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「大人は約束を守ってくれない」年長発達障害息子、お泊まり保育で不満爆発!?幼稚園を嫌がるように…

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「大人は約束を守ってくれない」年長発達障害息子、お泊まり保育で不満爆発!?幼稚園を嫌がるように…

監修:室伏佑香

東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程

徐々に始まった「行きしぶり」。きっかけは、友だちとの遊び方の変化

現在、小学2年生で特別支援学級在籍のASD(自閉スペクトラム症)+ADHD(注意欠如多動症)診断のある息子。療育に通うきっかけにもなった最初の“行きしぶり”のお話です。

春が過ぎ、年長さんになった頃。クラスの子たちは少しずつ成長し、個別の遊びから小さい集団の遊びを経て、「鬼ごっこ」や「だるまさんが転んだ」など大人数での遊びを楽しむようになってきていました。

もともと息子は、自分の世界観の中で冒険ごっこや空想遊びを広げていくのが好きなタイプ。いつも同じ仲の良い友だちを巻き込んで、自分の意見が通りやすい少人数で遊んでいました。そんな彼にとって「みんなで遊ぶ」スタイルは馴染みのない子が突然入ってきたり、集団のルールや空気を読まなければならない事が増えたりで、そういった事への苦手さから不安や緊張に繋がってしまったのかもしれません。

保育参観や普段の送迎の前後、遠くから様子を見ていると、園の中で「◯◯やろうぜ!」と人が集まりだした時に、あーあ……という感じで、スッとその場から離れていく様子を見かける事が増えました。そしてだんだんと朝になると「行きたくないな」「つまんない」とつぶやくことが増え、少しずつ「行きしぶり」が始まりました。

「すぐ帰れるって約束したのに!」 お泊り保育キッカケで不満爆発

そういった経緯もあってか、息子はお泊まり保育にもあまり前向きになれず、当日の朝も「嫌だ! 絶対行かない!」の大合唱。それでも「もし嫌になったら、すぐ迎えに行くから大丈夫だよ」と約束をして、なんとか当日、園へ送り出しました。先生にもそのことは伝えてありましたが、「せっかくの経験だからできるだけ長く参加してもらいたい」と、帰りたがる息子をあの手この手で引き止めてくださっていたようです。

もちろん、先生たちは息子のことを思って声をかけてくれていたのですが、その“引き止める言葉”の数々が、息子には「約束と違う」「嘘をつかれた」と感じられてしまったようでした。

「○○したら帰れるって言ったのに、また“もうちょっと頑張ってみようか”って、嘘ばっかり!」という具合に、このイベントを境に先生との信頼関係が崩れてしまったのです。夜になっても、どうしてもみんなと一緒に眠ることができず、「帰る」の一点張り。
結局、困り果てた先生から夜の11時頃になって「お迎えをお願いします」と連絡が入りました。

こういった対応をされた時、きっと多くの子は振り返ってみた時に「なんだかんだ、あの時に引き止めてもらえてよかった」と感じることが多いと思います。しかし息子の場合はそうしたポジティブな気持ちにはつながらず、「大人は約束を守ってくれない。信じられない」という印象だけが強く残ってしまいました。

今思うと、こうした受け止め方や言葉の受け取り方の独特さも、息子の特性の一つなのかもしれないなと思っています。

「約束したよね?」「前に言ったじゃない!」パニックになる息子

その日をきっかけに、息子の「幼稚園に行きたくない」という気持ちは、より強固なものになっていきました。朝、登園しようとすると断固として拒否。説得を試みると、パニックになってしまうこともありました。しかも息子は、私や先生のちょっとした発言をとてもよく覚えていて、「前にこう言ったよね?」「約束したじゃないか!」「前と同じことがまた起きる!」と、細かいことまで繰り返し訴えてきたのです。

大人としては「励まし」や「配慮」のつもりだった言葉も、息子にとっては「約束を破られた」「信じていたのに裏切られた」といった体験として、深く心に残ってしまっていたようでした。

それからしばらくの間は、私が一緒に教室に入り、“1時間だけ保育室で過ごして帰る”という日々を繰り返すことに……。最初の頃は、教室でも私にしがみついたまま周囲を見ることもできず、目をつぶって、周りの声かけにも反応しない様子でした。

クラスの友だちは、息子が急に目を合わせなかったり、挨拶しなかったりする様子に戸惑いながらも、「まあいいか」としばらくすると気に留めず受け止めてくれるようになりました。「いろんな子がいるよね」という空気がある園だったことは、本当に救いでした。

その頃も療育にはなんとか通えていたものの、なかなか支援員さんを信用することができず、「ああ言ったかと思えば、こう言ったり」と、まるで試すような振る舞い(試し行動)が続きました。

少しずつ変わっていった「その後」

転機になったのは、妹が満3歳児クラスに入園したことでした。それまで私が毎日付き添って登園していた息子でしたが、「妹がいるなら行ける」と思えたのか、妹の入園に合わせて少しずつ一人で登園できるように。

妹が園に通いはじめたことで、「自分がしっかりしなきゃ」という気持ちも芽生えてきたのかもしれません。息子にとって家族は「安心できる存在」。身近な誰かがそばにいるだけで、心のハードルが下がったように思います。

もちろん、その後も行きしぶりが完全になくなったわけではなく、今でも気分や体調によって波があります。特に小学校入学直後には大変だった行きしぶりの時期がありましたが、そのことについてはまた別の記事で書こうと思います。それでも、療育先や特別支援学級の先生方と関わる中で、「どうすれば自分のペースを取り戻せるか」を少しずつ掴みはじめているようです。今も、小さな集団の中で過ごす経験を積み重ねながら、できることを少しずつ増やしています。

今、あの頃を振り返って思うこと

年長の頃を振り返ると、「小学生になったらもっと大変なのに、年長でこんなにしんどくて大丈夫なの!?」という焦りでいっぱいでした。

でも今振り返ると、なにより息子自身が、環境の変化や周囲からの期待に大きな不安を抱えていたのだろうなと思います。怖いものに対して「怖くないよ」と言われるより、「怖いんだね」とそのまま受け止めてもらえること。不安に対して「考えすぎだよ」と片づけられるより、「じゃあ、どうしようか」と一緒に考えてもらえること。

進級を控えた年長という時期は、子どもと一緒に立ち止まり、ゆっくり考える時間なのかもしれません。

子どもからのサインを見逃さず、「ちゃんと受け取ってるよ」と伝えること。それには、親にも覚悟と体力が求められますが、これからもいろいろな人の協力を得ながら、抱えこまず支えていきたいと思います。

執筆/河野りぬ

(監修:室伏先生より)
お子さんの「行きしぶり」が始まった経緯、その時のお子さんのご様子とお母さまのお気持ち、そして少しずつ歩みを進めてきた日々について、丁寧に共有くださりありがとうございました。お子さんの行動や言葉の一つひとつに対して、お母さまが真剣に受け止められ、理解しようと努めてこられたことが、文章から深く伝わってきました。

年齢が上がるにつれて、集団での暗黙のルールを理解する、場の空気を読むなど、ASD(自閉スペクトラム症)の特性をお持ちのお子さんにとっては、不安要素となることが求められるようになってきます。特に、年長さんになると、園の先生方からの関わりも就学を見据えたものになってくるので、より求められるものが多くなってきます。そのため、それまで楽しく通園できていた場合でも、年長さんの時期には不安や緊張が高まりやすくなることは、決してめずらしくありません。また、社会的な状況や相手の意図を“行間から汲み取る”のが苦手であることが多く、「大人の都合」や「その場の雰囲気で変わる対応」はかえって不信感を招いてしまうこともあります。

お子さんの「行きしぶり」は、見方を変えれば、不安な状況をコントロールしようとする精一杯の自己防衛でもあります。大切なのは、「どうすればこの子が自分で安心できる方法をみつけていけるか」を、親や周囲が焦らずに見守っていくことだと思います。『怖いものに対して「怖くないよ」と言われるより、「怖いんだね」とそのまま受け止めてもらえること』、この言葉がとても印象的でした。そして実際に、それを実践されてきたお母さまの姿勢こそが、息子さんにとっての“安心の土台”になっているのではないでしょうか。その積み重ねが、将来本人が“自分の特性とうまく付き合いながら社会と関われる力”につながっていくと思います。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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