カラパナ50周年【ケンジサノ特別インタビュー】② 安室奈美恵、EXILE、矢沢永吉との関係
カラパナ50周年【ケンジサノ特別インタビュー】② 安室奈美恵やATSUSHIに影響を与えた男
1970年代のサーフィンブームを牽引し、ハワイを拠点にした活動でリゾートミュージックの隆盛に大きく寄与したバンド、カラパナ。同時代のフュージョン・ブームともリンクするインストゥルメンタル作品で多くの人気曲を抱えるグループでもある。
2025年、そんなカラパナは結成50周年を迎え、精力的に活動を展開している。7月23日にはベストアルバム『Kalapana 50th anniversary - Timeless Voyage』をリリース。そして8月29日(金)、30日(土)の2日間、東京・丸の内のコットンクラブでアニバーサリーライブを開催する。
カラパナの現役メンバーとして活躍するベースの【ケンジサノ特別インタビュー】② は、彼が音楽プロデューサー、あるいはプレイヤーとして参加した日本のトップアーティストたちとの仕事について、そして50年を超えて活動するカラパナの今後についても話を伺った。
角松敏生と中山美穂を共同プロデュース
ーー ケンジサノが、カラパナでの活動と並行して、日本のアーティストたちの仕事に関わるようになったきっかけは1988年、中山美穂のアルバム『CATCH THE NITE』を角松敏生と共同プロデュースをしたことからだった。
ケンジサノ(以下:サノ):ロスに角松敏生くんが来た時、間にいる人が彼を紹介してくれて、すごく仲良くなったんです。“ああ、日本にもこういうミュージシャンがいるんだ” と僕も驚き、すぐ親しくなっていろいろと協力しました。逆に僕が日本に行った時、角松くんの紹介でNOBU CAINEというバンドを紹介されました。リーダーが齋藤ノヴさん、ドラムが村上 “ポンタ” 秀一さん、ベースが青木智仁くんで “こりゃとんでもないバンドが日本にいるんだな” と。僕は日本の音楽界の上下関係が苦手だったんです。でも日本に帰ってきてNOBU CAINEや角松くんのバンドを見た時、ミュージシャンたちが伸び伸びやっているなと思い、そこから日本のミュージシャンたちとの交流が始まりました。
ーー 1993年のカラパナのアルバム『Full Moon Tonight』には、杉山清貴がコーラスで参加している。
サノ:杉山くんはカラパナのことが大好きで、『Juliette』をカバーしていたんです。仲も良かったので、「それならコーラスやる?」みたいな形で決まりました。
安室奈美恵のベーシスト兼バンドマスターに
ーー その後、サノは安室奈美恵、globeなど、エイベックスのアーティストのレコーディングやライブにも深く関わるようになっていく。
サノ:1995年の終わり頃に、イギリスのR&Bシンガー、ジャッキー・グラハムの日本公演を手伝ったんです。ジャッキーはエイベックスと契約をしていたので、そこから関係ができました。その時、安室奈美恵の関係者から「アイドルなんですが、見ていただけませんか?」と声をかけられたんです。その頃はまだスーパー・モンキーズの一員だったのかな。1曲やってもらったら、ユーロビートのダンスはすごいし、ちゃんと歌っている。僕が「すごいね、この子!」と絶賛したら、「いやあ、アイドルなんですけど…」ってまた言うので、「なに言ってるの、この子はすごいよ、日本の宝になるよ!」って話したことを覚えています。
ーー ロスに帰ったサノは、現地で寿司職人をしている小室哲哉のマネージャーだった人物と知り合い、女の子をプロデュースするためにロスに来ていた小室を紹介される。そこから、数年前に見た安室奈美恵の仕事に関わるようになり、彼女のライブのベーシスト兼バンドマスターとなっていく。
サノ:最初は奈美恵ちゃんのツアーだけの話でしたが、結局レコーディングのディレクションも手伝うことになり、トータルでどっぷり関わりました。そのあと、KEIKOのディレクションもお願いしたいというので、結果、globeもどっぷりと。朝起きて、昼間は奈美恵ちゃんのバンドのリハをやって、夜は奈美恵ちゃんとKEIKOのレコーディング・ディレクション。夜中はマーク・パンサーのラップパートの英語詞を手伝って、深夜3時か4時になると、TK(小室哲哉)からファックスが送られてきて、次のミッションが書かれている。とんでもなく過酷な日々が、数年続きました。僕も若かったからできましたが。
ーー ところで、カラパナでやっていた音楽と小室サウンド、いわゆる打ち込みによるデジタルのダンスビートではかなり音楽性が異なるが、その辺りの切り替えはどのようにしていたのだろう。
サノ:TKにはあらかじめ「もう少しバンドっぽい音にしないか?」と言っていたんです。例えば「CAN YOU CELEBRATE?」でも、生のベースを僕が弾いていたり、globeでもセカンドアルバム『FACES PLACES』からは、打ち込みもありますがバンドの音も使っています。機械ばかりの音で、その上に歌を乗せているだけだったら、僕はそこまで関わっていなかったと思いますよ。
矢沢永吉に誘われツアーメンバーに
ーー 矢沢永吉の2000〜2001年のツアーにも、ベーシストとして参加している。
サノ:矢沢さんとは大昔に、一度だけ会ったことがあるんです。アメリカンスクールの後輩に、ロバート・ブリルというドラマーがいて、ロバートが矢沢さんのところでドラムを叩いていた時期があったんです。彼の紹介で一度だけ会って、その後、1999年頃にロスの日本食レストランで再びお会いしました。
僕はお酒が飲めなかったんですけど、日本酒を飲んで急性アルコール中毒になり(笑)。そこから親しくなって、2000年の頭ぐらいに「ケンジ、一緒にやろう」ってツアーに誘われたんです。今度はお酒も訓練して飲めるようになり、今はすっかり呑兵衛になりました。
カラパナが唯一認めたEXILEのATSUSHI
ーー そして今回のアルバム『Kalapana 50th anniversary - Timeless Voyage』の中で、新たにレコーディングされた「NIGHTBIRD」のボーカリストとしてフィーチャーされているのが、EXILEのATSUSHIである。
サノ:彼はカラパナ唯一の “公認飛び入りOKのシンガー” なんです。マラニがそういうのを嫌っていて、マッキーが亡くなった後、いろんな人が歌いたいと言ってきたけれど断り続けていました。でも日本にツアーで来た時に、僕がマラニを説得して、飛び入りで歌わせたんです。そうしたら彼が演奏中に僕のところに来て「彼ならいつ来てもいいよ」と言ってくれた。ATSUSHIはカラパナのことを本当に愛してくれていて、僕も、彼を初めて見た時 “このシンガーは何でこんなにハートフルな空間を作れるんだろう” と強く思いました。
ーー サノはEXILEがブレイクし始めた頃に、ライブのディレクターとしても関わっていた。
サノ:奈美恵ちゃんのツアーが終わって、ロスに帰る2日前に、エイベックスのスタッフに呼ばれて、EXILEの初のアリーナツアーを大阪城ホールで観たんです。もう会場はパンパンにお客が入っていて、90%は女性でした。まだATSUSHIとSHUNのツインボーカル時代で、ニュージャックスウィングとかめちゃくちゃかっこいいことをやっていて、2人ともバラードがうまかった。
僕はホールをあちこちうろついて、音を聴いていたんです。真ん中ではいい音だけど、後方に行ったらスカスカの音だったり籠もっていたり、前の方ではバランスが取れていなかった。しかもバンド紹介に15分もかけていて、ファンは嫌だろうなと思った。終演後にスタッフから 「どうでしたか?」と聞かれ、そんなことを正直に言ったら「じゃあ、やっていただけませんか?」となったんです(笑)
カラパナを続けて行こうと決意した理由
ーー カラパナは、マッキー・フェアリーが1999年、マラニ・ビリューが2018年、そしてギターのD.J.プラットも2021年にこの世を去った。2人になってしまったカラパナをそれでも続けて行こうと決意した、その理由はどこにあったのだろう。
サノ:マラニが亡くなった後は、彼の従兄弟がサポートに入ってくれましたが、コロナ禍の際にはD.J.が亡くなってしまい途方に暮れていました。ただそんな頃、ハワイのローカルイベントに出演したらめちゃくちゃ受けたんです。その後、ハワイのブルーノートからもオファーがあって、じゃあやってみようかと。そのステージではマッキー、マラニ、D.J.の声や映像を使って、僕たちがそれに合わせて演奏するというライブをやったんです。チケットはソールドアウトで、お客さんはみんな泣きながら最後は総立ちになって。僕たちも泣きながら演奏しました。
ーー 天に召されたメンバーが、過去の映像と共に、現在のメンバーと共演する。こういう演出ができる時代になったからこそ、カラパナはその後も続けられることができたのだ。
サノ:今は若い世代のボーカリスト、マラニの従兄弟、そしてギターのサポートを入れてやっています。ボーカルはメロディーに忠実であれば、後は自分の味を出してくれていいと言ってます。ギターも、D.J.のプレイは絶対に再現できないので、そこは自分の解釈でOK。もちろんハーモニーは重視して、カラパナらしい温かくハートフルなライブをやって行こうと決めたんです。
その先の未来への希望が込められた新曲「SMILE」
ーー 新しいアルバム『Kalapana 50th anniversary - Timeless Voyage』は、サノとゲイロードが選曲とリマスタリングに参加。また、5曲ある新規音源の1曲「SOMEDAY」では、ハワイアン・ポップミュージックの名デュオ、セシリオ&カポノのヘンリー・カポノが参加している。カラパナとは長い交流があり、たびたび共演もしてきたそうだが、レコーディングという形でこの2グループが一緒になるのは今回が初。歴史的に意義のある共演となった。さらにサノが書いた新曲「SMILE」も収録。そう、ケンジサノの、そしてカラパナの思い、そしてその先の未来への希望が込められた1曲だ。
サノ:今の時代、ダークな出来事も多くて、そんな時にはやはり笑顔だと思うんです。ATSUSHIが児童養護施設やインドに行ったとき、泣いている子どもを抱きしめて笑顔にしている情景を見てインスパイアされた曲です。僕はキャプテンというあだ名なんですが、よく「キャプテンの笑顔、素敵ですね」って言われるんですよ。笑顔ってタダだし、誰にでもできる。笑顔を広めたいという思いで「SMILE」という曲を書こうと決めたんです。
ーー 最後に最新アルバムへの思い、そして8月の来日公演への意気込みを語ってもらった。
サノ:アルバムは50周年の節目ですが、半世紀ってすごいことだなあと今更ながら実感しています。不思議なことに、今の若い世代の方たちがカラパナを聴いてくれて、ライブでも一緒に歌ってくれています。カラパナ・ミュージックを次の世代に繋げるためにも、このアルバムは大事ですし、この先もみんな「SMILEで頑張っていきましょう!」という思いがあります。そしてライブは、亡くなった3人もフィーチャーしつつ、僕らが歌って弾いて、本当のカラパナ・ミュージックを再認識できる、ハートフルで楽しいライブにしたいと思います。ぜひみなさんお越しください!
Information
カラパナ50周年記念 - タイムレス・ヴォエージ
▶ 発売日:2025年7月23日(水)
▶ 収録曲:
01. MANY CLASSIC MOMENTS
02. JULIETTE
03.(FOR YOU)IʼD CHASE A RAINBOW
04. FULL MOON TONIGHT
05. VELZYLAND
06. LOVER OF MINE
07. WRITING ON A FORTUNE
08. COMING HOME
09. MOLOKAI SWEET HOME
10. PARADISE
11. BLACKSAND
12. NIGHTBIRD feat. EXILE ATSUSHI
13. MOON AND STARS
14. SOMEDAY feat. HENRY KAPONO
15. CATHERINE
16. SMILE
*12〜16 新録⾳源