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【糸井重里インタビュー】子どもの頃からずっと気になっていた言葉

ほぼ日

誕生から24年目を迎える、ほぼ日手帳。今では世界100以上の国や地域へとお届けすることができるようになり、累計販売部数は1000万部を超えました。2025年版のテーマは「ぽてんしゃる」。糸井重里がたびたび表現として使ってきたその言葉の魅力について語ります。


「ぽてんしゃる」は、明るいまじない。


「ほぼ日」を26年間続けてきましたが、「ぽてんしゃる」という言葉はよくキーワードとして使っていますね。これ、じつは子どもの頃からずーっと気になっていた言葉なんですよ。

まだ使われていない力であったり、体の中から出てきていない力ってものがおもしろいなって思うんですよね。

自然界の水力発電とかだって、大元は水のせせらぎでしょう。火力発電だって、マッチ一本の延長線上にある。一見ちょびっとしたもののなかに、
ものすごいエネルギーが秘められているわけですよね。そうやって力が生まれているんだって思うと、自然界の物事みんなが「ぽてんしゃる」と言えるんじゃないかな。自分で思っている力や、人から見えている力よりも、隠れている力の方が大きいんだぞって思いながら生きてみるのは、すごくおもしろいですよ。

ぼくが「ぽてんしゃる」を平仮名で表現するのは、軽い感じにしたいと思ったから。明るいまじないみたいなものなんですよ。うん、「ぽてんしゃる」って言葉がもっと軽率に流行るといいなあ。誰かが失敗したとしても、「お前の『ぽてんしゃる』はそんなもんじゃないよ」ってね、いっしょに笑えたらいいの。その返事は「そうかなぁ」でも「そんなことないよ」でもいいんだけど、どこかで隠れていた力が出てくるかもしれないんで。

チームプレイをしていると、エラーをしたら「ダメだ」とか「ヘタだなあ」って責められることがあるかもしれません。でも、その人が活きる場所で力を発揮できたら、チーム全体がすごく強くなれるんじゃないかな。

みんなの知っているどんな偉人たちだって、ほんとはまだまだ「ぽてんしゃる」を残したまま亡くなったのかもしれないですよ。ほら、大谷翔平選手だって、自分ならもっとできると思い続けてきたから今があるし、これからもっと活躍しますよ。ひとりひとりが、みんなそう。隠されている力がいくらでもあるんだって、みんなが感じられるといいなと思います。

それがどうして「ほぼ日手帳」の今年のテーマになるのかなっていうと、ぼくたちがこの手帳を作った2001年には、「みんなは何に使うんだろう」という程度しか考えることができていなかったんですよ。そう、ぼくらにはまだ「ぽてんしゃる」が見えていなかったから。

でも、今は言語圏の違う人も使っていて喜んでくださっているのも見ていますから。身近な文具にしか見えないかもしれませんが、ほぼ日手帳は引き出す力がすごくあるんです。「ぽてんしゃる」っていう言葉の背景には、「引き出したい!」があるんじゃないかな。大人が子どもを育てるっていうことも、その子の持っているいいものを引き出したいからなんですよね。あるいは、リハビリ中の高齢者だって、もっとできるはずだと思って取り組んでいます。そこには「引き出したい!」があるんですよ。

ほぼ日手帳は、希望そのもの。

自分の中学生や高校生の頃を思い返すと、「ぽてんしゃる」が渦巻いていました。その頃のエネルギーさえあればなんでもできるぞっていう気持ちはあります。「君は思ったよりすごいんだぞ!」ってことを、ぼくらは自分で知っているんですよね。それが恋愛でも大食いでもスポーツでも、なんだっていいんだけれど、力を引き出してくれる環境があればいいのかな。「ぽてんしゃる」が目に見えて影響力を持ったり、人の助けやおもしろさにつながっていくんです。

ほぼ日手帳を使っていると、明日からずっと何も書かれていないページが続いているわけですよね。それって、希望そのものじゃないですか。ネガティブになる日があっても、今あるものに目を向けて、明日がよくなるといいねって思います。もし書きたくない日があれば、無理しないで休んじゃえばいいし、後でそのページに書いたっていいんです。

その日に起きた出来事とか事実だけじゃなくて、感じたこと、思ったこと、考えたことを書いておくのが重要な気がするんですよね。表現に至っていた方が心が見えてくるし、のちのち、自分で読みたくなるんですよね。スケジュール表みたいな客観的な事実だけなら、後で確かめようがあるわけですから。

失敗するのも、おたのしみのうち。

最近になって『論語』を学んでみたり俳句をはじめてみたりしているんですが、はじめることに勇気はいらないんです。失敗するのもおたのしみのうちに入れてしまえば、一歩を踏み出せるんですよ。自分の目の前におもしろいデザインの壺があって、中で変な音がしていたとしますよね。

あなたはそこで手を入れるか、入れないか。手を入れて「キャー!」となったら大変だけど、丈夫な手袋をはめて手を入れたら、「あ、ヘビだよ」ってわかりそうですよね。でもいろいろな経験をしてみると、噛ませてもいいやっていう場所があっちこっちに生まれてくるんです。ぼくも若い頃にはリスクだとか、恥をかきたくない気持ちが邪魔していましたが、本当はもっと失敗したっていいんですよね。

これまでなんとなく避けていたものでも、今こそやってみるっていうのは「ぽてんしゃる」だと思うんですよね。掘らなきゃ出てこないものだってありますから。箱にしまっておいたようなものが、ぼくには今になっておもしろくなっています。

最近はじめた俳句がまさにそうで、ほぼ日手帳に縦書きで句を書いていく俳句手帳にしているんですよね。自分で数日前に書いたものを見るだけで
ヘタだなあって改めてわかっちゃう。ちょっと恥ずかしくなるんだけど、それもやっぱり書いていたおかげですよね。そういう気持ちは、ぜひ味わってみるといいですよ。ひっきりなしに考えたり、恥ずかしげもなく試したりするっていうのはいいトレーニングになると思うんですよね。

だんだん「たのしい」も「悔しい」もなくなってきて、俳句を手帳に書けていない日があると、自分を裏切ったような気がしてくるんですよね。寝る前に思いついちゃって、ガバっと起きてメモを取るんですよ。いいこと考えたなぁと思って書いたことに限って、たいしたことなかったりするんですけど(笑)。

松尾芭蕉の句碑は全国のあちこちにあって、みんなから大事にされていますよね。たった17文字の言葉だけでブランドにしちゃったんだから、それってすごいことですよね。「ぽてんしゃる」の石碑も作りたいですよ(笑)。あっ、それは本当に作れないかな。あった方がいいんです、そういうものってね。

糸井重里のプロフィール

ほぼ日刊イトイ新聞主宰。1948年生まれ。コピーライターとして数々の広告を手がける他、作詞家、ゲーム制作など多岐にわたり活動。1998年に『ほぼ日刊イトイ新聞』を創刊。以降、「ほぼ日」での活動に全力を注ぐ。

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