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【井口貴夫さんの個展「こちら側/向こう側」】 「こちら」と「あちら」の境に置かれた「装置」たち

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区のボタニカ・アートスペースで開かれている井口貴夫さん(沼津市出身)の個展「こちら側/向こう側」を題材に。

鑑賞者の目に映る「かたち」の「その奥」「その向こう」を意識させるのが、井口さんの作品の妙味だ。平面か、立体かを問わず、作品はわれわれがいま立っているこの場所と、ここではないどこかの間に置かれた「装置」としての意義、意味を授けられている。

静岡市のボタニカでの初の個展を前に、井口さんは3月上旬から展示スペースと同じ建物に寝起きし、当地を歩き回って素材を集め、創作に励んだ。アーティスト・イン・レジデンスと言っても差し支えないだろう。
市内を流れる安倍川の源流近くから川沿いに南下し、草木を集めた。ボタニカの床にクラフト紙を置き、鉛筆でフロッタージュを試みた。

梅ケ島で採集したセイタカアワダチソウ、大量の松葉、小石-。土地の記憶と風景が、アーティストの発想と技術で「かたち」を与えられている。

大小2室の展示は、自然光や窓の外の景色も作品の一部と感じられる。バンセン(太い針金)、金属板といった無機物が、枯れ葉やベニヤなど有機物と響き合う。個々の作品が集まり、二つのインスタレーションを形成しているようにも見える。

白と黒の農業用寒冷紗に大量の松葉を刺した造形に引かれた。3階の第1室の中央に二つの「壁」が浮かぶ。松葉が貫く寒冷紗なのか、寒冷紗が支持体となった松葉群なのか。意味が、見え方が二通り感じられる。

4階の第2室は小部屋を仕切る網戸や欄間も作品の一部としている。企業の社員寮だった同スペースにかつてあった「居住」を強く意識させられた。

(は)

<DATA>
■井口貴夫個展「こちら側/向こう側」
会場:ボタニカ・アートスペース3F、4F
住所:静岡市葵区研屋町25 
開館:午後1時~7時 ※観覧無料
会期:3月30日(日)まで

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