【彫刻家・堀園実さん(静岡市清水区)ミニインタビュー】静岡市葵区で6月28日から個展。バリ島の砂浜で見た風景を起点に
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。静岡市葵区のボタニカ・アートスペースで6月28日、同市清水区の彫刻家堀園実さんの個展「満月という名の、渚にて」が始まる。昨夏、バリ島で得たインスピレーションを基に、彫刻や写真、音源作品で組み立てた展示の意図について、開幕前日の会場で聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充)
-個展を構成する上で、最初に何を考えましたか。
堀:去年の夏、(インドネシアの)バリ島で撮った写真が出発点ですね。
-海辺の砂浜に、仏教やヒンドゥー教の神さまの像が集まっています。
堀:バリ島のウブドにいたんですが、海が見たくなってドライバーさんに案内してほしいと頼んだら「白い海と黒い海のどっちがいい」と聞かれて。「じゃあ、黒い方で」と答えたら、この場所に連れていってくれました。
-たまたま出合った風景なんですね。
堀:手前に花が供えられていて、その奥の海では沐浴している方がいて。近くでは砂に埋れて療用している人たちや、太鼓をたたいている人、たこを揚げている人も。いろんな人がいて面白かったですね。
-この像のどんな点に引かれたんですか。
堀:さまざまな神さまが集まっていますよね。まさに作品だなと思って。恐らく 1 人で作ったのではないと思んです。なんとなく増えていく、みたいな感じ。広い砂浜の1カ所にギュっと集まって、全体として何かすごいパワーを持っている。存在感に引かれました。
-そこから派生して他の作品もできたんでしょうか。
堀:そうですね。(写真作品について)これもバリなんですよ。モノクロ写真のネガを使って。
-正常の現像と反転させた現像を組み合わせた作品。不思議な雰囲気ですね。
堀:バリではボタニカでよく展示をするアーティストの皆さんや現地の方々と一緒に展覧会を催したのですが、その会場だったアルマ美術館で撮影したものです。
-会場中心に置かれた、人物をかたどった彫刻はどういういきさつでつくったものですか。
堀:バリとは直接関係ないかもしれません。石こうの型をつくって粘土に置き換える「型取り」の中で出てきた作品ですね。人の形に見えると思いますが、本当の人じゃない。しかも、壊れていくところが想像できるような(一部裂け目があるような)状態。
-周囲の石や流木の彫刻から、波打ち際の風景であることが分かります。その中で人間が一番「朽ちやすい」存在であるように見えます。
堀:「老いていく」とかではなく、イメージとしての人間はかなり曖昧な存在なんじゃないかというのが意識したところです。ちょっとした衝撃で簡単にひびが入るし、その途端、その形ではなくなる。見えているものに対する「疑い」がテーマですね。
-マッス(物体としての量感、まとまり)とは無縁であるように感じますね。
堀:造形作品を作る時はマッスを大事にするんですけど、型でやる仕事は自分の手をなるべく加えないようにしています。写し取るという意味で写真に近いですね。素材だけが変換する。そこから違和感やギャップが生まれる。
-別の部屋では、映像と石こうの型そのものを展示して、型取りの作業工程が分かるようにしています。ユニークですね。
堀:単純に面白いなと思ったんですよ。中身がない「型」に接することで、粘土作品の見え方が変わってくるかもしれません。
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■堀園実個展「満月という名の、渚にて」
会場:ボタニカ・アートスペース
住所:静岡市葵区研屋町25
入場料:無料
会期:6月28日(土)~7月6日(日)
開廊時間:午後1時~7時 ※月曜休館