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【レビュー】『キャプテン・アメリカ:BNW』新アベンジャーズへの一歩、過去と未来の交差点

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いくつかのレイヤーに分かれて、には軽快さと複雑さが混じっている。

事前に最も懸念されたのは政治的複雑さだ。ハリソン・フォードがサディアス・サンダーボルト・ロスという名の新しいアメリカ大統領を演じる。劇中でスピーチ中に襲撃されたり、赤色のハルクになって暴れたりする展開から、ドナルド・トランプに重ねて見られた。また、イスラエル人エージェントであり元ブラック・ウィドウのサブラ(シラ・ハース)というキャラクターの登場も、パレスチナ問題と絡めて。

マーベル・スタジオは、政治的な怒りを買うリスクを可能な限り回避した。ロスは単に、権力を持ちながらも個人的な葛藤と責務の重みに押しつぶされそうになる男として描かれ(ハリソン・フォードの熟練の技が大きく支える)、具体的な政治的信条には踏み込まない。サブラはルース・バット・セラフとの名に改められ、米国の安全保障補佐官という設定に変更することでイスラエルとの接点を実質取り除いた。

© 2024 MARVEL.

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ロス大統領は“Together"を標語に青基調のステージに立ちながら、後にレッドハルクへと変貌。「いつから赤に?」と指摘するセリフもあるものの、そこに政治的な深読みは無用の物語となっている。その点は軽快で、むしろ傾倒したのは新登場の最強元素アダマンチウムをめぐるスリリングな攻防戦と陰謀だ。

黒幕が裏で糸を引く陰謀スリラーが二転三転するが、まわりくどく混乱するかもしれない。サム・ウィルソン役のアンソニー・マッキーの精悍な演技が見事だが、作品としての緊迫感や悲壮感は(2014)に軍配があがる。良くも悪くも、本作でキャプテン・アメリカたちが振り回されるのは個人的な問題だ。

© 2024 MARVEL.

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アクションはマーベル映画らしい爽快感満載。『ウィンター・ソルジャー』で見られた近接格闘の精神を受け継ぎつつ、ウィングスーツを活かした“人間トップガン”のようなスカイアクションも見られる。レッドハルクとの対決は大スクリーンによく映えて豪快。良い意味でMCU初期作のような、純粋なヒーローアクションが楽しめる。

別の面で複雑さをもたらしたのは過去作の存在だ。

配信の「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(2021)ではサムが盾を継ぐ決心に至る物語を描いたが、本作劇中では未履修の観客のためにドラマで描かれた葛藤と克服をやり直すようなやり取りがある。ある意味でドラマの内容を無に返すような部分もありつつも、そこは製作者の親切心と受け止めたい。トーンは「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」から地続きだが、復習は必ずしも必須ではないだろう。

© 2024 MARVEL.

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それよりも伏兵だったのが(2008)だ。この作品に限ってエドワード・ノートンがハルク/ブルース・バナーを演じた同作は、(2008)に続くMCUの初々しき第2作であったにも関わらず、長年ファンの間では「特に観なくても良い作品」扱いされることが多かった。ところが最近の作品内では同作が再言及されるようになり、にわかに存在感を増していた。

『ブレイブ・ニュー・ワールド』では、“皆さんご存知『インクレディブル・ハルク』のアレですが”みたいな顔で、同作の要素が次々と再登場を果たす。ロス大統領と娘のベティ(リヴ・タイラー)の関係、さらにサミュエル・スターンズ(ティム・ブレイク・ネルソン)の物語は本作で大きな部分を占めるのだが、ほぼ『インクレディブル・ハルク』の続編のようにして展開される。何か1本、過去作をおさらいする時間があるのなら、『インクレディブル・ハルク』を選ぶことをオススメする。

© 2024 MARVEL.

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新生キャプテン・アメリカの誕生作として心機一転のスタートを切りたい一方で、『インクレディブル・ハルク』などの過去作から尾を引いているところも小さくない。ファンにとっては過去と未来の交差点として感慨深いだろう。新しい観客も同じように楽しんでくれたらと願いたい。

そのほか見どころは(MCU)における日本の台頭。我が国はMCU世界で国際的な影響力を持っているようで、尾崎総理大臣として「SHOGUN 将軍」でも注目の平岳大が登場。ハリソン・フォードが演じる米大統領と堂々と渡り歩くばかりか、半歩リードするような頼もしさを見せる。

© 2024 MARVEL.

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次の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)級のクロスオーバー大作となる『アベンジャーズ:ドゥームズデイ』の公開(2026年5月1日)まで、実はあと1年しかない。しばらく二の足を踏んでいたMCUが、本作では新アベンジャーズに向けて本格的な一歩を見せる。超人血清を打たない生身の男サム・ウィルソンこそがなぜアベンジャーズの新リーダーとして相応しいのかを、堂々と証明する一本。シリーズの新設定を説明するための映画ではなく、キャラクターの地に足着いた成長譚を描く映画だ。作品の軽快さとヒーローの魂に目を向けて、新たなる羽ばたきを大スクリーンで存分に楽しんで。

(C) 2024 MARVEL.

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『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は公開中。

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