女子スポーツに新しいテクノロジー!「月経を考慮し、怪我ゼロへ」を掲げるアプリ『Lean』が目指す世界
女性アスリートが向き合わなければならない月経という課題。コンディショニングやパフォーマンスに影響をもたらす可能性があり、将来の健康にも大きく関わってきます。
女性アスリート特有の怪我や健康課題から守る、女子チーム特化のコンディション管理アプリ『Lean sports(リーンスポーツ)』。代表の立道友緯さん(以下、立道)に創業の想いを伺いました。
選手が「1人で我慢」するのではなく「対策」ができる世界へ
ーーLean sports(リーンスポーツ)とはどのようなサービスですか?
立道)Lean sports(リーンスポーツ)は、女性アスリートのパフォーマンスを最大限に引き出すために開発された、女子スポーツチーム専用のコンディション管理アプリです。このアプリを使えば、選手の月経を含む体調情報をLINEを通じてコーチやトレーナーと簡単に共有でき、女性特有の怪我のリスクを軽減することができます。
さらに、選手が入力したデータをもとにAIが個別にアドバイスを提供し、選手のコンディショニングスキルの向上をサポートします。選手一人ひとりに専任の女性トレーナーがつくイメージです。男性監督しかいないチームでも、アプリ一つで、女性特有の月経などのコンディション管理が可能になります。
ーー立道さんがこのサービスを立ち上げようと思ったきっかけはなんでしょうか?
立道)私は、学生時代にバレーボール部に所属していた際、生理痛が非常に重くて悩んでいました。また、友人には重い生理痛に悩み、子宮内膜症と診断され手術を受けた人もいます。
これらの経験から、月経が日常生活やスポーツ活動に与える影響の大きさを実感しました。多くの女性がこの問題に直面しながらも、十分な対策を取れずにいる現状に強い危機感を覚え、「自分に何かできることがあるのでは」と思い、会社を立ち上げることにしました。
ーー月経の悩みを打ち明けられないという方が多いんですね。
立道)そうですね。実は現状の課題を深掘りするために、約200人の方にインタビューをして回りました。選手にヒアリングをする中で、「起き上がるのも辛いくらいの生理痛があるけど、気合いで我慢して練習している」「月経中はプレーに集中できない」「コーチになかなか言えない」などリアルな選手の声を聞きました。
身体の仕組みについて学ぶ機会があっても、月経中の痛みや対処法についての知識はほとんどありません。そのため、月経がスポーツのパフォーマンスに大きな影響を与えているにも関わらず、対策を講じていない選手が多いのです。
この現実を受けて、選手と指導者のコミュニケーションのハードルを下げ、選手が安心してスポーツを楽しめる環境を作りたいと考えました。
スポーツをする女性に潜む怪我のリスク
ーー女性アスリートが直面する特有の課題について教えてください。
立道)特に女性アスリートは過度なトレーニングや十分な食事を取れていない場合、3ヶ月以上月経がこない“無月経”になる可能性があります。
私のまわりでも、「月経がこなくて楽」と放置してしまう選手をたくさん見てきました。しかし、無月経を放置すると骨密度が下がり疲労骨折などのリスクが上がったり、将来的に不妊症につながる可能性もあります。
また、女子サッカーやバスケなどに多い前十字靭帯損傷は特に大きな問題です。前十字靭帯損傷は男性に比べ女性は4-6倍リスクが高く、原因の一部には月経周期が関係していることが研究で明らかになってきています。(※1)
※1 出典:日本臨床スポーツ医学会誌第24巻第3号.「大学女子サッカー選手における膝前十字靭帯損傷危険度別にみた方向転換動作の特徴」396ページ
ーーそれは私たちが思っている以上の課題ですね。
立道)選手生命を左右しかねない怪我を防ぐために、チーム全体で月経を含めたコンディション管理を行うことが重要です。たとえば、イングランドのサッカークラブ『チェルシー』の女子チームでは、月経周期を管理し怪我を減らす取り組みをしています。
しかし、男性監督の場合は女性選手の月経にどう対応すればよいのかわからず、“課題に踏み込めない”というのが現状です。実際に指導者にヒアリングしたところ、「なんかいつもと様子が違うな」と選手の体調や精神状態の変化に気づいていても、それをどうサポートすればいいかわからず、アプローチに悩んでいました。
このような背景から、アプリを通して選手とコーチの間で月経情報を共有しやすくし、双方にとってストレスの少ないコミュニケーションができる環境づくりを目指すことにしました。
男性監督でも安心!女性特有の体調管理をサポート
ーー具体的にどのような機能があるのでしょうか?
立道)「個人ではなくチームで」「放置ではなく対策を」という理念を基に、私たちはスポーツチーム向けのアプリを開発しました。このアプリは、選手が練習前に月経の痛みの度合いを入力すると、それがパフォーマンススコアとしてコーチに伝わる仕組みになっています。
ダイレクトに月経であることを伝えることは抵抗がある人もいますが、『パフォーマンススコア』という形に変換するため共有するハードルが少なくなります。これにより、コーチは選手の体調を客観的に把握でき、体調に応じた練習メニューの調整や声掛けが可能になります。
選手も、自分の体調を無理に隠すことなく、安心してパフォーマンスに集中できる環境が整います。
ーー選手側の変化を促せるような仕組みはあるのでしょうか?
立道)自分でパフォーマンスの波を整えられるような、選手向けのページを用意していて、月に1回、選手一人ひとりが入力した情報をもとに、傾向や改善点のフィードバックを送っています。
立道)データを見ると睡眠時間が明らかに足りない選手もいます。そういった選手には、睡眠に関するアドバイスが送られるようになっています。
月経だけでなくパフォーマンスに繋がるコンディション面のサポートができることもLean sports(リーンスポーツ)の大きな特徴ですね。指導者が介入しなくても、選手自身が自分の体調に向き合い、改善していく仕組みを作っています。トレーナーや栄養士をつけることはできないけど、選手のコンディション面をサポートしたい指導者にもおすすめです。
サービス導入後の効果
ーー指導者のメリットはなんですか?
立道)サッカーチームの栃木SCレディースU-15(中学生年代)では、以前に選手が月経中に前十字靭帯を損傷する怪我を負ってしまったことがありました。このような経験から、チームとして選手の安全と健康を最優先に考える必要性を強く感じ、『Lean sports』の導入を決めてくださいました。
導入後、コーチたちは選手のコンディションに合わせた声かけや対応ができるようになり、無理をさせずに適切なタイミングで練習を行えるようになったと評価をいただいております。
栃木SCレディース U-15での研修の様子
ーーそれはすごく大きな変化ですね。
立道)パフォーマンス低下の要因は、月経だけでなく夜更かしやモチベーションの問題など、さまざまです。パフォーマンススコアが見えることによって、月経であることを配慮した声掛けができたり、逆に月経中でなければほかの要因を探ることに集中できるので、指導者からコミュニケーションを取る上でのストレスを減らすことができる、という声もいただきました。
コーチからは、「選手がコートに立ったときは100%でやれるもの、やるべきだと思っていたけれど、女子選手には100%でできない時期があるということを知るきっかけになった」と言っていただいています。練習メニューを変えるわけではなく、選手のコンディションに合わせた声かけができるようになったそうです。
ーー他のチームではどんな変化がありますか?
立道)立教大学女子ラクロス部様でも導入いただいているのですが、「今日は体調が悪いので休みます」と正直に言える環境が整い、精神的な負担が軽減されたという声がありました。
選手は今までまわりにサボっていると思われるのが嫌で、無理をして練習していたところ、『Lean sports』を導入してから「今日はしんどいので休みます」と言える環境になったという変化がありました。
具体的には、選手同士で「無理しないでね」という声掛けが生まれたり、選手自ら「今は体調が悪いので負荷を抑えて、来週追い込みます!」などの自分で負荷調整をするなどのコミュニケーションが生まれるようになりました。結果的に例年よりも怪我人の数が減っているそうです。
個人ではなくチームで、放置ではなく対策を
ーー今後、Lean sports(リーンスポーツ)をどのように発展させたいと考えていますか?
立道)指導者が女子スポーツ特有の問題に対して適切に対応できるように、現場との連携を強化し、科学的根拠に基づいた指導法やトレーニング方法の情報提供も行っていきたいと考えています。
また、月経に関連する体調管理は、女性個人の問題ではなく、社会全体で取り組むべき課題です。『Lean sports』をきっかけに、スポーツチームの指導者と選手が正しい知識を身につけ、効果的な対策を講じることができるようになり、さらに多くの企業や組織にこの取り組みが広がっていくことを期待しています。
月経の問題は、個人だけで抱えるのではなく、組織全体で共有し支えることが重要です。スポーツチームがそのモデルケースとなり、将来的には職場や学校、塾などでも、月経の問題を「組織の課題」として考え、対策を講じることが当たり前の文化になればいいと願っています。
ーーありがとうございました!
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