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グレーフランネルの奥深い魅力

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グレーフランネルの奥深い魅力

柔らかなタッチが心地よい生地「フランネル」は、かつては画一的なイメージの代名詞だった。しかし実際は、無限の自己表現が可能な素材なのである。

authorchristian barker

 秋冬シーズンに、温かさとファッション性を両立させたいならば、フランネルは最適のチョイスだ。柔らかくふんわりとした手触りでありながら、見た目には引き締まった印象を与える。フランネルは、寒い季節におけるお洒落な紳士の最良の友と言える布地である。

 フランネルにはさまざまな種類が存在するが、本質的には特定の素材を指すものではなく、ミリング(縮絨)と呼ばれる加工技術そのものを意味する。この技術はさまざまなテキスタイルに施すことが可能だが、洒落者が注目すべきは主にコットンフランネルとウールフランネルの2種類である。

 コットンフランネルはバターのようになめらかなシャツを仕立てる際に使用され、ウール、あるいはウールとカシミアの混紡フランネルはスーツ、ジャケット、トラウザーズに用いられる。

フォックスブラザーズのダグラス・コルドー氏(右)と盟友、赤峰幸生氏。

 英国におけるフランネル生地の代名詞、1772年創業の老舗ミル、「フォックス ブラザーズ」のマネージングディレクター、ダグラス・コルドー氏は言う。

「フランネルとは、織り上げた布を何時間にもわたり木に叩きつけることで、繊維がほぐれ、柔らかくなる縮絨加工によって作られる布地です」

 また、金属製のブラシを用いて表面を起毛させ、ふんわりとした手触りを生み出すこともある。この起毛加工は片面、あるいは両面に施される。

 著名な服飾評論家であるジェームズ・シャーウッド氏は、数年前にTHE RAKEにおいて次のように述べた。

「フランネルは、最も嫌味のない布地のひとつである」

 シャーウッド氏の分析によれば、フランネルは柔らかく不透明で控えめな布地であり、粗梳きされたウールを使用し、起毛した表面に空気の層を閉じ込めることで高い保温性を備える。繊維が複雑に絡み合うことで生地に奥行きが生まれ、ベースカラーには豊かなトーンが宿る。光を反射するのではなく吸収するため、派手さがなく落ち着いた印象を与える。

 フランネルは控えめでありながらも、その質感は奥深く、温かみがある。派手な装飾や華美な見た目を避け、クラシックなエレガンスを目指す紳士の装いに最適なのである。

 フランネルはもともと、労働者のための実用的な作業着であり、英国やアメリカの鉱夫に好まれていた。1884年にデトロイトで創業されたワークウエア・ブランド「カーハート」の創業者であるハミルトン・カーハートは熱心なフランネル愛好家であった。

 また、フランネルは南北戦争や第一次世界大戦のアメリカ軍の軍服にも使用された。

 1904年にフォックス ブラザーズがクリケット用ユニフォームのために開発した白いフランネルは、南フランス、パームビーチ、その他のリゾート地で休暇を過ごす上流階級の間で広まった。

 フォックス ブラザーズのダグラス・コルドー氏は言う。

「生成りのフランネルは、今や新たな『ウィンターホワイト』として人気が復活しつつあります。12〜13オンスの生地をおすすめします。その重さがトラウザーズに最適なドレープをもたらしてくれるのです」

 1920〜30年代にかけて、オックスフォード大学やケンブリッジ大学の学生たちが履いた、ボリュームたっぷりの「オックスフォード・バッグス」と呼ばれるトラウザーズは、通常フランネルで仕立てられていた。

 1940年代には、より伝統的で落ち着いたトーンのフランネルが、ビジネスや政治の世界で普及した。元英国首相ウィンストン・チャーチルがサブマシンガンを携えている有名な写真で着用しているのは、ヘンリー・プールで仕立てられたフォックス製のチョークストライプ・フランネルのスリーピース・スーツである。

 また、THE RAKEの誌名の由来となったフィアット元会長にして稀代の洒落者、ジャンニ・アニェッリもフランネルスーツをこよなく愛したひとりだった。

 1950年代のアメリカでは、フランネルは社会のユニフォームとして地位を確立し、サラリーマンの画一性を象徴する存在となった。それは、映画『灰色の服を着た男(The Man in the Gray Flannel Suit)』(1956年)でグレゴリー・ペックが演じたキャラクターに代表されるものだ。

 さまざまな色のフランネルが生産されているが、グレーこそがフランネルの象徴的な色である。その中でも、ミディアムグレーは最も合わせやすく、汎用性が高い色とされている。フォックス ブラザーズのダグラス・コルドー氏は次のように語る。

「われわれが作る有名なグレーは、複数の色を用いて染色されており、その配合レシピは門外不出です。シグネチャー・フランネルは、冷たく青みがかった色ではなく、温かみのある色合いです。見る人が見れば一目でわかる、まさに通好みのフランネルです」

 THE RAKEのクリストファー・モドゥー氏はこう述べる。

「最高のフランネルは、複数のトーンをブレンドして作られます。工場ではエクリュ(生成り)、グレー、チャコールの糸を組み合わせて、複雑な色合いを生み出します。フォックスはセピア調で黄みがかったグレーで知られており、それは時折『尿に浸したような色』と呼ばれることもあります。その色合いは20歩離れていても、すぐに見分けがつくものです」

 長らく履き込んだデニムのように、快適な履き心地を持つグレーフランネル・トラウザーズは、デニム以上の汎用性を持つ。カジュアルな場からフォーマルな場まで、ほぼすべての場面に適応するのだ(リーバイスを履いてリッツでのアフタヌーンティーに行ってみたらどうなるか試してみるといい)。

 グレーフランネル・トラウザーズのコーディネイトの可能性は無限大である。

 最もカジュアルな着こなしでは、Tシャツ、レザージャケット、スニーカーとの組み合わせが映える。重めのウールのセーター、ローファー、カラフルなソックスでスタイリングしても良いだろう。または、ツイードのジャケットにウィンドウペーンのシャツ、レップタイ、サイドゴアブーツを合わせるのも一興だ。

 そして、フランネル・トラウザーズの王道スタイルも忘れてはならない。ダグラス・コルドー氏はこう語る。

「私が最も気に入っているフランネル・トラウザーズの着こなしは、チョコレートブラウンのスエード製オックスフォードシューズにネイビーブレザーの組み合わせです。シングルでもダブルでもいいでしょう。これが完璧なんです」

 もうひとつの洗練されたコーディネイトとして、グレーフランネル・トラウザーズにブラックのブレザー、ホワイトシャツ、ブラックのシルクニットタイ、そして光沢のあるブラックのペニーローファーの組み合わせがある。もし度胸があるなら、これに白いソックスを合わせてみるのも面白い。

 スーツの生地が滑らかでシルキーであればあるほど、ジャケットとトラウザーズを単品で着こなすのは難しくなる。しかし、ふんわりとしたマットな質感のフランネルスーツは、単品使いに最適だ。

 たとえば、ウィンストン・チャーチルが愛用していたネイビーのチョークストライプのフランネルスーツを考えてみよう。そのトラウザーズを、オフホワイトのアランセーターとバックス合わせても良い。または、ネイビーのタートルネックとドライビングモカシン、またはTシャツとデニムジャケットの組み合わせでも洒落た印象になる。

 ジャケットも同様に汎用性が高い。ホワイトジーンズと合わせるのも良いし、ラルフ ローレン風の大胆なスタイルに挑戦するのも一興だ。たとえば、ダメージ加工されたデニム、グレーのスウェットパンツ、あるいはカモフラージュ柄のミリタリーパンツとの組み合わせも面白い(ちなみに、フォックスは素晴らしいカモフラージュ柄のフランネルも手掛けている)。

 もしスーツがスリーピースならば、ウエストコートをヴィンテージのウェスタンシャツ、使い古したチノパン、ワークブーツと合わせるという手もある。

 これらの提案の中には、少々突飛に思えるものもあるかもしれない。しかし、それで良いのだ。かつてフランネルは保守的で画一的なイメージの象徴だった。しかし今では、冬の布地の中で、ルールを破る自由を最も許容してくれるのはフランネルなのである。自分のスタイルで着こなせば、フランネルはきっとあなたの個性に寄り添ってくれるだろう。

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