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【神話に潜む美の恐怖】 世界の『宝石』にまつわる怪物たちの伝承

草の実堂

画像 : ヴィーヴル 草の実堂作成
画像 : 美しい宝石の数々 pixabay cc0

宝石とは、美しさと希少性を兼ね備えた石であり、古来より人々を魅了してきた存在である。

特に富裕層や権力者にとっては、宝石を身に着けることが一種のステータスシンボルであった。中には、1カラット(0.2g)で一億円を超えるような驚くべき価値を持つものも存在する。

一方で、神話や幻想の世界では、宝石はその輝きゆえに人間の欲望を引き寄せ、恐ろしい災厄を招く存在として描かれることもある。中には、宝石に目がくらんだ者を次々と血祭りにあげる怪物の伝承も残されている。

今回は、このような美しさと残酷さを併せ持つ、宝石にまつわる怪物たちの伝承について解説する。

1. ヴィーヴル

画像 : ヴィーヴル 草の実堂作成

ヴィーヴル(Vouivre)は、フランスに伝わるドラゴンである。

その姿は、コウモリの翼を持ったヘビ、あるいは「コウモリの翼+鷲の脚+蛇の尻尾」を合わせ持つ女性の姿で表される。

その眼球はルビー・ダイヤ・ガーネットといった宝石で形成されており、自由自在に取り外しが可能であるという。
普段は地底や廃城などの暗い場所に生息しているが、宝石の眼の輝きにより、暗闇の中でも周囲を良く見通せるそうだ。

ヴィーヴルは川の水を飲みに地上へ出てくることがあり、その際に眼を取り外し、川岸に置くという習性を持つ。
盗っ人はこの瞬間を見計い、眼を盗み取ろうとするが、大抵の場合返り討ちに合い、そのまま食い殺されてしまうという。

眼球を失ったヴィーヴルが確認された例は、いまだに一つもないとされる。

眼を奪われたヴィーヴルは、盗んだ人間の命令に逆らえなくなるという伝承もあ流。
なし崩し的にヴィーヴルを妻として娶り、子をもうけた剛の者も、少なからずいたそうだ。

2. カーバンクル

画像 : カーバンクル 草の実堂作成

赤い宝石といえば、ルビーやガーネットが思い浮かぶだろう。

これら深紅の宝石を総称して、「カーバンクル」と呼ぶことがある。
カーバンクルはラテン語で「小さな石炭」などを意味し、carbunculusという言葉が語源になったとされている。

そして神話の世界においては、このカーバンクルの名を冠する幻獣が存在する。

カーバンクル(Carbuncle)は南米に生息するとされた、神秘的な生物である。

16世紀のスペイン人探検家・マルティン・デ・バルコ・センテネラは、自らの著書「La Argentina」で、この生物について言及している。

センテネラは、「カーバンクルをパラグアイで目撃した」と語っており、その姿を「燃える石炭のように光る鏡を頭に付けた小動物」と形容している。
センテネラはこの生物を捕らえるため、パラグアイ中のジャングルや川を探索して回ったが、ついに発見することは叶わなかったという。

また、チリのチロエ島に伝わる神話によれば、カーバンクルは財宝の守護者だと考えられており、目撃者は一定の手順を踏むことにより、宝の一部を手にできると伝えられている。
(ただし、失敗すると毒ガスを浴びて死ぬという)

その姿は地域によって千差万別だが、「額に赤い宝石が埋め込まれている」ことだけは共通しているそうだ。

3. アシボビュック

画像 : アシボビュック 草の実堂作成

アシボビュック(Aschibobuch)は、アフリカに生息すると考えられていた、琥珀を生み出す怪鳥である。

アフリカ大陸南東部・モザンビークの近くの、ユシック諸島という島に棲むとされる。
他にもこの鳥は、マダガスカルやモルディブ、東インド諸島などでも目撃されているという。

アシボビュックは夜行性であり、岩礁などに止まって大量に排便をするそうだ。
この糞便が太陽の光に晒され乾燥し、さわやかな空気に清められ、浜辺に打ち上げられた時には、美しい琥珀へと変化しているという。

この糞便は、魚が飲み込み吐き出しても琥珀に変わるそうだが、自然に洗練されたものと違い色がドス黒く、価値は下がるという。

なお、実はアシボビュックの糞は琥珀ではなく、龍涎香(マッコウクジラの腸内で生成される結石のこと)ではないかという考察もある。

4. ニティカ

画像 : ニティカ 草の実堂作成

1世紀頃のギリシャの哲学者、テュアナのアポロニオスが記したとされる「ヌクテメロン」という魔術書がある。
(実際は19世紀頃に書かれたものだそうだ)

ヌクテメロンでは、天使とも悪魔ともつかない「ゲニウス」と呼ばれる存在について言及されている。
ゲニウスは「徳」の擬人化ともいうべきものであり、1~12時の各1時間ごとに7体のゲニウスが存在し、合計84体いると言われている。

その内の6時担当の一人が、宝石を司る鬼神・ニティカ(Nitika)である。

とはいえ宝石を司るという点以外、ニティカに関する情報は乏しい。

参考資料に、19世紀フランスのオカルト作家・エリファス・レヴィによる、ヌクテメロンについての解説文書が挙げられる。
同書には「魔術師は宝石の力に通じるようになる」という記述がある。

これはすなわち「魔術師がニティカの協力を得ることで、宝石を媒介とした、より強力な魔法を行使できるようになる」と解釈されている。

6時担当のゲニウスはニティカの他にも、タブリス(自由意志)、スサボ(旅)、エイルニルス(果実)、ハータン(財宝を隠す)、ハティファス(霊装)、ザレン(復讐)などがおり、これらは合わせて、魔術師の進むべき覇道を表現していると考えられている。

参考 : 『ファンタジィ辞典』『世界妖怪大全』『神魔精妖名辞典』他
文 / 草の実堂編集部

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