Yahoo! JAPAN

『チーム啓祐』が8,000点への挑戦で得られたもの|活動を振り返る対談を実施

Sports

2024年6月22〜23日に開催された第108回日本選手権混成競技に挑む右代啓祐選手(以下、右代)と『チーム啓祐』。これは、3年前の東京オリンピック落選という悔しい経験を経て再び立ち上がった右代選手と、彼を支える専門家たちの挑戦の物語です。栄養サポートから陸上技術指導など、多岐にわたる支援を受けながら進化を続けた『チーム啓祐』の取り組み、そして大舞台に挑む彼らの熱意と悔しさ。その一連の軌跡を振り返りながら、何が彼らを奮い立たせ、どのように前進してきたのかを『チーム啓祐』の中心メンバーである栗原秀文さん(以下、栗原)、石井和男さん(以下、石井)にお話を伺いながら明らかにしていきます。

チーム啓祐とは?

味の素株式会社が進める『ビクトリープロジェクト®』の一環として、十種競技日本記録保持者・右代啓祐選手を支えたプロジェクト。栄養面のサポートを行うリーダーの栗原秀文さんだけではなく、ボブスレー元日本代表監督で走りの専門家である石井和男さん、トレーナーとして数多くのアスリートに接し、栗原さんとのパートナーシップも強固な三富陽輔さん、科学的な知見を持ってアスリートの動作解析・改善を行う柿木克之さん、そして広報やマネジメントの担当から成り立ちます。

右代啓祐選手への単独インタビュー記事

『チーム啓祐』の秘密に迫る、4人の専門家へのインタビュー(前編・後編)

再会から始まる挑戦:『チーム啓祐』誕生秘話

数々のアスリートに『ビクトリープロジェクト®』で栄養サポートを行ってきた味の素株式会社の栗原秀文さん。「2日間で10種目の競技を行う十種競技は、まさに栄養戦略の塊」だと思っていた栗原さんは、東京オリンピック後の対談企画で右代さんと再会し、“右代啓祐という人間性”に心を動かされ、『ビクトリープロジェクト®』でのサポートを決めます。

実はその前から出会っていた2人。右代さんの持つ栗原さんに対する当時の印象は、「あの豪快な栗原さん」でした。

右代)栗原さんとはアジア大会の会場で出会い、会場で提供されていたアミノバイタルを「十種競技ならたくさん必要でしょ」と、箱ごと100本以上もくださったことがとても印象に残っています(笑)。

写真右から、右代啓祐さん、栗原秀文さん、石井和男さん

右代さんを栗原さんが栄養面で支える形でスタートを切ったプロジェクト。「正直、この恵まれた体格を持ち経験もある右代選手なら、栄養面が変われば楽勝だろう」と考えていた栗原さんでしたが、2人で取り組んだ初めての日本選手権は5位という結果に。

栗原)このとき、「自分1人では限界がある」という想いとともに、「右代啓祐という稀代のアスリートを立て直したい」という気持ちにスイッチが入りました。陸上競技に関する専門家、身体の使い方に関する専門家がチームにいないと課題を解決できない。これまでになかった栄養だけではないサポートチームを社内に向けてプレゼンし、実現に向けて動いていきました。

集まった最高のメンバーたち

新生・『チーム啓祐』は、“走りのエキスパート”としてボブスレー元日本代表監督の石井和男さん、トレーナーの三富陽輔さん、工学博士の柿木克之さんを加え、チームとして走りだします。
以前は仕事でもやり取りをしていた栗原さんと石井さん。頻繁に会う仲ではなかった2人ですが、栗原さんはお願いするなら石井さんだと決めていたそうです。

栗原さんからの誘いの電話はよく覚えていますね。もう話を聞く前から、イエスと答える覚悟は決まっていました(笑)(石井和男さん・写真左)

「右代啓祐を変えたい」と栗原さんが招集したメンバーですが、石井さんと右代さんにはある種の“因縁”がありました。

石井)実は、右代くんとは、私がボブスレー日本代表の監督をしていた時代にボブスレーにスカウトした過去があるんです。そのときは丁重に断られましたが(笑)。

右代)石井さんからのボブスレー選手へのスカウトは、大学時代のインカレ後や、長野での日本選手権など、場所まで覚えています(笑)。ずっとお誘いを断っていた方なので、一緒にチームとして仕事をするというのは、最初は怖かったですね。ですが、「信頼している栗原さんが石井さんのことをこれだけ信頼しているのなら断る理由はない」と思い、僕も決心しました。

栗原)こう言ってはいますが、最初のミーティングではなかなかアイスブレイクできず、右代くんが石井さんに対してガチガチに緊張していましたね(笑)。

新たな挑戦へ|右代啓祐と『チーム啓祐』の進化

「栄養面の戦略を取り入れたことで、これまで感じたことのない力を練習や試合で感じるようになっていた」という右代選手。十種競技のレジェンドとして第一線を走り続けてきて、勉強熱心な右代選手は、改めて専門家がチームに加わることに抵抗はなかったのでしょうか?

右代)これまでずっと自分の課題であった“走り”という点に関して、何をすれば克服できるのか、どんなトレーニングをすればいいのかの優先順位が自分だけでは考えきれなかったのは事実です。そんなときに専門的な力を持っている方が加わってくださるのは素直にありがたいお話だと感じていました。

栗原)右代選手は国際経験も豊富で実績もありトレーニング方法もたくさん知っている。だからこそこれまでずっとトップで活躍できていました。でもそれは、例えると細い幹に葉っぱがたくさんついている状況だったと思います。幹をしっかりとした上で、必要な葉っぱだけを残していこうと取り組んでいきました。

トレーナーとして『チーム啓祐』に加わった三富陽輔さん

新しいメンバーがチーム啓祐に加わった2022年夏、チームで共通して認識した右代選手の課題は「スプリント力」をどのように向上させるかでした。なぜ弱いのか、強化するためにはどうすればいいのかをチームで付箋に書き出したところ100個もの要素が出てきました。その中でもとくに接地の技術、体幹、左右差が大きなポイントでした。
30代中盤でベテランと呼ばれる領域に入っている右代選手に課せられたのは、体の左右差をなくし、スプリントの動作に対応するための“基礎的な”トレーニングの数々。ウォーミングアップの段階で汗だくになるほどに、細かな基礎的なトレーニングを積み重ねる日々を過ごすことになります。

ーー右代選手は、課題を指摘されたり、基礎的なことを行う練習でストレスを感じなかったのでしょうか?

右代)課題を指摘されたり、基礎的な練習を行うことへのストレスはまったくありませんでした。もちろんきつかったですが(笑)、『チーム啓祐』の目標である「強かったときの自分に戻る」ことに集中していましたし、逆に自分1人で考えていたときとは違ったアプローチで取り組めることが本当にありがたかったです。

2023年の冬には日本記録を出したときを上回る測定値も見られるようになったり、バイクの回転数が過去最大値を記録するようになったり。自分の体が以前の状態に戻ろうとしていることやピークパワーが目に見えるようになってきて、「早く次の練習をしたい」という前向きな気持ちで続けられましたし、年齢を重ねることによって記録がでなくなることへのストレスも感じず、純粋に自己ベストを更新していくことがゲームみたいで楽しかったです。

栗原秀文さん(写真左)と柿木克之さん(同右)

右代)柿木さんの動作解析をもとに、「この波形だから速く走れる」という関係性について探りながら試行錯誤する時間はとても貴重でした。僕の競技人生の中で現役選手としての時間は残り少しだと思いますが、その後に指導者となったときには選手の能力向上に活かせるような知見がたまったのではないかと思います。
音楽に合わせて体を動かすスポーツリズムトレーニングに関しても、「裏拍」を意識して脱力のコツがわかり、円盤投げや砲丸投げの投擲種目はこのトレーニングが大きなヒントになって、自己ベストに迫る記録を何度も出せるようになりました。

集大成:『チーム啓祐』が得たものと新たな課題

そして迎えた、2024年日本選手権。パリオリンピックの選考会ともなった試合を『チーム啓祐』はベストな状態で迎えました。3人で改めてその日のことを振り返っていただきます。

ーー2024年6月22〜23日に開催された日本選手権を振り返っていきたいと思います。まずは当日までの準備や当日のコンディションはいかがでしたか。

右代)試合前にしっかりと睡眠時間をとれましたし、リラックスする時間もとれていたので、「ここ数年で1番いい体と心の状態だ」と、かなりの自信をもって試合に臨むことができました。

石井)課題としていた“走り”についても、前日の公式練習でいいタイムが出ていました。もう準備は万端で、あとは本番でパフォーマンスを発揮できれば結果は出るという手応えを感じていましたね。

ーーそして大会当日を迎えたわけですが、結果は7,204点の7位。大会でのパフォーマンスを含めてあらためて評価や感想をお願いします。

右代)本番で力を出すという難しさを感じました。今年の春には、100mでここ数年で1番いいタイムを出すなど、体や技術はできあがっていました。
最後はハッピーエンドにしたかった。今でも結果に対して「何でだろう?」と考え続けているのですが、正直悔しいです。とくに試合直後はチームで取り組んできた集大成がここで終わってしまうことが本当に悔しかったですね。

石井)当日もウォーミングアップのときから調子がよいのは感じていました。ただ最初の種目である100mで目標としていたタイムを出すことができなかった。僕もあれからずっと考えています。『チーム啓祐』として技や体に関することは数字や映像などで見えるようにしてきましたが、「心技体」のうち“心”だけは具体的に見えていなかった。そのアプローチをどうするのかを考えさせられた結果だったと思っています。

栗原)思い描いていた景色とは違いましたね。試合当日の右代選手の状態を見て、初日最初の100mで僕も11秒4が出ると思っていましたし、2日目の110mハードルも全然違うタイムになると思っていました。体の状態が1日目も2日目も良かったことは、チームとして1つの仕事はできたと思います。でも心や考え方にまだ足りないところがあったのかなと。

栗原)目標とする記録にあと少しという場面が初日の競技から続いていましたが、砲丸投げの3投目では、砲丸が指から離れていく指先から、「俺はどうしても勝ちたいんだ」という圧を感じたんです。その最後の“あがき”がほかの9種目では僕には見えなかった。本番でこのような“がむしゃらさ”が必要だったのかもしれませんが、その“がむしゃらさ”は課題でもあった“力み”になり、今まで積み上げてきた技術が破綻することにも繋がります。そんな難しい領域に、大人がこんなに一生懸命に取り組んでいたんだなとあらためて感じました。

最高のチーム、それぞれの未来へ

右代)振り返ってみると、2021年東京オリンピックに出場できなかったことで、引退していた可能性もありました。でもそのタイミングで栗原さんと出会い、いままで競技ができていること自体がある意味で奇跡だと思っています。
自分が今までやり残していたことを全部もう1回イチから積み上げて日本選手権に挑戦できた。目標としていた結果は達成できませんでしたが、その挑戦については達成できたのではないかなと思っています。歳をとると身体も変化するしパフォーマンスが落ちることが当たり前になりますが、このチームは年齢を理由にせず、足りないもの、今やらないといけないことにフォーカスしてくれました。その関わりが、僕の時間を止めて挑戦を続けさせてくれたと感じています。

これから先のことはまだわかりませんが、競技者としては続けていきますし、足りなかったところを補って何としてでも良い結果を残して『チーム啓祐』のみなさんに報告したいです。この大好きなチームでプロジェクトができたことは本当に楽しかったです。でもここが終わりではないと思っているので引き続きがんばります。

石井)今回のプロジェクトに参加するときに右代くんの年齢やこれまでの怪我のことを聞いて、最初はネガティブな考えをどうしても抱いてしまいました。 でもこの『チーム啓祐』はそうではなく、「絶対にいける」「年齢なんて関係ない」と全員がそう信じて疑っていなかった。その環境の中で仕事をしていくうちに、自分はそんな選手でも絶対に目標の場所に連れていけると自信が湧いてくるような経験になりました。
コーチとしてトップ選手に関わる以上、結果がすべてなので、今回の日本選手権の結果は大変申し訳ないと思っています。でもこの『チーム啓祐』での経験で得たものはとてつもなく大きい。今はこの経験を無駄にせず今後に活かしていきたいという気持ちでいっぱいです。

栗原)私は栄養サポートが本業ですが、今回それを軸としながらも、ストレングスやコンディショニングとも連携を取れるチームを作りました。正直、最初はこんなにもいいチームになるとは想像もしていなかったですし、こんなにも素晴らしい人たちと仕事ができるとは思いもよらなかったです。

選手をサポートする側として関わりますが、この仕事はサポートしているようでサポートされている部分もあると感じています。サポートをすることによって自分の能力を高めてくれていることもあるし、自分が挫けたときには選手が助けてくれることもある。『チーム啓祐』でもそういった関係が何度もありました。この『チーム啓祐』がどうしてここまで心地よく全力を尽くせたのか。これからに向けて、ビクトリープロジェクト®としてももう少し深く考えて理解していきたいと思っています。

最後に、味の素という企業の中でこのプロジェクト活動をさせていただいたことに本当に感謝していますし、今回得たものをまた別の活動にも活かしていきながら、当然右代選手の今後にも活かしていきたいです。

ーーありがとうございました。

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 揚げたてがたまらない! 店頭でしか買えない「かま栄」の人気商品3選【小樽】

    北海道Likers
  2. 練習をサボった子が先発で真面目なわが子はベンチ。上手ければ休んでいいのか問題

    サカイク
  3. 絵になる猫柄『黒猫』の魅力3選!歴史や性格などの基礎知識から、幸運を呼ぶと言われる理由まで

    ねこちゃんホンポ
  4. 【ユニクロパンツ】持ってる人、マネして!ダサ見えしない2月コーデ5選

    4MEEE
  5. 【必見】本格江戸前寿司「50種類120分食べ放題」が4千円台で?2月限定のコスパ最強寿司がすごすぎる…!

    ウレぴあ総研
  6. お子様ランチも魅力! 地元放送局社員が教える「行列のできるハンバーグセット」【京都市北区】

    きょうとくらす
  7. 女王蜂、ニューアルバム『悪』のジャケットを公開 収録曲「紫」の先行配信も決定

    SPICE
  8. 犬が食べても大丈夫な『魚介類』5つ 与えるメリットや食べさせるときの注意点まで

    わんちゃんホンポ
  9. ももクロ 百田夏菜子、 1st AL発売記念【吸引する 百田夏菜子 ビタミンBダッシュ】引力系?横スクロールゲーム公開!

    Pop’n’Roll
  10. こんなの探してた!40代におすすめのオンオフ使えるパンプス5選【2025年】

    4yuuu