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クリスチャン・リゾー インタビュー~土地をもたない民族舞踊、共生に向かうダンスが立ち上がる

SPICE

『D’après une histoire vraie-本当にあった話から』舞台写真(C)Marc Domage

地鳴りのようなリズムと8人のダンサーの身体が呼応し合い、集団から共同体へと自由に行き来する。来日公演『D’ après une histoire vraie─本当にあった話から』を控えるクリスチャン・リゾーに、本作について尋ねた。

クリスチャン・リゾー(C)ICI-CCN Denise Oliver Fierro


Christian Rizzoクリスチャン・リゾー
1965年、カンヌ生まれ。96年、“l’ association fragile” を設立し、オペラ、ファッション、ビジュアルアートなどのプロジェクトとともにパフォーマンスやダンスなど40 以上の作品を発表。フランス国内外の美術・ダンス専門教育機関で教鞭をとる。2015 年、モンペリエの国立振付センターICI-CCNのディレクターに就任。創作、トレーニング、芸術教育などの横断的なビジョンをもって活動中。

――作品の誕生について教えていただけますか?

きっかけは2012年、アヴィニヨン・フェスティバルの委嘱です。「ダンスはどうして生まれたのか?」と考えていて、ダンスの「公式な」歴史と、多様な場所や時代で踊られてきた庶民のダンスを並行して作品にできないかと思っていました。同じ頃、忘れ難い経験をしました。イスタンブールでコンテンポラリーダンス公演を観終えて出口の扉が開いた瞬間、街で自由に踊る男性たちが見えた。彼らはすぐ姿を消したけれど、突然のダンスの出現は鮮烈な印象を残し、そこから男性グループ、地中海、集団の踊る欲望をめぐる創作へ向かいました。次にリズムを求め、ダンサー8人に合わせて舞台のドラマーを2人に決めました。彼らの身振りや多彩な音色が、ダンスと対話します。

――作品タイトルは、どのように決めましたか?

英語で「based on a true story(実話から)!」、よく見る謳い文句でしょう? 一種の冗談ですが、前から考えていた抽象と物語の問題と関係しています。振付は抽象的であっても、その背後に数多くの物語─ ─作品の、リハーサルの、各ダンサーの、私の記憶の物語─ ─があり、それが共有される。抽象的であると同時に具体的で、演じられていても真実なのです。

『D’après une histoire vraie-本当にあった話から』舞台写真(C)Marc Domage

――2013年の初演から10年以上を経て再演されますが、変更はありますか?

ほとんどありません。時間につれて作品が変化するのは好まないので。本は世に出たら、その時代に根を下ろすでしょう? 私のダンスも同じです。けれども作品を取り巻くものが変わりました。まずメンバー全員が年齢を重ね、表現に深みが生まれました。そして社会情勢が変化し、作品は違う見方をされるようになりました。このまなざしと理解の変化は興味深いですね。初演当時、コンテンポラリーダンスで民族舞踊を取り上げるのはリスキーでした。しかしこの作品以降、多くの振付家がこのテーマに取り組んでいます。

――「10人の男性のみの作品」であることも、受け止められ方が異なるのではないでしょうか。

それも再演する理由のひとつです。初演時に私は男性の身体に父権主義や支配を重ねず、優しさによってコミュニティが形成される姿を描きました。今日、男性らしさに対して複数の立場がありますが、どのジェンダーも「受け入れること」が必要と考えます。私たち男性は、筋肉や支配力ではなく自らの感受性を受け入れる。私のカンパニーの名は「l’ association fragile」ですが、弱さ(fragile)の力、感受性の力によって私は男性であり、感受性に対して開かれることで男性も女性も同じであり得ると考えるのです。

『D’après une histoire vraie-本当にあった話から』舞台写真(C)Marc Domage

――本作ではコンセプト・振付に加えて舞台美術や衣裳も手がけていらっしゃいます。

ほかの作品もそうです。造形美術を学んだのでつねに身体を空間との関係性で見ていて、空間抜きにダンスを考えられません。身体と空間は不可分で、衣裳も全体の一部です。衣裳は空間と同じグレーですが、白や黒と異なりあらゆる色とニュアンスを含み得る色調です。

――リゾーさんは異色の経歴をもつ振付家ですが、ファッション、ロック、ビジュアルアートを経て、なぜダンスを選んだのですか?

ダンスを選んだというよりは、ダンスに選ばれたように思います。クラブで踊っていたら振付家からオファーを受け、舞台に出るようになりました。アーティストとして私はダンスではなく身体を選び、オブジェと空間、身体と空間、リズムと空間へ探究が移って作品にダンスが増えていった。私の初期の作品は人間がいない、身体不在のダンスでした(注:2004年日本初演『ポリエステル100% 踊る物体』)。私にとってダンスは素材で振付はその構成装置。振付に関心があり、その後にダンスがやってきたのです。

――今回の来日で楽しみなこと、過去の日本滞在で記憶に残っていることはありますか?

事前にいろいろ決めることはしないので、出会いを受け入れたいですね。とはいえ、大好きな陶芸と料理は見てまわるでしょう。過去に見た京都の寺院での田植えの儀式が今も記憶に鮮明です。音楽と歌に合わせ2列で後退しリズミカルに動きを繰り返す様子は複合的なパフォーマンスに見え、「自分がやりたいのはこれだ!」と直感しました。私の振付の関心は物や人と空間にあり、あらゆる可能性を含む空白に興味があるのです。

取材・文=岡見さえ(舞踊評論家、共立女子大学准教授)

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