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アレを忘れない子は本当に強い…強豪水泳部の監督が明かす「成長する選手の特徴」

チームナビ

太成学院大学高等学校水泳部

監督:渡邊元太(わたなべ・げんた)さん

元競泳選手で日本選手権ファイナリスト。2008年に教員となり、母校である太成学院大学高等学校水泳部の監督に就任。教師を務めながら、現在も競泳の試合に出場し続けている。大阪水泳協会の強化コーチも兼務。

聞き手:竹村幸(たけむら・みゆき)さん

競泳元日本代表。19歳で日本代表入り後、W杯リオデジャネイロ大会3冠・アジア大会銅メダル獲得。2020年12月に現役引退後、女性アスリート向けwebメディア「B&」を運営、チームナビのエディターも。パラ水泳日本代表メンタルサポートスタッフも兼任。

ひと目でわかる! チームの特色

●競技人生の先を見据えた指導
●自主性を育てる
●対話、コミュニケーションを重視

僕の使命は、水泳を指導することだけではない

「バケモンになれ」

関西における水泳の強豪校の一つ、太成学院大学高等学校水泳部。監督を務める渡邊元太さんは、日本選手権ファイナリストでもある元競泳選手です。90人以上の部員を抱える名門水泳部を率いる渡邊さんに、元競泳日本代表でチームナビエディターの竹村幸が取材しました。独特な指導方針や部の雰囲気、魅力等を深堀りします。「バケモンになれ」の真意とは。

竹村 驚きの大所帯ですが、部員への接し方で心がけていることを教えてください。

渡邊 お子さんを預かった以上、僕は親やと思ってるんです。どこに出ても恥ずかしくないような子に育てなあかん。何事も目標を持つこと、そして諦めないこと。これらを身につけてほしいと思っていますね。

練習でタイムが遅かったり、ちょっと不調気味だったりしてもそこを怒ることはしません。でも、「できひん」と最初から諦めることは許しません。

水泳は競技人生で言うと、中学校から全国デビューしたとして、10年くらいしかできないと言われています。でも、あと60年は生きないといけません。僕は、水泳のその先を見据えて指導をしています。生徒たちの人生を豊かなものにするのが、僕の使命やと思っています。

竹村 実際、元太さんはそれを体現されていると思っています。私が大学生の頃に元太さんから言われた言葉を今でもよく覚えているのですが、それは点ではなく線で見られているからこその内容だったんですよね。

当時、私はオリンピック出場の当確ライン上にいて、周囲の人から「頑張れ」とエールをいただいていたんです。それが私にはプレッシャーだったのですが、元太さんだけは、「お前、オリンピックに行ってどうなりたいの?」とその先のことを言ってくれたんです。すごく救われました。

渡邊 頑張っているのはわかってたからね。

竹村 ですから、今見てもらってる子たちも、私と同じように感じているのではと思います。

渡邊 「夢は叶うで」と大人は言うべきで、言えないのは大人失格やと思うんです。でも、実現させるためには、命懸けでやらなあかんと思うから、こっちも本気で向き合っています。

練習中は、めっちゃいろいろなことを話します。その中でよく言うのは、「バケモンになれ」。みんな、バケモンになれるんですよ。だって、最初の一歩はみんな一緒やもん。なのに差が生まれるのは、きっとどっかで「あかんわ」と思っちゃうから。

例えば今、瀬戸大也に勝とうと思ったら、200m個人メドレーを1分55秒で泳がないとあかん。でも、そのタイムを出そうと強く思えば、絶対いけるんや。「できるねんで!」そう言い続けることが、指導者としてめっちゃ大事なことやと思っています。

アレを持ち続けている…強い選手の共通点

竹村 対話、コミュニケーションが重要ですね。

渡邊 あと、生徒はユーモアを持ってほしいですね。例えば、「ビート板で向こうまでダッシュ」と僕が言うでしょ。みんなプールに入って、ビート板でキックするんです。僕だったら、泳がずにビート板を抱えて走るもんね。そういうユーモアがなかったらあかん。

ほんで、こういうことを何回かやると、みんなわかってくる。でも、みんな25mのプールの端で止まるねん。僕、「向こうまで」とだけ言って、25mなんて言ってないやろって(笑)。

竹村 元太さんが手を叩いて笑ったら、その生徒の勝ちですね。

渡邊 そうやねん。僕がすごいな、と思うのは実力じゃなくて、そういう発想を持っている生徒。楽しめるというのは、やっぱりいいなと思いますね。

竹村 “楽しい”と思う気持ちがあると強いですよね。

渡邊 うん、遊び心を忘れていない選手は強い。だから、僕はずっとふざけているんです(笑)。だって、大人が楽しんでいるなら、子どもにも伝わって楽しくなるでしょう。

竹村 改めて、指導者になった経緯を教えてください。

渡邊 もともと教員になりたかったんです。というのも、学校がめっちゃ好きだったから。水泳はスイミングクラブで練習をしていて、そこでもいろいろなことを教わったけれど、要所、要所で言葉をくれたのは学校の先生でした。そこから、母校であるこの太成学院大学高等学校で、教員をさせてもらっています。

竹村 印象に残っている言葉はありますか。

渡邊 ちょっと大人になってから言われた言葉を特に覚えていますね。僕は、教員になってからも競技を続けていた時期があったのですが、その二足の草鞋を勧めてくれたのが、部長の冨井弘之先生でした。

本当は水泳を大学で引退しようと思っていたんやけど、冨井先生が「まだ現役続行したいなら、指導の時間を使って練習もやったらいい」と言ってくれたんです。当時の僕は続けたい気持ちがあったけれど、成績が全然良くなくて、一般的に考えたらやめる道しかないと思っていた。でも、「日本選手権決勝を経験するまでは辞めるな」と冨井先生に言われて。

その意図は、日本選手権出場という実績があれば、指導にプラスになるだろうと思って言ってくれたんやと思うんです。もちろん、別にそういった実績がない人でも、その人なりに失敗を経験した上での学びを教えることができることも良いと思うんです。

でも、僕は実績と失敗、どちらも得ることができる。そう考えたら、さっきの「できる」という話と同じで、僕は絶対に指導できると確信できたんです。そう思わせてくれた冨井先生に感謝しています。

選手の自主性を育てる方法

竹村 実績といえば、こちらの水泳部も長い歴史のなかで、輝かしい記録を打ち立てられています。

渡邊 ひとつ目の波は、1994年からの2年間ですね。そこから、僕が入って1年目の2008年もすごかった。覚えているのは、インターハイまでのカウントダウンを毎日、ホワイトボードに書いて貼っていたこと。日数が近づくほど、チームが盛り上がって、すごいなと思って教訓にしたんです。今は生徒が書いた目標を全部貼っています。

何がすごいって、“見える化”をすることで、生徒たちの自主性が育つんですよ。生徒から、「優勝しよう」という言葉が出る。僕らはさ、クラブチームとは違う、いわゆる普通の高校の水泳部でしょう。昼休みはみんなで集まるし、掃除もみんなでするしで、ガツガツしていないというかほんわかしている。だけど、勝つ時はみんなから声が出るんです。

ただ僕が先頭に立ってピリピリしてしまうと、緊張がみんなに伝わるからもうしない。みんなのポテンシャルにかける。おかげで、いい形になれていると思っています。

竹村 生徒の自主性を促すために、元太さんなりに心がけていることはありますか?

渡邊 練習中はすごい言うよ。「どこで、どうなりたいねん」って。やっている延長線上に目標があるかどうかをずっと意識させる。

竹村 意識づけの声がけを日頃からされているんですね。

渡邊 ずっと声かけをしています。例えば4本泳ぐとすると、体力をちょっと温存しておいて最後の4本目を頑張りたいって思うことが当たり前。1本目から思い切ったらやばいって確かにわかるよ。でも、僕は「最初からエンジンをかけろ、バケモンになれよ」って言う。馬鹿みたいにバーンと行けって思うねん。

でも、調子や機嫌が悪い時もあるやんか。1、2本目で本来のタイムが出ない時は、最後の4本目だけ決めたれと指導を変える。その方が調子が悪いなりに達成感が湧いて気分いいやろ。だから、選手の機嫌もよく見ていますね。

竹村 コーチが生徒の機嫌をうかがうってすごいですね。一般的に考えたら逆じゃないですか。

渡邊 むっちゃ機嫌を見て、今日は不調ぎみやなとかチェックしながら泳ぐ順番やメニューを決めています。特に不平不満は言われないですね。3年生ぐらいになると、友達のような感覚やね。生徒たちも、とてもフレンドリーに話しかけてきます。

「1年生には仕事をさせない」その心は…

渡邊 僕は、1年生に仕事を振りません。試合の観覧席の場所取りとか、よく1年生がやるような仕事は全部3年生が動いています。

竹村 1年生に仕事を振らない理由は?

渡邊 会社なら、社長を呼びに行くのはヒラじゃなく、大体は部長がやる役目やん。だから、3年生が仕事するねん。うちは、1年生が大きな荷物を持って会場に早く来るという姿は一切ないですね。

僕がコーチになってからそうしています。ただ掃除は1年がする。で、点検は2年。でも、掃除ができていなかったら、仕上げをするのは3年やねん。

竹村 めちゃくちゃ面白いですね。そういう精神で育った生徒の皆さんは、すごく活躍しそうです。

渡邊 インカレ行ったら、めっちゃ言われんねん。太成の子はキャプテンシーがあるって。自分のことは自分でやれるし、何をするべきかよくわかってるって。

僕はいつも、「誰よりも先に拍手をできる人間になりなさい」って言うてるんです。拍手って1人がやったら、全員が絶対やるでしょう。良いことを率先してできる人間になってほしいので。

竹村 主導権を握ることができますもんね。太成はキャプテンに選ばれるような生徒たちの集団とも言えると思いますが、その中で部のキャプテンになれる子は、どんなタイプなのでしょうか。

渡邊 誰とでも分け隔てなく接することができる、中性的なタイプやな。あとは、声がよく出て言いたいこと言える生徒やね。実力は全く考えていません。

部員が皆、水泳を好きでいられる明確な理由

竹村 どんな生徒が水泳部に入ってほしいですか?

渡邊 ほんまに水泳が好き、ただそれだけでいいです。うちは、泳がれへんかった子もおるし、中学まで全然違う部活をしていた子もいます。その子は、ラグビーをやっていたけれど高校に部がなかったのと、オリンピックを見て水泳が好きになったことで、入部してきてくれました。泳ぎたいという強い気持ちがあれば、すごいパワーが生まれるんです。ほんま水泳好きが集まっているという感じです。

竹村 泳げない子の対応はどのようにされていますか?

渡邊 「どうなりたい?」と希望を聞きますね。「試合に出たくない。その代わり、練習は休まず頑張ることを目標にします」と言う生徒もいて、それをみんなで共有します。

僕の一番の自慢は、監督になって10年以上が経つけど、部員が90人以上いるなかで、1人もネガティブな理由で辞めていないこと。オリンピックに出場するような子がいれば、20mをやっと泳げる子もいる。競技力が違うとなかなか一緒にいられないと思うけど、誰も辞めん。

ただ、将来なりたい職業が明確になり、そこに注力したいという理由で水泳から離れたというのは1、2例あるけれど、水泳が嫌いで辞めたわけではないです。プールがあるから学校に来たい、そう思ってくれたら嬉しいね。

竹村 最後に、みんなが辞めない、太成学院大学高等学校水泳部の魅力を教えてください。

渡邊 なんやろな。自主性が育つというのは絶対そうだと思う。それと、めっちゃ対話しているのも大きいかな。僕が怒る時は、先述した「できひん」と最初から諦めて、自分の可能性を削ったりした時です。なんでダメなのか理由も説明するねん。だけど、高校生ともなればそれで納得しない子もおる。そういう時は、じっくり話し合ってフォローするんです。そうやって不満が溜まらないようにしているのも、水泳を好きでいられることに繋がっているのかもしれへんね。

竹村 元太さんと部員との絶妙な距離感が、水泳を楽しみながら高みを目指せる原動力の一つと言えそうです。水泳に限らず、自主性やキャプテンシーを身につけられることも大きな魅力ですね。本日は、ありがとうございました!

(インタビュー:竹村幸、文 :伊藤 順子)

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