イルカが寺社仏閣にお参りする? 全国各地に伝わる「海豚参詣」の伝説や言い伝え
「海豚参詣(いるかさんけい)」という不思議な言葉を知っていますか?
これは、イルカやクジラ、サメなどの海の生き物が川をさかのぼり、寺社仏閣にお参りするという日本各地に残る伝承のことです。初めて知ったときは「海の生き物が陸までお参り?」とびっくりしました。
日本各地に同様の話が残っているのも不思議です。
海豚参詣の伝承が残る寺社仏閣
青森県の諏訪神社には「イルカの諏訪詣伝説」が残っています。
工藤白龍著「津軽俗説選」(天明6年著 1786)によると、「毎月1度、沖の方から10~20匹のイルカが群れをなして、堤川の河口に入ってきて、青森の諏訪神社に参詣する。だいたい毎月の8日前後と18日前後にこの出来事が起こる。不思議なのは、イルカたちは水面に浮かんだり沈んだりしながら泳いでくるのに、社殿前の沖に差しかかるとその姿がまったく見えなくなり、そこを通り過ぎてからまた再び姿を現す」と記されています。
また、かつて湾の形を利用したイルカの追い込み漁が盛んだった岩手県大船渡市の赤崎には、「イルカの群れが追い込み漁が行われる湾の奥まで入り込み、3周回遊したのちに外海に出ていく」というエピソードがあるといい、地元の人たちはこれを「亡くなった仲間を弔いにきている」と言うそうです。
新潟県柏崎市にある「日蓮宗宗門史跡 番神堂」にも、イルカが群れを成してお参りに来るという言い伝えが残っています。
このような話は各地に伝わっており、中にはクジラやサメが登場するバージョンもあります。
いずれも似たような話であり、これらを見ていると、昔の人々もイルカが持つ知性の高さに気づいていたように感じます。だからこそイルカの行動が信心深いような行いに見えていたのでしょう。
ここでひとつ気になるのが、海の生き物であるイルカは実際に川を遡上することはあるのかということです。
イルカは川を上るのか?
実は、世界中で川を上るイルカが実際に目撃されています。
アマゾンなどに生息している淡水生のカワイルカの仲間もいますが、彼らは日本には生息していないので、国内の伝説や言い伝えの中で言う「イルカ」ではないでしょう。
一方、日本近海に暮らすイルカも、稀に川を上ることがあるようです。とくにハンドウイルカやスナメリなどは、河口から何キロもさかのぼる例が日本でも報告されています。
直近では、2025年4月に名古屋にて、河口から4キロ上流の川でスナメリが目撃されました。
これらは潮の満ち引き、エサの追跡、若い個体の迷入などが原因とされ、科学的に十分説明可能です。
つまり、海にいるイルカが寺社仏閣の近く川に現れるという、海豚参詣のような話はありえないことではなかったのです。
こうした現象を目撃した村人たちが「神仏に参拝に来た」と受け止めたのも、自然な感性だったのかもしれません。
昔から深いかかわりがあった人間とイルカ
海豚参詣という言葉には、自然を敬い、命を神聖視する日本人の心が映っています。
イルカやクジラ、サメといった海の生き物が、川をさかのぼって神仏に近づいてくる。そこには、神話のような響きと、確かな自然との接点が共存しています。
哺乳類でありながら、海で生きるイルカ。昔から人々は「魚とはちょっと違った生き物」と感じていたのでしょうね。
(サカナトライター:halハルカ)
参考文献
イルカの諏訪詣伝説-青森港守護神 諏訪神社
「川にいるのはとても珍しい」 名古屋で撮影されたスナメリが泳ぐ映像 魚を追いかけて上がってきた?-CBCニュース