子どもがいなくて「楽でいいね」 心にとげを残した言葉で気づいた、それぞれの境遇
高校生の思いがけない妊娠。
不妊に悩む夫婦。
産後うつに悩む父親…。
誰もが身近でありながら、なかなか人前では話しにくい「妊娠・出産」。
そこにスポットライトをあて、それぞれの悩みを抱えた5つの家族を描いた演劇作品が、札幌で上演されます。
着想は、劇団の主宰者自身の経験にありました。
みんな抱えているけど、話しづらい
「こんな予定じゃなくて馬鹿だよね、ごめん」
「ごめんなさい、でもわたし産みたい」
舞台の上にちょこんと置かれたテーブルで、オセロをしながら、高校生の娘が、母親に妊娠を告げる演劇の一幕です。
札幌を中心に活動する劇団「OrgofA」の新作舞台『コウノトリが飛ぶ島国で、この部屋で』。
描かれるのは、札幌に住む5つの家族です。ステージの上、同じ空間に隣り合わせでいるように見えますが、それぞれが「妊娠・出産」にまつわる悩みを抱えています。
思いがけない妊娠になやむ高校生とその母親。
産後うつに悩む会社員の男性。
不妊治療をやめた夫婦。
金銭的に余裕がない中で、妊娠が発覚した若いカップル。
結婚も出産もしない選択肢を選んだ姉と、同性パートナーと親になることを選んだ妹…。
ファンタジーではなく、題材はどれも身近。
ですが、境遇が違えば「ひとごと」と感じてしまうことも少なくないのではないでしょうか。
「妊娠・出産にまつわる悩みはみんな抱えているけど、まわりには話しづらいテーマ」
そう話すのは、劇団を主宰する飛世早哉香(とびせ・さやか)さんです。
この「妊娠・出産」というテーマを選んだのは、自身が友人から言われたあるひとことにありました。
境遇はひとつじゃない
「私は結婚していて、パートナーはいるんですが、子どもはいません。数年前、子どもがいる友だちから『あなたの家はいいよね、楽で』と言われたんです。『楽?楽なのかなあ』と、帰り道にすごく悲しくなったというか、心にとげみたいなものが残りました」
一方で、後からその友人が初めての子育てで夜はほとんど眠れない状況だったことを知りました。
友人は友人、自分は自分で、「妊娠・出産」と向き合っているけれど、時にその違いをわからず、話せばお互いとげとげしくなってしまう…。
そんな自分自身のモヤモヤから着想を得たといいます。
構想期間、なんと7年。
その間、当事者や助産師に話を聞いたり、市民向けに座談会をひらいたり、より体験をリアルに描くことを意識しました。
女性が結婚すれば「次は赤ちゃんね」と言われる。
パパが育児に参加しているだけで、「ママは?」と疑問視される。
いろいろなひとに話を聞けば聞くほど、「妊娠・出産」にまつわる問題は、年齢によって、置かれている立場によって、違ってくることがわかりました。
だからこそ、今回の舞台では、境遇をひとつに絞らず、5つの家庭の葛藤を描いています。
演劇を通して、「いろいろな境遇がいることを知ってほしい、それぞれの選択を感じてほしい」と飛世さんは話していました。
『コウノトリが飛ぶ島国で、この部屋で』
場所
ターミナルプラザことにパトス
北海道札幌市西区琴似1条4丁目 地下2階
地下鉄東西線琴似駅直結
上演日時
・11月26日午後7時半~ ※前売券完売
・11月27日午後7時半~
・11月28日午後3時~、午後7時半~
・11月29日午後2時~、午後7時~
・11月30日午前11時~、午後3時〜
初めてでも、子どもと一緒でも
上演回の中には、観劇初心者の方も安心して劇場に入れるよう、スタッフが入り口から丁寧に案内する回や、子どもが泣いても話しても途中で出入りしてもOKで、マットが設置されたり保育士資格を持つスタッフがいたりする回があります。
また、産科医や看護師のアフタートークが予定されている回もあります。
チケット完売情報など、詳細はホームページからご確認ください。
※掲載の内容は記事執筆時(2025年11月25日)の情報に基づきます。チケット完売状況など、最新の情報は主催者までご確認ください。
文:HBC報道部 貴田岡結衣
編集:Sitakke編集部IKU