22年ぶりの熱狂来日公演! フリーク・キッチン 2025.9.18 @渋谷クラブクアトロ
世代を問わない根強い人気
マティアス“IA”エクルンド(g, vo)率いるスウェーデン産プログレッシヴ・メタル・バンド、フリーク・キッチンが2003年以来となる、22年ぶりの来日公演を実現させた。マティアス個人としては、2024年と2025年5月に開催された“サウンドメッセ in OSAKA”をはじめ、楽器のデモンストレーションやクリニックなどで何度か来日しており、プロ・アマ問わず幅広い世代のギター・プレイヤーの間で名前が知られた存在ではある。しかしフリーク・キッチンに関しては、日本で一番注目を集めていたのが’90年代半ばから’00年代初頭のこと。現在、彼らのライヴを観たいと思う人がどれぐらいいるのか不透明な状況だった。
ところが、この日の東京・渋谷クラブクアトロはほぼいっぱいと呼べるほどの人が集まっており、その根強い人気には正直驚かされた。しかも、比較的若い世代の観客も数多く詰めかけていたのが注目すべき点だが、この日のライヴは日本のモダン・プログレッシヴ・ロック・バンドulma sound junctionがオープニング・アクトとして熱演。フリーク・キッチンの「Silence!」をハイ・レベルな演奏でカヴァーするなど場内を大いに盛り上げた後、フリーク・キッチンのライヴが始まった。
オープニング・ナンバーは新作『EVERYONE GETS BLOODY』(2024年)からタイトル曲の「Everyone Gets Bloody」。Freak Guitar Lab製の8弦ギター“ULV 8”を使った重厚なサウンドでギター・リフを刻むマティアスは流石の存在感を発揮しており、22年前より風格も貫禄も備わったという印象だ。警察官をモデルにしたような格好をしたクリスター・ハイセン(b, vo)、ビヨルン・フリックルンド(dr)がタイトに刻むビートも心地よく、まさにフリーク・キッチンが帰ってきた!と感じた。続いて、バンドは4つ打ちビートを軸にした「Morons」をプレイ。ノリのいい演奏に観客も自然と体を揺らす中、マティアスは独特なトーンによるメロディアスなギター・ソロを展開して観客を圧倒した。
MCを挟んでバンドは「Taste My Fist」をスタート。凝った展開が特徴的なこの曲のヴォーカル・パートで、アクセルとブレーキを頻繁に踏み換えたかのような緩急自在のプレイを見せつけた後、間奏部分ではクリスターのウォーキング・ベースをバックにマティアスはフィンガー・ピッキング、タッピング、アーミングを交えた妖艶なギター・ソロを披露。終盤はアグレッシヴに攻めまくり、その多彩な演奏に対して、曲が終わった後、観客は大きな拍手を送っていた。次にクリスターがリード・ヴォーカルを担当したアップテンポの「Push Through」を挟んで、バンドは「Speak When Spoken To」をプレイ。リズミカルなこの曲ではサビで大合唱となったが、ギター・ソロ前に突然演奏をストップした。マティアスは「LINE 6の“Helix” (アンプ/エフェクト・プロセッサー)を使ってリズムとリード・ギターの2つの音色を使い分けているが、俺の足がバカデカいからちゃんと切り替えられない」と言って観客から笑いを取ると、リズムとリード・サウンドの違いを実演した後、ギター・ソロから演奏を始めて観客を盛り上げていた。
マティアスらしさを発揮したギター・フレーズ
マティアスが「次はフリーク・キッチンのクラシック・ソングだ」と紹介して、『MOVE』(2002年)から「Porno Daddy」をプレイ。ヘヴィでグルーヴィなギター・リフで始まり、キャッチーなサビが特徴のこの曲では、高速タッピングやアーミングを使ったアヴァンギャルドなギター・ソロが目を引いたが、次のヘヴィでダークな「Professional Help」のギター・ソロでもスライドを多用したフレーズの後、タッピングが効果を発揮していた。曲が終わると、次にプレイするスウェーデン語のタイトルがついた曲「Så Kan Det Gå När Inte Haspen Är På」のサビを一緒に歌ってもらうために、スウェーデン語の読み方を観客に練習してもらった後、バンドは曲をプレイ。疾走感に溢れたこのナンバーで、観客は「ヘイ! ヘイ!」と拳を突き上げて盛り上げると、サビでは練習どおりに大合唱となった。
マティアスのMCを含め、観客が楽しめる要素があるのもフリーク・キッチンのライヴの魅力である。ショウは後半に入り、クリスターがリード・ヴォーカルを担当した新作からの「Down The Drain」を始めた。8弦ギターならではのヘヴィなギター・リフを軸にしたミドル・テンポのこの曲でも、タッピングとアーミングを使った無機質とも言えるギター・ソロで独特なムードを作り上げると、続けて1stアルバム『APPETIZER』(1994年)から「Raw」をプレイ。ヘヴィでシンプルなギター・リフ、イントロでのピック・スクラッチ、グルーヴィなリズム、キャッチーなサビのメロディはまさに初期の彼らならではと呼べるもので、当時、彼らがシーンに登場した時のことを思い出したが、ギター・ソロは今のタッピング中心のスタイルでプレイされており、かつてのトリッキーなプレイは若干控えめになっていた。
そして新作から北欧らしい哀愁を感じさせるヴォーカル・メロディが印象的な「Medal」、ヘヴィでミステリアスなスロー・テンポの「Troll」の2曲では歌とメロディで観客を魅了すると、ulma sound junctionが先ほどプレイした「Silence!」をプレイ。ギター2本のulma sound junctionはモダンでアグレッシヴなスタイルでプレイしていたが、本家は複雑なリズムのこの曲をキレとパワフルな演奏でプレイ。鬼気迫るような演奏は圧巻で、観客もサビで「Silence!」と大声で叫び、楽曲を盛り上げていた。
MCを挟んでマティアスが低音弦でタッピングのフレーズを軽く弾いた後、「Razor Flowers」のイントロのギター・リフを弾き始めると、観客から大歓声が上がった。クリスターがヴォーカルを務めたこの曲は、物悲しさを感じさせるメロディが特徴となっていたが、演奏が静かになった間奏パートではヴォリューム奏法やアラン・ホールズワースを思わせるアウトした旋律によるプレイ、タッピング、アーミングなどでマティアスらしさを発揮。終盤には「Razor Flowers」というサビのフレーズを観客が大合唱して場内が感動的なムードになった後、バンドは本編ラストの「Propaganda Pie」をスタートした。スピーディーなパートから裏打ちビートのパートなど、凝ったリズム・パターンの中で、キャッチーなヴォーカル・メロディが光ったこの曲でもパワフルな演奏で観客を圧倒。アンコールでは、タグが付いた新品のFreak Guitar Labの“ULV 8”(どうやら日本のファンが購入したものをステージで弾くというサービスらしい)を手に「Freak Of The Week」と「Nobody’s Laughing」をプレイして、約1時間40分のショウは終わった。
重厚なサウンドとグルーヴ、親しみやすいヴォーカル・メロディなど、観客を心地よくさせる要素を満載したライヴだったが、3人の息の合った演奏が素晴らしく、マティアスのリズム・ギター、ギター・ソロも見応え満点だった。MCも十分に楽しめて、この日、会場にいた大半の人が次の来日公演もリピートしたいと思ったことだろう。
フリーク・キッチン 2025.9.18 渋谷クラブクアトロ セットリスト
1.Everyone Gets Bloody
2.Morons
3.Taste My Fist
4.Push Through
5.Speak When Spoken To
6.Porno Daddy
7.Professional Help
8.Så Kan Det Gå När Inte Haspen Är På
9.Down The Drain
10. Raw
11. Medal
12. Troll
13. Silence!
14. Razor Flowers
15. Propaganda Pie
[encore]
16.Freak Of The Week
17.Nobody’s Laughing
Photo credits
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Jun Tsuneda
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(レポート●Jun Kawai)