「一人ひとりが主体的に考え、成長する場所に」大豆戸FC 末本コーチ×サカイクキャンプ柏瀬コーチ対談
サカイクキャンプで、子どもたちの成長を支える柏瀬翔太コーチ。大学時代は小学校教諭の資格を取得し、学生時代から「子どもたちがのびのびとプレーする」指導を追求し、15年のキャリアを積んできました。
大豆戸FCで長年、育成に携わってきた末本亮太コーチは「子ども一人ひとりの背景を見つめ、その子に寄り添う」指導を実践。子どもたちが自ら課題を見つけ、主体的に成長できる環境づくりに力を注いでいます。
今回、二人に子どもたちが主体的に考え、成長するための指導について、語ってもらいました。
(構成・文 鈴木智之)
■10年以上前から影響を受けてきた指導哲学
柏瀬:僕は学生の頃、末本さんの指導を一方的に見学させていただいたことがあります。当時、大豆戸FCさんがブログで情報発信をされていて、僕は「子どもたちがのびのびプレーすること」を意識していたので、参考にさせていただきました。今回お話できるのが本当に嬉しいです。
末本:そうでしたか。最近、若い指導者の方と話していたら「末本さんのSNSを見ていました」と言われることも増えてきたので嬉しいです。若い方でも昔教わった、昔ながらの指導をそのままやる方が多いので、「子どもたちがのびのびプレーする」といった考え方が広まってほしいですね。
柏瀬:自分が指導の上で大切にしているのは「伝えすぎないこと」です。サッカーの原理原則はしっかり伝えますが、何でもかんでも伝えないようにしています。僕が伝えるのは、あくまで僕の考えなので、自分で考えることを大切にしてほしいと思っています。また、10年前の子どもと今の子は違うと思って接しているので、どういうふうに考えているのか、今どう思っているのかを一緒に考えて、関わっていくことを大切にしています。
末本:私が指導面で大事にしていることは、子どもをよく見ることです。その子が家庭でどうなのか、学校生活ではどうなのか。子どもは練習だけ来て、サッカーだけをやっているわけではありません。日々、楽しかったことや大変なことを経て、グラウンドに来ているので、その子たちがどういう状況で来ているのかを踏まえて接することを意識しています。子どもは一人ひとり性格や気質が違うので、この子はどういうタイプなのかを見て、自分で頑張れない子は背中を押してあげたり、この子は任せても大丈夫だなといったように、一人ひとりをちゃんと見ることを心がけています。
柏瀬:まさに、おっしゃる通りだと思います。僕はスクールで、まず来た子の顔色を見て、「今日どうだった?」と聞くんです。笑顔の子は「こんなことがあって、あんなことがあって」とハツラツとしていますが、暗い顔をしている子は「実は先生に怒られて...」とシュンとした状態で来たりします。兄弟喧嘩してきた子もいれば、お父さんお母さんが褒めてくれてルンルンなんだという子もいます。そういうのをしっかりと見た上で関わること、いつも同じ接し方ではいけないと思っているので、そこは意識してやらせてもらっています。
■自主性と主体性の違い
末本:最近、読んだ本でハッと思ったのが「自主性」と「主体性」は違うということです。自主性は、決められたことをやる力です。「こういう風にしてください」「こういうルールを守ってください」という中で発揮するのが自主性。主に学校で求められることです。
でも、僕が大事にしたいのは主体性です。主体性って何かというと、自分で課題を見つけて、それにチャレンジして成長していくこと。僕は今、主に中学生を指導していますが、自主性、外部から与えられ、あらかじめ決まっていることをやってきた子は、自分で課題を発見して取り組むことが苦手です。一方、中学生になって伸びていく子は、主体性、自分で課題を見つけられて、それに対してスケジューリングが立てられて、具体的なアクションを起こせ、自分に責任を取れる子です。
身体能力が高い子は、小学生の時はあまり考えなくても通用します。でも中学、高校になると、飛び抜けてスーパーな子以外は差が縮まってきてしまうのです。その時に大事なのは主体性です。自分から考えて、アクションを起こせること。比べる軸が相手ではなくて、昨日の自分より、今日の自分がどれだけ成長できたかに目を向けて取り組むことで、成長が実感できて、自己肯定感も高まっていくと思います。
柏瀬:まさにその通りだと思います。自分で課題に気がつくことができて、自分でアクションを起こして変えていける子は確かに少ないですよね。僕も「自分で考えてみてね」と言いますが、その空間ではできても、違う場所で別の課題になった時に、主体性が見えにくかったりします。自分で見つけて気づけるというのは、僕自身も改めてそうあってほしいなと思います。
末本:学校教育も変わってきていますよね。僕の息子たちがまさにそうですが、相対的な成績というよりは、それぞれの子どもが自分で課題を見つけ、やったことに対して成績をつけるようになってきています。これはすごく良いことだし、こういったアプローチはサッカーの方が先だったなといつも思うのですけど、サッカーの現場でももっとできるんじゃないかなと思います。
柏瀬:そこで大切なのは、指導者や保護者が子どもに手を掛けすぎず、なるべく見守ることだと思います。僕自身、指導者としてその場のルールや、人を傷つけないこと、サッカーの原理原則は伝えますが、それを踏まえたうえで「自分で考えてやってみよう」と伝えます。自分で考えてやってみた時に、心が動くんです。「あ、今できたぞ」とパッと明るくなり、心から嬉しい表情が出てくる瞬間があります。それが、その子の成長のきっかけになるんじゃないかと思っています。
末本:そうですね。
柏瀬:サカイクキャンプは、子どもたち一人ひとりが主体的に考え、成長する場にしたいと思っています。「うちの子、あんまり上手じゃなくて」と言う保護者の方も多いのですが、上手いと言われている子の大半が、ボール扱いが上手い、ドリブルが上手といった観点で語られがちです。でも実は守備が上手だったり、ボールの引き出し方が上手だったりと、すごい個性はたくさんあります。そこは見逃さないようにしてあげたいと思っています。
■技術だけでなく人として成長することが、結果的にサッカー選手としての成長にもつながる
柏瀬:サカイクキャンプでは、「考える力」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」という5つのライフスキルを大切にしています。技術や戦術だけでなく、一人ひとりの個性を見つめ、その子らしい輝きを引き出すこと。そして、子どもたちが自分で考え、主体的に行動できる力を育むこと。これらはサッカー選手として成長していく上で、とても大切なことだと考えています。
末本:そうですね。これはサッカーの上手い下手に関係なく、すべての子どもたちにこそ、大切にしてほしい考え方だと思います。技術だけでなく人として成長することが、結果的にサッカー選手としての成長にもつながります。子どもたち一人ひとりが、自分の課題を見つけ、自分らしく成長していける。主体的に取り組む環境を作ることが、僕たち指導者の役割だと思います。
柏瀬:サカイクキャンプはサッカーが好きな子、もっと上手くなりたい子、新しい仲間と出会いたい子。どんな子でも、その子らしい輝きを見つけられる場所にしたいと思っています。ぜひ多くの子どもたちに参加してほしいです。
(後編に続く)