの美しい海や空、水平線がモチーフになっていると思っていました。
厳密にいうとそうではありません。私が本当に描いているのは、10歳のときに体験した言葉では表せない意識の世界です。だから色もなければ形もない、本当は何も見えていません。つまり、私たちの世界では表現のしようがないものなんです。でもアーティストとしては、何らかの方法で表現しないと人々に伝えられません。だから、絵に描いて訳しているというか。絵筆や色を使って、目で見て鑑賞できるものにしているんです。本当は、私が描いているようなピンクや水色の世界が見えたわけでもないですし、水平線を描いているんですけど、水平線じゃなくてもいいんですよ。
————“真実の世界”を誰もが鑑賞できるように訳したものが、これらの作品なんですね。この絵をみたとき、あたたかい気持ちが湧き上がってきた理由がわかった気がします。
そんなふうに言ってくださる方が結構いらっしゃるんです。この絵を見てから世界のなかで愛を感じるようになったとか、懐かしい気持ちになったとか。「一生懸命訳しているけど、誰にもわからないだろうな」そう思って続けていたのに、私が描こうとしているものがちゃんと見えて、わかってくださる方がいる。正直、私の方がびっくりしています。
でも考えてみれば、いまお話したエピソードを“私の体験”と言っていますが、それは私だけの体験ではなくてすべての人のなかに存在しているもの。最初の例えでいうなら、みなさん窓があることに気づけなくて、窓を開けていないだけ。だから、何かのきっかけでわかるのだと思います。私の絵が窓に気づく糸口になれたらうれしいですね。
海も空も人もつながっている「惑星日記」
山崎美弥子展 “Planet Journal 惑星日記”
会期:2024年7月31日(水)〜8月12日(月・祝)
時間:11:00〜19:30 ※7月31日(水)のみ18:00まで
場所:スパイラルガーデン 東京都港区南⻘山5-6-23スパイラル1F
※入場無料
————そんな山崎さんの作品に出会える展覧会が、7月31日(水)からスタートしますね。
展覧会のテーマは「惑星日記」です。最初は「島の日々」という言葉を考えたんですが、私が見ている空とみなさんの頭上にある空はまったく同じでつながっている。それに気がついて、島ではなく惑星だなって思いました。惑星ですから、すべての場所、すべての人の日記です。
これまでと同じく“1000年後の未来の風景”を描いていますが、今回は「惑星日記」という言葉を軸にして、“蘇生”にも少し意識を向けた作品になっています。アートや絵画に興味がなくてもそれが自分の心の中の鏡になり、何か気づきや発見があったりするので、ぜひ気軽に足を運んでみてください。
————最後に、エシカルな暮らしをはじめたいと思っている読者に向けてアドバイスをお願いします。
自分が水を消費するとき、その水がどこから来てどこへ行くのか。ちょっと調べてみるといいと思います。いつか私たちの口に入るとわかれば、「じゃあ、こうしよう」といった考えが自然と出てくる。わざわざエシカルでサステナブルなことをしようとしなくても、ふだんの生活が必然的にそうならざるをえない。だって人間は惑星に住むひとつの生き物でしかなく、サステナブルな環境でないと生きていけませんから。そういう根本的なことを知ることからスタートしてみるのはいかがでしょう。
山崎美弥子/アーティスト。1969年東京生まれ。多摩美術大学絵画科卒業後、東京を拠点に国内外で作品を発表。2004年から太平洋で船上生活を始め、現在は人口わずか7000人のハワイの離島で “1000 年後の未来の風景”をカンバスに描き続けている。著書に『モロカイ島の日々』(リトルモア)、『ゴールドはパープルを愛してる』(赤々舎)など多数。
Instagram:@miyakoyamazaki
写真提供/山崎美弥子 取材・執筆/村田理江 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)