お中元は経費になる?交際費・広告宣伝費・福利厚生費の判断における税務処理のポイント
お世話になっている取引先や顧客に贈る「お中元」。この費用、果たして経費で落とせるのでしょうか。税務処理のルールや、仕訳時の勘定科目の違いによって、損金算入できるかどうかが変わるため、誤解やミスが多いポイントでもあります。
この記事では、お中元の経費処理の基本や注意点を、実務目線で分かりやすく解説します。
お中元は「経費で落ちる」のか?基本的な考え方
企業活動では、お中元やお歳暮など、取引先や従業員への贈り物をする機会があります。これらは信頼構築に役立つ一方で、贈る相手や目的により会計処理が異なり、税務上の取り扱いにも注意が必要です。
適切に分類しないと、経費として認められず課税対象となるリスクもあるでしょう。ここでは「交際費」「広告宣伝費」「福利厚生費」の違いや判断基準を分かりやすく解説します。
原則として「交際費」として処理されるケースが多い
お中元やお歳暮は、一般的に日頃お世話になっている得意先や仕入先に送られる贈り物です。相手との良好な関係を維持するために有効な手段ですが、会計上は交際費として処理されるのが一般的です。
交際費とは、法人が事業に関連する人物(得意先、仕入先、その他の事業関係者)に対して行う接待や贈答のために支出する費用を指します。お中元やお歳暮は、まさにこのカテゴリに該当し、得意先や仕入先に感謝の意を込めて贈られるため、税務上も交際費として処理されるのが通例です。
広告宣伝費として処理できるケースもある(不特定多数への贈答)
お中元やお歳暮を贈る目的が単なる感謝の意を伝えるものだけではなく、企業や店舗名を広めるための広告宣伝を目的としている場合もあります。
例えば、カレンダーや手帳など、会社名や店舗名が印刷された贈り物を不特定多数の人々に贈る場合、これらの贈答は交際費ではなく、広告宣伝費として処理することが適切でしょう。
福利厚生費になるパターンは稀で限定的
社員への贈答品も経費として処理することが可能です。しかし、社員向けの贈答品が福利厚生費として認められるのは、かなり限定的な条件です。重要なのは、贈答品が全社員に平等に配られていること。
特定の社員だけに贈る場合、それは福利厚生費として認められず、給与として扱われる可能性があるため注意が必要です。福利厚生費として処理するには、就業規則に基づいて全員に同じものを配布することが求められます。
交際費・広告宣伝費・福利厚生費の違いと判断基準
企業活動では、取引先や顧客、従業員への贈り物が発生することがあります。これらは信頼関係の構築に役立つ一方で、税務上の取り扱いには注意が必要です。贈る相手や目的によって、経費区分が変わり、処理を誤ると税務リスクにつながることもあります。ここでは、それぞれの違いや判断ポイントを分かりやすく整理します。
取引先に贈った場合:交際費扱い(上限に注意)
お中元やお歳暮などを得意先や仕入先といった社外の取引先に贈る場合、その費用は基本的に交際費として会計処理されます。これは、法人が事業に関連する外部関係者との信頼関係を深め、円滑な取引を継続するために必要な支出として認められるものです。
ただし税法上、交際費には損金算入に関する制限があります。中小企業(資本金1億円以下の法人)については、年間800万円までの交際費もしくは、交際費のうち飲食代の50%について全額を損金として算入できるという特例が設けられており、この範囲内であれば税負担の軽減が可能です。
一方、800万円を超える部分については損金不算入となるため、税務上の節税効果は得られません。また、すべての贈答が自動的に交際費と認められるわけではなく、その支出が事業上の必要性に基づいていることが重要です。贈答の内容や金額、贈る頻度、相手先との関係性などが合理的であると認められる場合に限り、税務上も妥当な交際費と判断されます。
広く配った場合:広告宣伝費で処理可能なことも
チラシやノベルティグッズのように、不特定多数の顧客や見込み客に向けて広く配布される贈答物は、広告宣伝費として処理されるケースがあります。
例えば、企業名やロゴが印刷されたカレンダーやボールペン、エコバッグなどを展示会や店舗イベントの来場者に配布するような場合、それは企業の認知度向上やブランドイメージの定着を目的とした広告活動と見なされるため、交際費ではなく広告宣伝費として取り扱えます。
このような支出は、取引先との関係構築というよりも、広く一般の消費者に対して自社をアピールする性格が強いため、税務上も交際費の損金算入限度額の対象外として扱われる点がポイントです。ただし、広告宣伝費として認められるためには、配布対象が不特定多数であることが大前提となります。
特定の得意先に対してのみ配る場合は、交際費と判断される場合もあるため、配布対象や目的が営業促進のための広告であることを明確にしておくことが大切です。
社内の従業員に贈った場合:福利厚生費になるか?
従業員に対する贈り物については、福利厚生費として経費処理できるケースもありますが、その対象は非常に限定的で、適用には注意が必要です。
例えば、創立記念日や年末年始、暑中見舞いといった社内行事の一環として、全社員にお菓子や記念品を一律に配布するような場合は、福利厚生の一環として認められる可能性が高く、経費として計上することが可能です。
ただし、対象が限定されていたり、贈り物の金額が著しく高額であったりする場合には、経費計上できません。特定の従業員のみに贈られたものや高価な贈答品については、福利厚生費とは見なされず、給与として扱われる可能性があります。その場合、受け取った従業員に対して源泉徴収が必要になる可能性もあります。
このように、福利厚生費として経費処理を認められるには、を するためには、全従業員を対象として平等に提供されていることや、金額が社会通念上妥当(常識的な範囲)であることなどの条件を満たしていることが不可欠です。
お中元の経費処理で気をつけたい3つのポイント
お中元やお歳暮といった季節の贈り物は、取引先との良好な関係を築くうえで大切な慣習です。しかし、これらの贈答品を会社の経費として処理するには、いくつかのルールや注意点があります。
税務調査で否認されないためにも、贈答品の記録方法や金額の上限、そして交際費としての扱い方など、しっかりと理解しておくことが大切です。ここでは、お中元を経費処理する際に特に注意したい3つのポイントを分かりやすく解説します。
① 贈答先・金額・内容を記録に残す(証拠書類の整備)
贈答品を経費として計上する場合、その証拠をしっかりと残すことが非常に重要です。もし証拠が不十分だと、税務調査の際に経費が否認されるリスクがあります。贈答品を購入した際には、必ず領収書を保管し、その裏に贈答先や贈った品物の内容をメモしておきましょう。
お中元やお歳暮など、贈答先が多くなる場合には、送付先リストを作成して管理することをおすすめします。これにより、贈答品が適正に処理されていることを証明でき、税務調査時に不安を感じることも少なくなるでしょう。
送付リストは、百貨店やギフトショップで発行される配送リストや送付状でも構いません。さらに、贈答品を手渡しするのではなく、配送業者を通じて贈ることも証拠を残すための有効な手段です。
第三者を通すことで、実際に贈答品が相手に渡ったという証明が確実になります。税務調査では、家族や友人に贈った品物が混じっていないかをチェックされることが多いので、私的な贈り物についてはリストに含めず、経費から除外するようにしましょう。
② 高額すぎる贈答品は否認リスクあり
贈答品は金額に上限が決まっているわけではありませんが、あまりに高額な場合、税務調査で疑われるリスクがあります。特に、50,000円以上の贈答品については、税務調査で個人的な支出として扱われる可能性が高くなるでしょう。
実際、過去には高級時計を贈答品として計上し、その時計を自分で使用していたという事例もあります。このように、高額な贈答品を経費として処理すると、私的流用と判断されやすく、することは、脱税の疑いを招きやすいので注意が必要です。
また、ブランド品や貴金属などの高額商品を複数回に分けて購入し、領収書を水増しして偽装する不正もありました。これらの事例を踏まえて、税務調査で目をつけられないためにも、贈答品の金額は常識的な範囲内に抑えることが大切です。
③ 一定額以上は交際費の損金不算入に注意
交際費は原則として損金にできませんが、資本金1億円以下の中小企業には特例があり、年間800万円までの交際費は損金に算入できます。ただし、この上限を超えた分については損金として認められないため、経費として計上しても法人税の節税にはつながりません。
また、資本金1億円超の法人ではこの特例は適用されず、接待飲食費の50%しか損金にできないなど、法人規模によって扱いが異なります。交際費の処理は、企業の規模と金額によって慎重に判断する必要があります。
中小企業向けの交際費の特例と上限ルール
企業が取引先との関係構築や信頼強化のために交際費を使うのは、ビジネス上よくあることです。ただし、交際費は原則として損金にできず、税務上の制限があります。
しかし、中小企業には特例があり、条件を満たせば一定額まで損金算入が可能です。この特例を正しく理解し、上手に活用することで、無駄な税負担を避けられます。ここでは中小企業向けの特例の内容と、大企業との違いを解説します。
800万円までの交際費は全額損金算入できる特例(資本金1億円以下)
交際費は原則として損金に計上できませんが、資本金が1億円以下の中小企業には特例が設けられています。この特例により、年間800万円までの交際費は損金に算入できます。
しかし、交際費が800万円を超えると、その超過分は税務上、損金として認められません。つまり、超過分については経費として計上できないため、その分の法人税が軽減されることはありません。
交際費は一般的に冗費(無駄な費用)とされ、損金として認められないことが多いですが、取引先との接待などが売上向上に寄与する場合も考えられるでしょう。また、交際費の支出が消費を促進し、経済の活性化にもつながるとも考えられます。
交際費をうまく活用して節税を図れるのは、中小企業にとって大きなメリットだと言えるでしょう。
資本金1億円超の企業は50%しか損金にできない
資本金が1億円を超える企業では、交際費の損金算入に制限があります。交際費のうち、飲食などにかかる費用の50%しか損金として認められません。
例えば、飲食代として1,000万円支出した場合、その半額である500万円のみが損金算入され、残りの500万円は損金として計上されないことになります。また、従業員や役員、その親族に対する接待費用は、交際費の範囲外となり、損金算入の対象外です。
このように、資本金が1億円を超える企業では、交際費の損金算入額が制限されています。計上できる金額が限定されることを、しっかりと理解しておく必要があるでしょう。
まとめ
お中元は贈る側の誠意を示す大切な文化である一方、税務処理には明確なルールがあります。経費として認められるかどうかは「誰に」「何の目的で」「いくらで」贈ったかによって変わるため、贈答品リストや領収書の管理も含め、計画的な対応が必要です。
会計処理を正しく行いながら、良好な取引関係と税務リスクの回避を両立させましょう。