SHIROSE(WHITE JAM)インタビュー――「Tattoo」が、僕たちをホールに連れていってくれた
――2008年からWHITE JAMとして長く活動を続ける中で、この数年で「Tattoo」を筆頭に、「彼氏できるソング」がロングヒットとなっています。SHIROSEさんは、この現状をどう捉えていますか?
「嬉しいですね。でも、音楽を始めたころから全く自分のスタンスは変えていないんです。僕が作れる楽曲って、泣き歌か、ドSソング、そして、コミカルな曲。この3種類しかないんですよ。それに、僕が音楽を始めてから作った初期の10曲に、代表曲である泣き歌の「ウソツキ」もありましたし、ドSソングの「Tattoo」も別タイトルで作っていたんです。それらの曲を温めて、タイミングを見てリリースしているだけなので、本当に何も変わっていなくて(苦笑)」
――とは言え、かなりの数の楽曲提供もされていますよね。
「本当にありがたいです。でも、それも、僕の得意分野を分かってくださっているスタッフさんからの発注なんです。なおかつ、“これまで作ったWHITE JAMの曲をリファレンスとして作ってください”と言われることが多いので、これまで続けていて良かったなと思っています」
――泣き歌、ドS、コミカルという3本の軸は、SHIROSEさんの性格ですか?
「はい(笑)。完全に僕のパーソナリティだと思います。僕はもともとスポーツをしていたんですが、そこで“あの人に敵わない”、“あの人に負けている”という劣等感や、”僕にはできない”、“昔はできていたけど、今はできない”という喪失感をものすごく感じていました。幼少期からそういった感情がものすごく強かった人間なので、いざその心境を曲にしたときに、泣き歌とドSの曲がフィットしたんです。よく“音楽は嘘をつけない”と聞きますが、本当にそうだと思っています。ドS系の曲は、昔の彼女に言ってていた言葉そのもので(笑)。これが音楽の恥ずかしいところなんですが、自分が知られたくない部分の方が、聴く人は感情移入をしてくれるんですよね…。知られたくなければ、知られたくない程いいんです」
――なんとなく、わかる気がします。
「たとえば、「ウソツキ」は高校生の頃にものすごく傷ついた思い出を歌っています。「Tattoo」も、信頼関係がある人に言っている言葉そのものなんです。ただ、人前であの歌詞のような言葉を言うのはものすごく恥ずかしいんですが、そこをさらけ出しているからこそ、今、いろんな人に聴いてもらえているんだと思います。例えば、人に送るラインとかって、本人以外から見たら恥ずかしいですよね? でも、それが”リアル”っていうものだとしたら心を込めて描き切ることにしています。濁さず真っ直ぐに」
――そこまで全ての曲にリアルを重ねていると、身を削っての制作活動となりますよね。
「そうですね。でも、そこは変えられないところだなと思っています。一度、制作スタイルを変えてみようと思ったことがあるんですが、そこに自分の経験がないと、その曲の主人公を愛することができなくて…。それに、僕がそこを裏切ってしまったら、ファンの人を裏切るような気持ちになってしまうんです。だから、僕の人生はより恥ずかしくて、傷ついた方がいいのかな?って思っています…そこが音楽の愛おしくて面倒なところです(笑)」
――それだと、人生生きづらくないですか!?
「あはは。でも、もともと傷ついた時間を言語化することはしていたんです。音楽を始める前、スポーツをしていた頃も、練習日記に苦しい言葉をずっと書いていました。それが歌詞になっていたりもするので、書き留めておいて良かったです。それにその言葉を感じ取ってくれた人たちは、僕がエールソングを書いているつもりじゃなくても、そう受け取ってくれるんです。それに、泣き歌も、ドSソングも、コミカルな曲も、全くテイストが違っていたとしても、WHITE JAMの曲を聴くだけで“独りぼっちじゃないんだな”って気づいてくれるんです。しかも、なぜか金曜日の夜に感じてくれる人が多くて、DMやコメントが増えるんですよ」
――みんなが楽しいと思っている金曜日の夜に、ふと寂しくなって、WHITE JAMの曲を聴く人が多いのかもしれないですね。
「そうだと嬉しいですね。ただ、僕の声は、夏にまったく響かないんです!」
――季節で違うんですか!?
「全く違います! 不思議と、気温が下がってきたときにすごく反響が増えるんです。なので、今の季節は本当に助かっています(笑)」
――あはは。
――先ほど、“作っている楽曲は全く変化がない”と言っていましたが、恋愛観や考え方が変化して、歌詞が変わることもあると思うのですが、いかがですか?
「それが、僕はもう2才から性格が変わっていないんです」
――2才!?
「はい。来年から幼稚園に通うという年に、初めて友達とケンカをした記憶と、好きな子ができた記憶もあるんです。そこから“悔しいな”とか”あの人が好き”という感情が芽生えて、好きと嫌いという気持ちに対してすごく極端な自分がいたんです。でも思春期に入った中学2年生の頃に、“このままの自分だと、人生ヤバいな”って思いました。そこでスポーツを始めて、感じていたことを記録したり、曲にし始めたりしたんです。だから、基本的にはその頃から自分は全く変わっていません」
――その変わらないスタイルから生まれた楽曲を、これだけ多くの人に聴いてもらえるのはすごく嬉しい事ですよね。
「感謝しかないです。それに、泣き歌を歌っていても、ドSソングを歌っていても、コミカルな曲を歌っていても、泣いてくれるお客さんがいるんです。それって、どんな曲でも、刺さっている感情の種類は一緒なのかな?と思っていて。きっと、聴いてくれるみなさんの寂しい時を支えられたからこそ、曲を聴いて、涙を流してくれる…そう思うと、妥協せずに曲を作り続けてきてよかったと思います」
――SHIROSEさんような曲の作り方をしていると、ものすごく大変だと思うのですが、今後も変わらなさそうですね(笑)。
「いやー、変わらないでしょうね(笑)。それに、歌詞もそうですが、サウンドもすごく悩んでしまうんです。一度悩み始めると、その答えが出るまで眠れない日々が続いてしまって。実は今日も、8日間ほぼ寝ていない状態です(苦笑)。「Tattoo」を作った時も、20パターンくらい作って、ベースの音とかも何が一番ベストなのか?をとにかく研究して作り上げているので、すごく時間がかかりました。何時間かけたら完成という世界ではないので、出来ないところはとにかく考え続けるしかないんです。以前、心臓を研究している博士と一緒に楽曲を作ったことがあるんですが、そこで周波数についてものすごく勉強しました。音楽って、やはりすごく面白くて、ある一定のテンポだと犬が吠えたり、子どもが笑ったりするんですよね。芸人さんの音ネタなども、突き詰めるとそこに理由があって。しかも、人が寝るテンポもあるんですよ。それを踏まえて、“「Tattoo」のドSのベース音ってなんだろう?“と考えたときに、ものすごく時間をかけて考えて、<俺の目を見て服を脱げ>というフレーズだけ、実はベース音を変えています。このフレーズを完成させるまで、半年以上かかったので、今、その部分が響いていることを知って、無駄じゃなかったんだなと胸をなでおろしています」
――なんというか…言葉を選ばずに言わせていただくと、しんどいですね…。
「しんどいです!(笑) だから、音楽制作の時期が決まったら、まず、ずっと通っている大阪のジムに行ってトレーニングの合宿をするんです。そこで体力づくりをしてから挑むようにしています。始まると、ひと段落するまで眠れなくなってしまうので…」
――寝てはいけないんですか?
「寝ると、その曲に対してのインスピレーションが保てなくなっちゃうんです。寝て、朝起きると、消えてしまうんです。たとえ、メロディと歌詞があったとしても、そのインスピレーションがないと、いい曲が完成しません。以前、アルバイトをしながら音楽活動をしている時に、朝の満員電車でインスピレーションが降って来たことがあったんです。それを夜まで必死に覚えておいて、家に帰るんですが、その日の夜はもう疲れ切っていて…。でもこのインスピレーションだけは失くしたくないから、電気も水道も止まっている部屋で、充電ギリギリのパソコンで曲を打ち込んだこともありました。人間、充電切れ寸前のパソコンでの曲作りってものすごい集中力を生むんです(笑)」
――わかる気がします(笑)。
「僕はクリエイティブって、誰も見たことがないものを作る、誰も聴いたことがない音に手を伸ばすことだと思っていて。その一番を自分が発見することって、本当に大変で難しくて、苦しい事だからこそ、ものすごくやりがいがあります。まぁ、辛いんですけどね(笑)」
――でも、やめられない?
「やめられないです。その時に苦しい想いをして生んだ曲が今、リリースから時間をゆっくりと経て多くの人達に聴いてもらえているので、本当に「Tattoo」という曲を信じてあげて良かったです」
――サブスクが主流となった今、リリースと共にヒットすることは稀ですしね。
「僕らの場合は特にそうなんです。リリースした瞬間にヒットしたことなんて今まで一度もないですから。でも、長い時間をかけて、愛される曲になったことは、本当に嬉しいですし、これからもいい曲を妥協することなく、作っていきたいです」
――そして、『WHITE JAM TOUR 2025 「TATTOO」全国24ヶ所 ー初のホールライブへの道ー』が2024年12月21日から始まりました! 今回は、A、Bと2種類のセットリストが用意されているんですね。
「はい。1つは歌ものが多くて、もう1つはアップテンポのものが多いセットリストになります。いつも何公演も来てくれる方もいるので、2パターン両方を楽しんでもらえたら嬉しいです。僕らのライブは、みなさん歌ってくれる人が多くて。その風景を見ると、曲に対して出会い方は違うけれど、それぞれに想いがあることを感じて、すごく嬉しいんです。それに、先ほど話したように、僕は辛い事、きつい事を曲にしているので、みんなもそういったことが伝わって支えられているんだろうなと思うと、生きている場所は違えど、同じ心の種類を持っている人たちが集まっているんだろうなって思えるんです。僕の曲をお守りみたいに思ってくれてるのかな?って。なので、「Tattoo」だけしか知らない人でも全然大丈夫ですし、それぞれの楽しみ方をしてもらえたら嬉しいです」
――そして、そのツアーの最後を締めくくるオールラスト公演が、LINE CUBE SHIBUYAとなりますね。
「そうです! 「Tattoo」が多くの人に知ってもらえたおかげで初めてホールに立つことができるので、すごく嬉しいです。僕たちは2019年に、“すごく調子がいいな”と感じていたんですが、コロナ禍となり、一気に転げ落ちました…。それまで1,600人規模のライブを埋めていたのに、お客さんが2人だけしか来なかったこともあったんです。その2人の前でライブをしながら、“もう終わりなのかもしれない”と思いましたし、周りの音楽仲間も解散をしたり、辞めたりしていて、とにかくギリギリの状態を経験しました。でも、こういう時こそ曲を作るべきだと思い、「Tattoo」を完成させたんです。もちろん、最初は何の反応もなく、“やっぱりダメなのかな…”と思ったんですが、曲のことだけは信じていました。それから徐々に曲が広がっていき、2024年の8月にZeppを完売させ、やっとホール公演が実現することになりました。言ってしまえば、「Tattoo」が、僕たちをホールに連れてってくれたんです」
――その2人だったお客さんも、来てくれたら嬉しいですね。
「きっと来てくれるはずです。あの2人にとって、“2人しか来なかったライブに行ったんだよ”と言ってもらえるような、自慢してもらえるようなライブにしようと思っています。ものすごく気合いが入っているので、ぜひ遊びに来てください!」
(おわり)
取材・文/吉田可奈
RELEASE INFORMATION
2025年1月29日(水)発売
WHITE JAM『Tattoo』
LIVE INFORMATION
オールラスト公演
2025年9月20日(土) 東京 LINE CUBE SHIBUYA
WHITE JAM TOUR 2025 「TATTOO」 全国24ヶ所 ー初のホールライブへの道ー