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次世代のスターシェフを育てるには小学生から オーベルジュ ときとで料理人のお仕事体験ワークショップ

料理王国

次世代のスターシェフを育てるには小学生から オーベルジュ ときとで料理人のお仕事体験ワークショップ

25年8月、立飛ホールディングスが23年8月から実施する「とびたち∞ひろがるプロジェクト」の第5回「世界で活躍する料理人になろう!~Auberge TOKITOでちらし寿司をつくる~」が開催された。

この取組は立飛ホールディングスのおひざ元である立川市の子どもたちに様々な体験の機会を提供し、彼ら彼女らが楽しみながら社会の仕組みや仕事に触れ、挑戦する機会を通じて、ひとりひとりが新しい興味や視点を得られるきっかけとなることを目指して行われており、オーベルジュ ときとで開催されるのは去年に続いて2回目。

これは、単にシェフたちから料理を教わるという調理実習ではない。あくまでもお仕事体験のワークショップであり、レストランの厨房で料理を作り、カウンターで提供し、それをゲスト役の親御さんたちに食べて喜んでいただく、その一連の「料理人の仕事」を小学生たちに体験してもらうのがゴールだ。

先生役を務めたのはオーベルジュ ときとの大河原謙治総支配人兼総料理長。ときとの開業前は「命を食べる」をテーマに、肉のすべてをいただく実体験としてのBBQや地に根を張る植物の強さを紹介するなど、様々なワークショップやセミナーを通して食育活動を行ってきた料理人だ。

イベントは、制服に着替えるところからスタート。「普段家で使っているエプロンを持って来る」のではないところも大事な演出だ。

今回のメニューはちらし寿司。手を洗って厨房に移動すると、まずはご飯を炊くところからスタート。普段家では電子ジャーでボタン一つで炊けるご飯も、ここでは信楽焼の土鍋でコンロの火で炊き上げる。

そして実習のパートは、活け車エビの仕込みからスタート。触るのも初めてという子も多く、怖がりながらも興味津々。頭と殻を外したら秘密の調味液を加えた湯で湯がく。炒り玉子は、片手割に果敢に挑戦する子供も。単に習った通りにやる調理実習との意欲の違い、プロへの憧れが垣間見えた。
野菜の切り方はこちらも柔らかく食べてもらうためであったり、見栄え良く盛り付けるためであったり、様々なプロの手仕事も紹介された。自分でやった蛇腹切りの切り込みをまじまじと見つめる子供の姿も印象的だった。

そして子供たちからは「初期費用ってどれくらいかかるんですか?」という質問も!そこから適正な家賃比率の話、F/Lコストの話に展開してゆくのもこのイベントならでは。中にはコストの話の方が興味深いという参加者もおり、なかなか将来有望だ。

仕込みが終わったらいよいよ盛り付け。大河原さんのデモンストレーションには、プロの料理が仕上がる様子を間近で見て、「おお!」という感嘆の声も。

デモンストレーションがあるとはいえこれも決まった型や正解があるわけではなく、大河原さんも子供たちそれぞれの意図を感じながらそれに沿ったアドバイスや微調整をしてあげていた。
そうしてまずは後で自分が食べる分を使い、厨房の中で試行錯誤しながら盛り付けを磨き上げていった。

十分にイメージが固まったら、次はいよいよ親御さんたちの待つカウンターへ。ゲストの目の前で料理を仕上げ、提供するという、今回のワークショップのハイライトだ。
わずか8席のカウンターは、子供たちのドキドキとそれを見守る親御さんたちのワクワクが渦巻く、普段の営業時とは全く違う独特の緊張感に包まれていた。
しかし料理が仕上がり、提供され始めるとシェフである子供たちもゲストである大人たちもみんなが笑顔に。

ここで大河原さんから、事前説明も練習もなかった「料理の説明をしてください」というミッションが出たが、しっかりと楽しんで調理に取り組んできた子供たちには何の心配もなし。自分が頑張ったところや習って印象的だったこと、盛り付けの工夫などを口々に話し、どの席でも会話に花が咲いていた。最後はみんな一様に、おいしいって言われて嬉しかった、楽しかった、と目を輝かせていた。

ダイニングに移動しての実食の時間には、石井義典総合プロデューサーもやってきた。石井さんが料理人になった最初のきっかけは、家族に料理を作って喜んでもらえたという子供の頃の体験にあるという。「料理人の本質は誰かに喜んでもらうこと。今日は親御さんが相手で家で料理してもそうだけど、それが知らない人、お客様に変わっても同じであり、その相手の喜びが直接返ってくる幸せな仕事だ」と子供たちに語ってくれたが、今回のワークショップを通して彼らがそれを実感していることは、表情を見ればよくわかる。

石井さんが料理人という仕事の素晴らしさを情緒的に伝えてくれた一方で、大河原さんがこの取組に共鳴し、先生役として参画するのは危機感からだという。それはつまり「このままでは料理人のなり手がいなくなってしまうのではないか」ということだ。

そして、料理人を生み出すためには小学生のうちに「なりたい」と思うこと、思わせることが大事だと考える。立川にも調理師専門学校はあるがその段階ではもちろんのこと、中学生でも遅いというのが大河原さんの意見だ。アスリートと一緒で、小学生で「料理人になりたい」と決意し、中高の間に高い意識を持って学べば、高卒のその時点でもいきなりシェフが務まるだけの調理技術や経営の知識を身に付けることも不可能ではない。もちろんスタッフを束ねる統率力など学校では学びづらいスキルもシェフには必要だし、プロ野球選手を毎年排出する強豪校や彼らが技術をぶつけ合い切磋琢磨する甲子園大会のような環境も、飲食業界はまだまだ整っているとは言い難いが、それでも全体の価値観、標準を上げるには年代の底上げ、もっと若い世代からの突き上げは間違いなく必要だ。

高卒の新人でタイトルを獲得するスーパールーキーのような若きスターシェフが現れたら、子供たちの料理人という職業を見る目も変わるだろう。そんな、子供たちが料理人を目指せるビジョンを描くこと。それが今、大河原さんが取り組んでいる大きな目標だ。

今回のこの「とびたち∞ひろがるプロジェクト」に参加した小学生たちが世に出るまで約10年。日本の宝を世界に発信するための場所、というのがオーベルジュ ときとのコンセプトの一つでもあるが、このワークショップをきっかけに立川から世界へ羽ばたく料理人が現れること、そして彼らの活躍からこの取組が飲食業界の人材発掘、育成の一つのロールモデルとなって循環し、業界全体に貢献することを期待したい。
それが実現したら立川も、食育、食の学問の聖地のような一つの「食の都」と呼ばれるようになるのではないか。

とびたち∞ひろがるプロジェクト
https://www.tachihi.co.jp/tobitachi/

text: Cuisine Kingdom

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