ジーニアスプロジェクトが放つ、次世代ベイトフィネス機「ジェネレウス」:今江克隆が見出し、三原直之を惚れさせた開発者のこだわり
バスフィッシング界に、また一つ注目のリールが投じられた。手掛けたのは、今江克隆らトッププロも一目置く“天才職人”、青木哲が率いる「ジーニアスプロジェクト」。同メーカーが今回発表したのは、ベイトフィネス領域をカバーする新リール、「ジェネレウス」だ。アングラーの「便利さ」を極限まで追求したという最新機種。その革新的な機能とデザインを、ここで詳しく紹介していこう。
◎編集部まとめ
ジーニアスプロジェクトとは?
ジーニアスプロジェクトはリールやロッド、カスタムパーツやシンカーなどの小物類を開発するブランドである。「グラビアス」という名のロッドとリールは年々存在感を増しており、ネコリグ用のオリジナルシリコンチューブやスクリューネイルは替えの効かないアイテムとしてアングラーに愛されている。すべてのタックルに「その手があったか!」と唸らされる工夫が施されているのだ。
クラフトマンの青木哲は兵庫県・西宮市でプロショップ「疑似餌屋」を営む釣具店店主でもあり、JB TOP50の現役選手でもある。青木は25歳のときに疑似餌屋をオープンし、40歳のころにはバスフィッシング関係のパーツ作りやカスタムを本格的にスタートさせる。
工業製品などのデザイナーだった祖父の影響があり、幼いころから工作やお絵描きが大好きだった。そして小学生低学年のころから磁石が好きで永久機関に興味があった。マグネットを用いて鉄球を回し続ける永久機関作りに挑戦していたという。バス釣りをはじめたのは小学3年生のころだ。何事にも「本当にこれでいいの?」と疑問をもち、試行錯誤が大好きな性格だった。
青木哲(あおき・さとし)
1971年7月19日生まれ、大阪府出身。兵庫県・西宮市にてプロショップ「疑似餌屋」を営む。ジーニアスプロジェクトを主催しロッドやリール、カスタムパーツの開発も行なう。JB選手でもあり2025年TOP50に参戦。
今江克隆が認めた才能
青木の才能をいち早く見抜いたのが今江克隆だ。ふたりの出会いは44歳のころ。「釣り祭りin芦田川」で青木の作ったカスタムパーツが目にとまったのがキッカケだった。それはアブ・ガルシア製ベイトをロングノーズ化(スプールとレベルワインダーの距離を長くする)ためのパーツで、キャスト時にラインの角度がマイルドになるため飛距離が向上する特徴があった。「これええな」とふたりの付き合いがはじまり、その後はリールだけでなくロッドカスタムなどさまざまな分野で今江は青木の手がけるアイテムを使っている。
三原直之がメイン機種に指名
その後、青木がグラビアスを世に放ったのが48歳(2018年)。「ダイワとシマノを超える」という思いで手掛けたリールだった。その後すぐこの機種をメイン機種に指名したのが三原直之だった。グラビアスを選んだのはなぜだったのか。
三原「理由はひとつ。青木さんの熱意です。ダイワとシマノという高い壁を本気で越えようとしていることが言葉の端々から伝わってきた。正直、最初は『さすがにそれはキツいんじゃ……』と思ったんですよ。けど、使ってみてその言葉に1mmの嘘もないし、現実的な目標であることがわかった。ジャイアントベイトやマグナムスプーンを投げ倒して、本気で壊すつもりでゴリゴリに使ってみたんですよ。青木さんはパワーゲームはあまりやらないので、そこの作りは甘いんじゃないかと思って。けど、全然壊れなかった。ああ、心底本気なんだなと思って、青木さんの熱に乗せてもらおうと思ったんです。それからずっと青木さんのお世話になっていますけど、青木さんは“便利”を常に模索している人。『コレでいいや』がまったくない人なんですよ。その開発には常に“便利”が裏付いているんですよ」
新機種リール・ジェネレウスが登場
そんな青木がひそかに開発を続けていた隠し玉がある。その名も「ジェネレウス」。
青木「オールマイティーなグラビアスに対して、ジェネレウスはベイトフィネスの領域に重点を置いたモデルになっています。グラビアスよりひと回りコンパクトです。気持ちよく投げられるルアーのど真ん中は2.7gスモラバや3inファットヤマセンコーのノーシンカーリグあたり。もちろんさらに軽いリグもいけます。最後はユーザーの皆さんの判断になりますが、大手メーカーのリールと性能面で勝負できるモデルに仕上がりました」
ベイトフィネス以外にも対応するバーサタイル機
ブレーキシステムは青木が考案した高性能な「無振動マグネットブレーキ」。ボディー素材はマグネシウムだ。そしてスプール径は32mm。ベイトフィネス機であればさらに小さい径も考えられるが、なぜ32mmなのか。
青木「うちのブレーキシステムだとスプール側に重いユニットを配置する必要がありません。アルミの板を貼るだけなのでスプールを軽く作れるんですよ。なので32mmで充分な立ち上がりを得られる。もうひとつ、MCスクエアードのセラミックダブルボールベアリングを搭載できているのも大きい。このベアリングは誰でも体感できるレベルで回転のスムーズさが向上します」
全周に均等配置されたマグネットはスプールの回転にムラを生じさせない
このセラミックダブルボールベアリングの凄さには三原や志達らプロスタッフも舌を巻いたという。記者もシングルのベアリングとダブルを投げ比べてみたが、ピッチング時の軽量ルアーのひと伸びをはっきり体感できた。青木はこのベアリングを「奇跡のベアリング」と呼ぶ。
青木「無振動マグネットブレーキとダブルボールベアリングの相乗効果で納得の仕上がりになりました。ベイトフィネスに特化したモデルというわけではなくて、ベイトフィネスの領域もカバーするバーサタイル機という表現がしっくりくるかもしれません。たとえば志達海輝はジェネレウスでアラバマやビッグベイトも投げています」
スプールはMCスクエアード製で素材は超々ジェラルミンだ。肉抜きにも注目したい。これまでサイド部まで肉抜きすることは強度面で無謀とされることもあったが、機械の進化と手削りによる仕上げで強度を確保しつつ肉抜きすることに成功している。
バックラッシュ知らずで、飛距離は犠牲にしない高性能ブレーキ
もうひとつ、青木が大事にしていることがある。
青木「一日釣りをしてバックラッシュなし。そんなリールを目指しています。うちは磁力の強いマグネットを採用しているので、ダイヤル0~4の弱めのダイヤルでもサミングがいらないレベルのブレーキが効いてくれる。かといって飛距離が犠牲にならない不思議な感覚をぜひ味わってほしいです。普通は楽なベイトリールは飛ばないんですけど、ジェネレウスは『飛んで楽ちん』が実現しました」
肉抜きされた32mm径スプールとセラミックダブルボールベアリングの組み合わせにはリスクもある。回転が軽すぎてトラブルが増えてしまったり、アングラーが扱いにくいフィーリングになってしまう可能性があるからだ。しかし、その危惧を杞憂に終わらせているのが強磁力マグネットによる無振動マグネットブレーキシステムだ。
青木の武器が化学反応を起こした結果に生まれたのはアングラーに優しい名機だった。