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文学座『もうひとりのわたしへ』座談会 横田栄司×畑田麻衣子×吉野実紗×田村孝裕(ONEOR8)~人生のあらゆる「選択」を肯定する物語

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(左から)横田栄司、吉野実紗、畑田麻衣子、田村孝裕

初タッグの『連結の子』(2011年)が、岸田國士戯曲賞候補になるなど高く評価された文学座×田村孝裕(ONEOR8)。再びの手合わせとなる『もうひとりのわたしへ』(演出:五戸真理枝)は、40歳を目前に人生のあれこれに悩む既婚女性・椎葉里歩が、〝異次元の住人(!)〟に誘われ、別の選択をした「もうひとりの自分」に出会う物語という。今作の企画者でもある畑田麻衣子吉野実紗、出演の横田栄司に劇作家・田村を加えた4人に、創作の経緯や稽古の様子を訊いた。


■始まりは熱烈ラブコール

――まずは企画の始まりから伺えますか?

畑田 私は出産・育児でしばらく俳優の仕事を休んでいたんですが、その時、ONEOR8さんでの『連結の子』(22年)の上演を実紗さんと一緒に観に行ったんです。当時は「これから私は演劇とどう関わっていくんだろう……」と悩んでいたんですが、公演を観て「こういう芝居がやりたいな、私!」と実紗さんに言い、帰途、劇場から最寄りの駅に着く前に田村さんに「時期は田村さんに合わせますので文学座にもう一度書いてください!」と連絡していました。

吉野 私は文学座の『連結の子』の出演者だったんですが、ONEOR8さんでの上演も本当に面白く魅力的だったんです。その帰り道、すごく盛り上がりながら「一緒にやらない?」と畑田さんに誘われたのも嬉しく、後は、彼女のアグレッシブさに引きずり込まれて今日に至る、です(笑)。

田村 僕はお声掛けいただいたことが、シンプルに嬉しかったです。ちょうど、「劇作家としてのスキルを上げたい」と考えていた時期でしたし。実は僕、劇作家として書くことが、とてつもなく嫌いなんです。

俳優三人 えー!!

田村 いや本当に。演出が好きなので、演出するために書いているところもあるんですが。ただ畑田さんからお話をいただいた時は、スキルもそうですが、「作家の仕事をもっと好きになりたい」と思っていて、そのきっかけになりそうな企画だな、と。また、五戸さんとご一緒できることも光栄だったので「企画を通すためならなんでもやります!」という気持ちで引き受けさせていただきました。

横田 文学座での『連結の子』は、僕にとっても強く心に残った作品。誘ってもらえて純粋に嬉しかったです。畑田さんがまた策士だから。去年『オセロー』(演出:鵜山 仁)に出演してちょっと調子にノッてる時、スッと来てさらっと企画の話をしたので、そのまま乗っちゃいました(笑)。

横田栄司

――そんな企画者のお二人が、一人の人物を「りほ」と「リホ」に分かれて演じるという趣向はどこから生まれたのですか?

田村 作品の構造、骨組みは僕が提案させていただきました。畑田さんから聞いた「演劇と家庭との間」で考える将来や葛藤が、そのまま戯曲の芯になっています。もう一つ、ラップに関しては吉野さんが「好きだ」と言ったので、「じゃあ入れましょうか」と調子に乗ったところはあります(笑)。

――戯曲に組み込まれたラップ、結構ボリュームがありますよね?

吉野 ちょうど当時、「XG」というヒップホップのガールズグループにハマって聴いていたんです。田村さんに「もう一つ作品にアクセントが欲しい。今、一番やりたいことはなんですか?」と訊かれ、「ラッパーになりたいです」と言ってしまって(苦笑)。

吉野実紗

田村 「リホ」が現実から、どうはみ出すかのアイデアを探していたんです。だから「ラップ」と聞いて、「いいじゃないですか!」と。

横田 それが後に、どれだけの人間を苦しめるか誰も気づいてなかったんですよね(全員笑)。でも正直言えばちょっと楽しくなってきています(笑)。また指導してくださるラッパーのALI-KICKさんが、この舞台にすごく情熱を傾けてくださっているのが伝わってくるんですよ。作品解釈で僕らが喧々諤々で言い合っていると、ご自身の意見も話してくださったり、稽古前のウォーミングアップにも参加されたり。

畑田 俳優が台詞を喋ることに、すごく興味を持ってくださっているんです。「俳優の台詞を喋る勢いはスゴイ。僕も台詞が喋れるようになりたい」って。

畑田麻衣子

横田 僕らも会話がだいぶラッパーっぽくなってきたよね。「ヴァイブスがフローでマザーファッカー、Yo Yo Yo」みたいな(全員爆笑)。

■「40代」の節目に考えたこと

――ラップの表現やSF的世界観はありつつも、作品の核には田村さんの戯曲らしく、人生の様々な葛藤と向き合い、もがく人間たちのドラマが展開されます。40代という社会的にはもちろん、生き物としてもビミョウな年ごろを皆さんはどのように受け止めていらっしゃるのでしょうか。

吉野 私は結婚・出産をせず、ずっと俳優の仕事を続けて40代になりました。そのことに後悔はありませんが、体力的に「若い頃のように勢いだけではできないな」と思うこともありますし、老いていく親のことを考える機会も増えましたし……って、どうしても話が真面目な方向に行ってしまう年代になったんだと、この作品と向き合って実感しました。

畑田 私は10代、20代、30代など年齢の「代」が変わる時を結構意識していたんです、子どもの頃から。40代になる時は、「2回目の成人式だ」と思ったと同時に、今までは「やりたいからやる!」と突き進んできたけど、それが難しくなっていくのだろうとも感じたんですよね。それに、自分が想像していた40代は、凛としてカッコよく、仕事も日常もビシッとこなし、良いモノを着て良いモノを食べて……だったんですが、実際には「アレ、何も変わってなくない?」と。ついたのは言語化の能力だけで、それも説明や言い訳のためのものなので(苦笑)。

横田 僕は……40代の記憶があまりなくて。そのくらい、めちゃくちゃ働いていたからだと今気づきました。10年で40本くらい舞台をやっているし、出演したドラマや映画も20本くらいずつある。なんというか……20代、30代にアルバイトしながら必死に演劇の勉強をしていたことを、全部仕事に注ぎ込んだのが40代でした。

田村 僕は「40歳」を強烈に意識したタイプ。自分の作風もあって、年上の俳優の方と仕事をする機会が多かったんですが、その先輩方からも「40歳までは年上の、40歳からは年下の話を聞くべき」とアドバイスされたこともあって、「これから自分は古い世代の人間になる。作品も気をつけないと古くなる」とも思い、焦りました。

田村孝裕

――それぞれに、実人生とリンクさせて演じられる作品なのだとお話を伺って感じました。

吉野 本当に、ちょっとしたタイミングで人生は分かれていくんですよね。

畑田 実紗さんとは、仕事の場でも日常の会話でも〝根本は通じ合っているけれど意見は違う〟といったことが多いので、「りほ」と「リホ」の関係に重なるところが実際にあると私も感じています。その日の服装や何を食べるかなど人生には小さな選択が無数にあり、それらが繋がって結果的に未来も変えていく。だから小さくても、それぞれの選択が人生の宝物になるんだと作品を通して感じました。

――そんな二人を見守る「スケール」という役を横田さんは演じられます。

田村 初めて横田さんにお会いした時、「スケールの大きな方だな」と思ったんです。だから役名は「スケール」の一択でした!(全員爆笑)

横田 今まで一度も演じたことのない、かなり特殊な設定の役です。楽しくて仕方ありません。スリリングな状況を楽しんでいるようなところもあるキャラクターですし。まだ立ち稽古が始まったばかりで、彼がどういう眼差しでいるかは決めきれてはいません。ただ「りほ」と「リホ」それぞれに「反省や後悔はしなくていいよ」と、その人生を肯定してあげられる存在になれたらいいかなと、今は考えています。

――人生の、その先に進む勇気がもらえそうな作品。開幕を楽しみにしています。

取材・文=尾上そら
※文学座公演『もうひとりのわたしへ』公演HPにて、本座談会(文学座HPver.)を掲載予定。

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