衝撃の新事実【女の子の脳は両親に似る】これって行動・思考・性格も似るということ?
親子の「似ている」の解明に脳科学から迫った東北大学・松平泉先生。親子で脳が似ていることは行動・思考・性格が似ていることにつながるのか、女の子のほうが両親の脳と似ている場所が多いのはなぜか。親子の脳の「かたち」を解き明かす、世界初の研究に迫ります。
【画像】こんなことも忘れちゃうの? 7割のママが経験する「マミーブレイン」東北大学の松平泉(まつだいらいずみ)先生が主体となって進めた脳科学プロジェクトでは、子どもの脳には、「父親にのみ似る領域」「母親にのみ似る領域」「両親に似る領域」「どちらにも似ない領域」があることがわかりました。また、父親×息子、父親×娘、母親×息子、母親×娘という4パターンそれぞれの脳を分析すると、男女差があることもわかっています。
では、なぜ性差が起こるのでしょうか。また、脳が似ているということは行動や思考、性格が親と似ていることにつながるのでしょうか。親子の「似ている」を解き明かす新事実に、さらに迫ります(全2回の2回目)。
父親×息子、父親×娘、母親×息子、母親×娘 どんな関係だと脳は似る!?
4種類の指標を使って分析した結果、誰に似るのか、脳の領域を色分けで示した図。 画像提供:東北大学 松平泉
親子の脳の類似性に関する研究で注目した、4種類の「かたち」の特徴
① 脳のシワを示す「脳回指数」
② 大脳皮質の広がりを表す「表面積」
③ 大脳皮質のぶ厚さを表す「皮質厚」
④ 脳の奥あたりに位置し、海馬などを含む「皮質下構造」の体積
4つとも脳の働きに関わる重要な特徴を持っている。ただし、これらの特徴の値が「大きい」=「頭がいい」というわけではなく、大きさが持つ意味は個人によって異なる。
──父親×息子、父親×娘、母親×息子、母親×娘という4パターンそれぞれの脳を分析した結果、どのような男女差があったのでしょうか。
松平泉先生(以下、松平先生):親子の性別の組み合わせで脳の似ている・似ていない場所も、数も異なることがわかりました。
たとえば、図を見ていただくと、息子の脳における「父親にのみ似る領域(青地)」は、①脳回指数と③皮質厚(大脳皮質の厚み)、④皮質下構造の体積に青地になっている部分があり、かつ息子の青地は娘よりもやや多いことが読み取れます。
ただ、男女を比較してみると、娘のほうが4種類それぞれに色づけされている部分があり、「両親に似る領域(紫色)」も多いんです。これにより娘のほうが両親と似ている部分が多いということがわかります。
なぜ女の子のほうが両親と似ている部分が多いの?
──娘のほうが両親と似ている部分が多いのはなぜでしょうか。
松平先生:図は脳の右側だけを映し出していますが、実は左側も娘のほうが息子よりも同じように色づけが多いんです。
男女差ができる理由として、X染色体やY染色体といった遺伝的な要因の影響が考えられますが、そればかりではなく、親が子どもに物事を伝える際の言葉の選び方や態度など、出来事の共有のしかたが息子と娘で違うことや、それに対する子ども本人の受け取り方の違いなども、性差に関わっているのではないかと考えています。
──「共有のしかたが息子と娘で違う」と差が生まれるということは、きょうだいであれば、男女×きょうだいの中で何番目であるのかも似ている・似ていないの違いになるのでしょうか。
松平先生:そうですね。今回の研究の範囲ではないので可能性の域を出ませんが、脳の発達に影響することがあれば、差が出ることは考えられます。
脳が似ている=行動・思考・性格の類似性につながる?
親子の脳が似ていることは、行動や思考、性格が似ることにつながるのでしょうか? 写真:アフロ
──脳が似ている=親子で行動や思考、性格が同じということなのでしょうか。
松平先生:その点に関しては、はっきり「同じです」とはいえません。
今回、言語能力を測定するテストも行っていますが、言葉を使う力が似ている度合いと親子の脳が似ている度合いが一緒かと問われると、ほんの一部のみ関連性が確認できただけなので、脳が似ているから言動や思考が似ているとは言い切れません。
現時点では、脳が似ているのは事実だけれど、それだけで親子間の行動や考え方はリンクするわけではないというのが結論です。
ただし、今後、領域ごとの脳のつながりであったり、もっと脳自体を多角的に分析して別な角度から似ていることが見出せたら、行動が似ていることなどとの関係性がわかるかもしれません。親子の脳が似ている・似ていないに関する研究は、裾野の広い分野です。
親子の脳の「かたち」は子育てのヒントになる可能性も
──先生のグループが解明した親子の脳の類似性は、今後、子育てに関してはどのような役割が期待できるのでしょうか。
松平先生:一番は精神医学の分野で役に立てると思います。精神的な不調が親子間で続くことを「世代間連鎖」といいますが、それに対して貢献できると考えています。
たとえば治療薬だったり、カウンセリングの方法だったり、治療法やケア法を早く見つける助けになるのではないかと思っています。
医療以外では、お子さんがかんしゃく持ちだったり、落ち着きがないといった様子に対して、親子の脳の理解を深めることで子どもの行動や感情にさらに踏み込んだ対応策を考えられるかもしれません。
──たとえば、大谷翔平選手といった理想の人がいて、その人に近づきたいと思った場合、脳の研究が進むことで我が子の夢をかなえる方法にも変化が起こることはあり得るでしょうか。
松平先生:実をいうと、なりたいものに近づく方法を脳から見出すことができるのではないか……と密かに思っています。今はまだ、親子の脳の類似性については研究が始まったばかりなので遠いことかもしれませんが、現在の研究を進めていけば、脳を知ることでどこかで道が開けてくる可能性はあります。
親子の脳の類似性に関する研究は次の段階へ
──先の論文では、親子の脳の類似性について、その入り口を発表されたと思います。今後はどのような研究に深化するのでしょうか。
松平先生:今回は、お子さんの年齢が15歳以上の「親子トリオ」のデータを使って分析したわけですが、「トリオジュニア」と称して、小学5年生から中学3年生のお子さんとそのお父さん、お母さんという組み合わせのデータも収集しています。
「親子トリオ」で行った分析を、次は「トリオジュニア」でも行う計画をしています。
小学5年生から中学3年生のお子さんの脳は、大きさもかたちも変化している最中なので、おそらく、成熟した段階での親子間の脳とはまた違った結果が得られるのではないかと期待しています。
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親子関係と子どもの脳の発達にはどのような影響があるのか、というところから親子トリオでの研究をスタートさせた松平先生。
今回発表された研究では、父親も含めたデータを分析することにより、子どもの脳には「父親にのみ似る領域」「母親にのみ似る領域」「両親に似る領域」「どちらにも似ない領域」が存在することなどを発見しました。
親子の脳の類似性に関する研究は、医療や子育てなど、さまざまな分野での応用が期待され、次の研究発表も世界が注目する成果になるに違いありません。親子間の「似ている」が脳科学からさらに解明され、再び驚かされる日も遠くはないでしょう。
取材・文/梶原知恵
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◆松平泉(まつだいら いずみ)
東北大学学際科学フロンティア研究所助教、スマート・エイジング学際重点研究センター助教
専門は発達認知神経科学。『家族の脳科学』のプロジェクトにおいて、父・母・子の3人1組=親子トリオの脳や遺伝子からその関係性を分析し、人間の個性の成り立ちを解き明かす研究をしている。親子の脳の「かたち」が似ていることに関する成果は、世界初の研究として注目されている。