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内田百閒、宮脇俊三、種村直樹……「トラベルライティング」という鉄道の楽しみ方を立教大観光学部で考える【コラム】

鉄道チャンネル

鉄道旅のイメージ(写真:鉄道チャンネル編集部、2022年9月「ふたつ星4047」試乗会で撮影)

鉄道趣味がこれだけ盛んな理由の一つは、乗り鉄、撮り鉄、音鉄、読み鉄、模型鉄といろんな楽しみ方をできるからでしょう。その一つが「書き鉄」。乗車した列車、あるいは画像や動画で記録した列車の乗車日や区間、車両、ダイヤ、印象などを書き留めれば記録と記憶に残ります。

メモでもOK。でも、せっかくなら文章で残しましょう。書き鉄に代わる新しい呼び名が「トラベルライティング」。日本ではなじみの薄いネーミングですが、ヨーロッパやアメリカではジャンルとして定着。書店には専門コーナーもあります。

本コラム注目のきっかけは、埼玉県新座市の立教大学新座キャンパスで2024年12月16日に開かれた「2024トラベルライティングアワード」。2023年1年間に車内誌や機内誌に掲載された紀行文から、学生が最優秀賞を選んでアワードを贈呈します。

トラベルライティングアワード2024の学生奨励賞受賞者。受講生352人が作品を提出。最優秀賞の今村さんほか11作品が優秀賞を受賞しました(筆者撮影)

トラベルライティングの楽しみ方を、講義(授業)を担当する立教大観光学部の桝谷鋭教授と抜井ゆかり兼任講師に聞きました。

(本コラムは作家のお名前を敬称略で表記させていただきます)

旅を通じて自らの内面性をあぶり出す

最初にトラベルライティングとは。一口でいえば紀行文です。観光や旅行(鉄道の場合は車両など)のガイドブック類を含まない代わり、一人称で書かれた自伝や回想録を幅広く指します。

多くはノンフィクションながら、創作を含む場合も。映画化された有川ひろ(旧ペンネーム・有川浩)の「阪急電車」、浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」といった鉄道小説は、鉄道ファン目線では一種のトラベルライティングといえそうです。

トラベルライティングと、一般的な紀行文や旅行記の違い。少々アカデミックになりますが、抜井先生は「実際の旅行(乗車)をきっかけに、筆者の過去の経験や感情を引き合いにしながら、自らの内面性をあぶり出して文章で表現。実際の旅を、インナートリップ(心の旅、内なる旅)に昇華させるのがトラベルライティングといえるかもしれません」と話します。

観光教育の名門・立教大観光学部でもトラベルライティングは人気の講義。300人以上の学生が受講、レポートは〝作品〟です。抜井先生は受講生に、「単に旅の記録をまとめるのでなく、自らの内面性を感じてもらえる作品に仕上げてほしい」と指導します。

長崎菓子紀行にアワード

立教大のトラベルライティング(講義)、観光学部に交流文化学科が開設された2006年に始まりました。目的は「これまで評価される機会のなかった、車内誌や機内誌の紀行文にスポットライトを当てる」(桝谷先生)。

2007年にアワードを創設。2020年には作家の村上春樹が、日本航空の機内誌「SKYWARD」への寄稿で受賞しています。学生が執筆する授業は、抜井先生が着任した2014年から。優秀作品に「学生奨励賞」が贈られます。

2024アワードを受賞したのは、JR東海の車内誌「ひととき」2023年3月号に掲載された「長崎 異国菓子ものがたり」。筆者はノンフィクションライターの瀬戸内みなみさん。さわりだけですがご紹介します。

長崎の人口の約6分の1が中国人だった江戸時代初期から、当地は盛んに中国と交流し、食文化にも影響を受けてきました。華僑となった人々が、故郷を懐かしんで作った中華菓子は当地に根付いた甘味といえるでしょう。〝よりより〟と呼ばれる菓子も、唐船とともに当地に入り、根付いた中華菓子のひとつです。異国から影響を受けた菓子文化が、今も大切に受け継がれる長崎市へ、甘い、甘い旅に出かけます。

2024年のアワードに選ばれた瀬戸内さん。「にっぽん猫島紀行」などの作品があります(筆者撮影)

導入部は切れ味鋭く

トラベルライティングは何をどう書けばいいのか。抜井先生と、アワード審査員を務めるダイヤモンド・ビッグ社の藤岡比左志・元社長に聞きました。

旅行記は本一冊も書けますが、講義は「1600字以内のエッセイ」のしばりを設けます。大切なのは書き出し。どうしても説明的になりがちですが、極力具体的な描写で始めること。「導入部は切れ味鋭く。読んでみると、オチのない作品も多い」と藤岡さん。マクラとサゲ。トラベルライティングは落語の小話に似るのかもしれません。

立教大桝谷ゼミは「ツーリズムEXPOジャパン2024」にも参加。研究成果を発表しました(筆者撮影)

トラベルライティング三賢人

ここで一服。鉄道トラベルライティングの三賢人を選んでみました。

1人目は内田百閒(1889~1971)。代表作の「阿房列車」は、1950~1955年に執筆した紀行文シリーズ、鉄道(もちろんSL)に乗ることを目的に長期の鉄道旅行を好んだ、「元祖乗り鉄」と呼びたくなる作家です。

2人目は宮脇俊三(1926~2003)。出版社から旅行作家に。「時刻表2万キロ」、「最長片道切符の旅」といった著作で、鉄道に乗るのが趣味というファンの存在を社会に認知させました。

3人目の種村直樹(1936~2014)は新聞記者出身。鉄道専門の作家として「気まぐれ列車で出発進行」、「気まぐれ列車の時刻表」といった作品を残しました。レイルウェイ・ライターを自称。読者を汽車旅に誘う作風で知られます。

「読んだ人が行きたくなる、乗ってみたくなる」は、トラベルライターの末席をけがす筆者も常に心掛ける点です。

記事:上里夏生

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