自閉症息子の安心、きょうだい児の幸せを願って…就学に向けての放課後等デイサービス探し、決め手は
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
放課後等デイサービスの決定までに感じたこと
息子の就学に向けて、放課後等デイサービス(以降、放デイ)のことは年中になったぐらいの頃から頭の片隅にありましたが、本格的に気にし始めたのは年長の終わり頃でした。
療育手帳A判定・知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子にとって、学校が終わったあとに安心して過ごせる場所と、私にとっても息子と離れて仕事をしたり休息をしたりする時間が必要なのは明らかでした。
社会福祉士さんと相談をしながら進めていく中で、当初は「利用できないか、利用できたとしても週1回しか利用できないかもしれない」と言われていました。
住んでいる自治体には当時、放デイが2つしかなく、そのうち1つは満員。重度の受け入れはしておらず、必然的に選択肢は1つだけでした。利用できたとしても週1回、ということは残りの日は13時半や14時に学校へ迎えに行き、自宅で過ごすことになります。
学校がある日はまだしも、夏休みや冬休みなどの長期休みを考えたとき、どうやって過ごせばいいのか想像もつかず、頭の中が真っ白になり、しばらく憂鬱な気持ちが消えませんでした。もちろん、これはわが家だけの問題ではなく地域全体の制度や支援の限界もあると分かっていました。
私だけが苦しいわけではないので、「なんとかしてください」とわがままを言うこともできず、どうにもならない現実に、悔しくて、悲しくて、何日も涙が止まりませんでした。
放デイを探す上で大切にしたこと
選択肢が1つとはいえ、週1回でも通えるならと実際に見学へ行きました。本来であれば、利用している子どもたちの様子や、先生たちがどんな雰囲気で子どもたちに接しているかを見たり、支援の方針はどうか、どういう療育を行うのか、息子が安心して過ごせるかを一番に考えるのだろうと思います。
当時の余裕がない私は、自分が1日でも休息できるならどんな場所でもと考えていました。ですが、見学時の先生たちはとても温かく、責任者の先生は息子の様子をしっかり見てくれて、私の話に親身に耳を傾け「大丈夫、この子は必ず成長します!お母さん、気になることや困ったことがあったら、なんでも言ってくださいね」と寄り添ってくれたことで、ここに通いたいという気持ちになりました。
特別支援学級や、特別支援学校、さまざまなタイプの子どもたちが通っていたので、最初は「息子が馴染めるだろうか」という不安がありましたが、心配をよそに通い始めた息子はすぐに馴染み、学校が休みの日なども朝から楽しみにしている様子で送迎の車に喜んで乗って出発していき、機嫌よく帰ってきます。
現在は週3回、下校時から17時までの利用(学校がお休みの日は9時から17時)ですが、それでも本当に助かっています。障害児育児をしていると、将来のことについてなど考えることが多く鬱々しくなりがちなのですが、放デイのおかげで気持ちに余裕ができリフレッシュすることで前向きに生活することができています。何より息子自身が楽しんでいるのが一番うれしいことです。
また、先生たちが本当に素晴らしく、学校と家庭での様子をしっかり把握した上で息子にとってより良い支援を考えてくれます。例えば、オムツのサイズが合わずに漏れなどで悩んでいると息子にぴったりのサイズのものを探してくれたり、排泄について悩んでいるとトイトレを積極的に取り組んでくれたり。絵カードや写真などの視覚支援も学校の先生と同じタイミングで開始してくれるなど、しっかりと息子を見て接してくれていると感じることができます。
次から次へと、おもちゃを散らかして遊ぶだけだった息子。「お片付けだよ!」と声を掛けると、おもちゃ箱におもちゃを片付けられるようになりました。
家庭での困りごとを学校や放デイの先生と相談しながら取り組んだり、放デイでできるようになったことを家庭でもできるよう頑張ったり、そうした連携の大切さを改めて実感しています。
もっと選択肢が増えてほしい
週3回通えているだけでもありがたいのですが、自治体によっては週5回や土日の利用が可能なところもあります。そうした環境と比べると、やはり「もう少し選択肢があれば」と感じることがあります。
例えば、放デイがない日は14時にお迎えに行き、自宅で過ごします。息子にとっては安心できる環境ですが、妹は習いごとに通うにも希望する習い事ではなく曜日や時間帯が合う習い事を選ぶしかなかったり、付き添いができないため友人に送迎をお願いしたり、家族の予定はかなり制限されてしまいます。
また、転勤でこの町に来る人にとっては、そもそも放デイを利用できるのかどうかが大きな問題になりますし、慣れない土地で頼れる人も少ないなか、放課後の居場所が確保できない不安は計り知れません。この地域では、通いたいと希望して見学など早めに動いていたとしても、転勤族の調整などで年長の3月後半くらいまでは通えるかどうかが分からない状態が続くこともあり、それも課題の1つだと感じています。
もちろん、すぐに増やすのは難しいことも理解していますが、それでも必要としている家庭がもっと安心して利用できる環境になってほしいと願わずにはいられません。
執筆/かさはらあやこ
(監修:鈴木先生より)
自治体によって放課後等デイサービスに差があるのは今の日本社会における問題だと思っています。障がいに対するサポートに差があってはならないのです。まして療育手帳Aという重度の知的発達症のあるお子さんには手厚いサポートが必要です。例えば、主治医から指示書を出して看護師などが自宅を訪問し看護を行う「訪問看護」もあります。最近は神経発達症や知的発達症のお子さんも見られる事業所が増えてきていますので、一度住んでいる自治体に相談してみてはいかがでしょうか。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。