『あらしのよるに』に出演する、歌舞伎俳優・市村竹松 母校・早稲田大学で留学生らに歌舞伎を解説・実演
2024年12月3日(火)~26 日(木)歌舞伎座にて『十二月大歌舞伎』が行われ、第一部では、『あらしのよるに』が上演される。本公演に出演する、歌舞伎俳優・市村竹松が母校・早稲田大学に登場し、得意の英語で歌舞伎を解説・実演した。
きむらゆういち原作の絵本「あらしのよるに」(講談社刊)は、平成6(1994)年の発売以来、高い人気を誇り、続編を含めた累計発行部数が350万部を超えるベストセラーシリーズ。講談社出版文化賞をはじめ数々の賞を受賞し、中村獅童が主人公の狼がぶの声を演じたアニメ映画など、さまざまなメディアで作品化されてきた。
平成27(2015)年9月には、南座で新作歌舞伎として上演。人気絵本の世界観をそのままに、狼と山羊の迫力満点の立廻りや圧巻の群舞、義太夫や長唄など、歌舞伎ならではの演出や技法を随所に取り入れた舞台は、大きな話題となった。この度、絵本発刊30周年を記念し、狼のがぶと山羊のめいがはぐくむ友情を描く感動作が、歌舞伎座で8年ぶりに再演される。
市村竹松は、初演時より山羊のはくを演じている。はくは冷静沈着ながら、熱い心を持つ仲間思いの山羊。めいの窮地を救うなど、物語の随所で重要な働きをみせる役だ。12月の歌舞伎座での上演でも、竹松が5度目となるはく役を勤める。
11月25日(月)に市村竹松が、母校・早稲田大学で“Feel the world of Kabuki: Discover the timeless art”(時代を超えた芸能“歌舞伎”を再発見してみませんか?/早稲田大学 ICC 主催)と銘打った参加者体験型の歌舞伎解説イベントに登壇した。2013年に早稲田大学国際教養学部を卒業し、父・市村萬次郎が主催する“みんなの歌舞伎”公演プロジェクトを通じて、国内外に向けた歌舞伎及び日本の伝統文化を発信する事業に携わってきた竹松。
歌舞伎の歴史や文化との関わり合い、隈取など独特の演出方法に至るまで幅広い内容を、古典の演出手法がちりばめられた『あらしのよるに』の写真や映像を交えながら、留学生を中心とした参加者に全編を英語で解説した。参加者は身を乗り出して竹松の解説に耳を傾けたりしていた。
イベント後半には、見得や立廻りを実演。解説ののちに参加者が実際に見得をしたり、二人一組になって立廻りを体験したりするパートでは、歌舞伎の型を丁寧に解説。実際に体を動かしながら、会場を大きく使っての体験は、会場のあちこちから笑い声が聞こえる和やかなひとときに。参加者からは歌舞伎をより身近に感じることができたという声も聞こえた。さらに、藤浪小道具株式会社の協力により、実際の舞台で使用される小道具の体験も行われた。普段は間近で見ることのできない和傘などの小道具に直接触れ、雨の音を模した団扇や、浪籠(かごに入れた小豆を動かし、波音を模した小道具)など、参加者たちは先人たちの創意工夫を興味津々に体験した。
イベント終了後も長時間にわたって参加者からの熱心な質問に回答した竹松。
「みなさんに熱意をもってお話を聞いていただき、大変意義深い会になったかと思います。多くの海外からの留学生の方、若い方たちが歌舞伎や日本文化に大きな関心を寄せていただいていることがわかり、『あらしのよるに』に向けて身の引き締まる思いです」と公演に向けた決意を語り、イベントを締めくくった。
『あらしのよるに』あらすじ
激しい嵐の夜に、粗末な小屋に身を寄せているのは、狼のがぶ(中村獅童)と山羊のめい(尾上菊之助)。暗闇で互いの姿が見えず、相手が誰だかわからない状況にも関わらず話が弾み、すっかり意気投合。
「あらしのよるに」を合言葉に、翌日の再会を約束します。夕べの嵐が嘘のような、どこまでも青空が広がる穏やかな午後、がぶとめいは「あらしのよるに」の合言葉をうれしそうに交わします。ところが、互いに相手の姿を見てびっくり。目の前にいるのは狼にとって大好物の山羊と、山羊の天敵の狼。食べたい欲求を抑えるがぶと、食べられてしまうのかと不安を抱くめいでしたが、話をするうちにますます親しみを覚えていくと、互いを“友達”と呼び合うほどに仲が深まります。ある月夜の晩に、がぶとめいが並んで美しい月を眺めていると、そこへ、めいを狙う狼のぎろ(尾上松緑)が現れて…。