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すぐに環境に馴染まなきゃ、なんてない。―雑談の人 桜林直子に聞く、新生活における人間関係へのアドバイス―

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すぐに環境に馴染まなきゃ、なんてない。―雑談の人 桜林直子に聞く、新生活における人間関係へのアドバイス―

4月から新生活を迎える人も少なくないのではないだろうか。新しい環境に胸を躍らせる一方で、不安や緊張を感じることもあるだろう。新生活では環境だけでなく人間関係も大きく変わる。新しい人との距離の縮め方に戸惑うこともあるかもしれない。初対面の人とどう接すればいいのか、うまくやっていけるのか——そんな不安を抱える人もいるはず。
そんな悩みにヒントをくれるのが、桜林直子さんだ。2020年に出版した著書『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)では、“夢がない人”を「叶え組」と名付け、多くの共感を集めた。現在は「雑談の人」として、マンツーマン雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主宰する他、コラムニストのジェーン・スーさんとともにポッドキャスト「となりの雑談」も配信している。今回は、物事の本質を素早くとらえ核心に迫る彼女に、よくある人間関係の悩みについて話を聞いた。

もともとは洋菓子業界で12年間会社員として働き、2011年にクッキーショップ「SAC about cookies」を開店。その後、noteで綴るエッセイが注目を集め、テレビ番組「セブンルール」に出演。2020年には著書『世界は夢組と叶え組でできている』(2020年・ダイヤモンド社)を出版した。本書では、夢を追いかける「夢組」だけでなく、その夢を支える「叶え組」も同じくらい価値があり、どちらのタイプも必要な存在であると説いた。この考え方は、「自分には夢がない」と悩む人にとって新たな視点となり、大きな反響を呼んだ。
現在は「書く」から「話す」へと活動の軸を移し、マンツーマン雑談サービスやジェーン・スーさんとのポッドキャストを配信している。彼女の文章や会話から伝わるのは、一貫して概念や言葉を分解し、本質を掴む鋭い視点。それは、今回の取材でも存分に発揮され、悩みの本質、人間関係、ひいては自分のあり方について多くのヒントを与えてくれた。

「自分らしさ」だけを見つけようとせずに、自分の特性をどこに使うかまでをセットで考える

周りに早く馴染めることだけが“よし”ではない

――新生活のなかで多い悩みだと思うのですが、周りにうまく馴染めなくて悩んでるとき、もしくはそうなりそうで怖いときは、どうしたらいいと思いますか?

「様子を見ろ」ですかね(笑)。早く馴染もうとすると焦るし、かといって早めに諦めてコミュニケーションを全く取らなくなると、その後が長い(笑)。 だから、焦らなくていいと思います。「半年後に初めて友達ができた」でもいいですよね。

――新しい環境のなかで、一人でいることで周りの目が気になる人はどうしたらいいでしょうか?

どっちかっていうと、私も学生のときは馴染めなかったんです。最初は、別に仲良くしたいと思う人がいなかったり、みんなが言ってることがよくわからなかったりして、積極的に人に話しかけに行かなかったんです。でも閉ざす必要もないと思っています。殻を作っているつもりはなかったから、友達はいなくても、 態度はデカかった(笑)。そうしていると、面白がって声をかけてくれる人もいます。授業で発言する際とか、自分を発露する機会はあるだろうから、そういうときにゆっくりと知ってもらうこともできる。警戒して、「こっちを見ないでください」という態度をしていたら、誰も話しかけてこないと思うんですよ。相手もこの人は話しかけたら嫌なんだろうなって逆に気を遣っちゃうだろうし。周りの目が気になるのはしかたがないけれど、閉じないほうがいいと思います。

――確かにどこかに所属している限りは、自然と自分を知ってもらう機会があるから、焦らずやっていくのはいいかもしれないですね。

そもそも早く馴染めることだけが「よし」ではないのかなって思っています。「サクちゃん聞いて」の雑談のなかで話を聞いていると、馴染むのが上手だった人も、それはそれで悩んでいるんですよ。馴染めない側からすると、「いいな」と思うような子も、実は頑張って合わせているだけなこともある。周囲に合わせすぎて自分の気持ちや考えがわからなくなってしまい「本当はしんどい」って言っていたりして、「お互い大変だよね」って思います。

――周りにどう馴染むかにもつながるのですが、自分にとって居心地のいい人と、そうでない人をどう見極めていますか?

私は割と直感でわかります。でもそれって、最初に様子を見ているからかもしれないですね。でも「なんか面白そう」や「なんか感じ悪いな」って結局は感覚だと思う。特に違和感ってだいたい合っているので、自分の快適さや違和感を信じて、周りには「あの子、いい人だよ」って言われても、「でも私は大丈夫です」って距離を置きます(笑)。

――自分の直感が信じられないという方もいるかもしれないので、そんな方々へのヒントのために、桜林さんは人のどんなところを見ていますか?

学生の頃は意識してなかったですけど、最近は、私に対する態度よりも、他人をどう扱っているかを見ているかもしれないです。私にどんなにいいことを言ってくれたとしても、やっぱり合わせてくれている場合もあるし、何か目的がある場合もある。それだけでは「いい人だな」ってならないんですよ。 自分にどんなに優しくても、他の人のことを邪険に扱っていたら、明日は我が身。自分への影響ではなく、その人がどんな人なのかを見たいですね。

嫉妬は逃避

――「人の目を気にしすぎちゃう」という悩みは多いですが、どのように考え方を変えていけるのでしょうか?

雑談に来る人にも、人の目を気にしてしまうという人は多いです。それって、自分の考えよりも周りにどう思われるかを優先しちゃうということですよね。そういうときは一歩引いて、問いかけます。

例えば、「友達にこう思われてるか不安」って言われたときに、「その友達はそんなことを思うような嫌な人なの?」って聞くと、大体は「いや、そんな嫌な人じゃない」って答えるんですよね。それなのにその想像を何でしちゃうのかというと、本当に友達のことを疑っているわけではなくて、その人自身の、”自分を責めようとする力”が強く働いていて、それを周りに投影してるだけだったりする。だから、「友達がそんな嫌な人じゃないなら、その想像は失礼だよね」って伝えるんです。自分の考えを変えるのは難しいけど、「その人に失礼だから」と、誰かのためにその想像をやめることはできると思うんです。

――今度は逆に、自分が他人に嫉妬したり、羨ましいと感じてしまうときは、どうしたらいいと思いますか?

私は、そういうときは、自分のことをやってないときだと思うようにしています。 自分のことをやってないと、周りを見ちゃう。自分がやるべきことをやってない、本当はやりたいけどやれていないときに人のことが羨ましくなるんです。例えば原稿の締め切り直前に筆が進んでいないと、関係ないものを見に行くんですよね。余計なこと考えたり、全然違うことをやったり。嫉妬は逃避です(笑)。

「自分の嫌いなこと」から「自分らしさ」を見つけていく

――お話しを聞いていて、人と付き合っていくうえで、やはり自己が確立していることが大切なのかなと思いました。桜林さんは、「自分らしさ」とはなんだと思いますか?

どこに行っても、年齢を重ねても変わらず、自分が「もうしょうがない」って思っているような部分が、そういうものなのかもしれないです。「自分らしさって何だろう」と考えたときに、いいことを見つけようとしがちだけど、それだけじゃない。もっと全体的に自分というものを捉えるべきだと思うんです。良いことも、嫌なことも、気に食わないことも、本当はなかった方がいいことも全部含めて、でこぼこ含めた全体像が自分だから。自分のいい部分だけを見つけるのは難しいと思いますが、変えたくても変えられない部分は、もう逃げられないのなら、うまく使った方がいいと思う。

――自分ではネガティブに思いがちな部分を受け止めて、強みにしていくということでしょうか?

そうですね、そもそも100%悪い癖なんてなかなかないと思うんです。全部、使い方次第。まぁ、煮ても焼いても食えないものは別に使わなくてもいいですけど、自分がネガティブな要素だと思っているものも、環境が変わればプラスに働くこともある。学校のような場所では浮いちゃうけど、違う場所に行ったらそれが重宝されるとか、喜ばれるとか。「自分らしさ」だけじゃなくて、自分の特性をどこに使えば活きるのかというところまでをセットで考えるといいかもしれないですね。

――最後に、自分らしくいるためにも、どうやったら無理しない自分でいられるのでしょうか?

一夜漬けじゃ難しいですよね(笑)。 私も20代のときに、我慢をやめることをかなり意識したんです。まず、我慢していることに気づいてないなかったから。「だってしょうがないじゃん、やらなきゃいけないんだから」って。でも「それをやらなくていいって言われたら何をするの?」と自分に問いかけました。何より、まず自分が我慢していると自覚をするのが大切だから。何に我慢をして、何に無理をしているのかに気づかないと、「無理をする自分」を止められない。止める前に自覚するのが先です。

それから、不満は自分を知るうえで大切だと思うんです。私は不満を言うのは上手なんですけど(笑)、「ここが駄目なんだよ」や「もっとこうすればいいじゃん」という考えのなかには、自分が本当はどうしたいかが含まれている。例えば「今後何がしたいのか」を考えるときに、漠然と自分がしたいことを書きだすより、現状の不満を書き出す方が具体的に出てきますよね。自分も会社を辞めるときに仕事の嫌だったことを全部書き出して、一個ずつひっくり返していきました。そうしたら、自分が大切にしたいことが段々と見えてきたんです。不満や不安の裏には、願いがあるんですね。自分がやりたいことも、自分らしさも、自分の現状の不満を書き出すことから、見えてくるものがあるかもしれません。

自分らしさって結局、「自分が何を大切にしているか」だと思うんです。

取材・執筆:南のえみ
撮影:阿部拓朗

Profile

桜林直子

1978年、東京都生まれ。洋菓子業界で12年の会社員を経て、2011年に独立。クッキーショップ「SAC about cookies」を開店。noteで発表したエッセイが注目を集め、テレビ番組「セブンルール」に出演。20年には著書『世界は夢組と叶え組でできている』(ダイヤモンド社)を出版。現在は「雑談の人」という看板を掲げ、マンツーマン雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主宰。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組「となりの雑談」も配信中。
X:@sac_ring
note:桜林 直子(サクちゃん)
ポッドキャスト:となりの雑談

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