北海道の洋館「豊平館」では、上を向くのを忘れずに 明治天皇も泊まったホテルの美しき〝漆喰芸術〟
「みんな鏝絵大好きでしょ?」――2025年1月21日、そんなつぶやきがX上で話題となった。
鏝絵――こてえ。漆喰を塗った上に、職人がコテによって描いた絵のことだ。
外壁の装飾に用いられることが多いが、投稿者「ニュー タトの人」(@new_fan2)さんが紹介したのは、北海道札幌市中央区にある国指定重要文化財「豊平館」の天井。シャンデリアの吊元にある天井中心飾が鏝絵の手法で仕上げられているのだ。
この芸術的な職人技に、X上では7400件を超える「いいね」(1月30日時点)のほか、こんな声が寄せられている。
「大好きです!」 「素敵です」 「職人さんすごいなあ」 「鏝絵、読めなかったけど好き」 「これ漆喰をコテで塗って作られているのか!すごいなー!」
投稿者・ニュー タトの人さんが「豊平館」の鏝絵に注目したのはなぜか? 目のあたりにして、どんな感想を抱いたのか? Jタウンネット記者は詳しい話を聞いてみた。
シャンデリアの吊元で輝く左官職人の技
「古い建物は洋館であれ和風建築であれ好きです。今では使われていない素材、技術が使われているところが好きですね」
そう語る投稿者・ニュー タトの人さんが「豊平館」を訪れたのは、25年1月21日。
主に仕事で月に何度か北海道に行くが、中島公園にある「豊平館」は、中をちゃんとみたことがなかったので、行ってみたと語る。
「よく見る鏝絵と言えば、町屋や商家などの戸袋に装飾されたものが多いですが、天井の吊り元にこのような立派な鏝絵があるのはあまり多くないなと思いました」(「ニュー タトの人」さん)
「こういうところに行く場合、夕方が多いです。入ってくる光がきれいなので」と語るニュー タトの人さん。この日も、午後4時ごろの訪問だった。夕刻の斜光が差し込む中で、鏝絵は輝いて見えただろう。
最初の宿泊客は明治天皇
「豊平館」は、明治初期、開拓使によって建てられた木造洋風建築物だ。当初は現在の「カナモトホール(札幌市民ホール)」のそばにあったが、1958年に中島公園に移設保存された。
公式サイトでは、「漆喰芸術の天井中心飾」というタイトルで、鏝絵について次のように解説されている。
「シャンデリアの吊元にある天井中心飾は、漆喰を盛り付け、ここで立体的に仕上げていくもので、『こて絵』と呼ばれる伝統技術で作られています。当時の職人が成し得た洗練された漆喰芸術とも言えます。建設当初から残されていた15基に加え、復原された2基が存在します。部屋ごとにモチーフを変えた我が国の伝統文様が採用され、牡丹、菊、葡萄、椿、鳳凰、波に千鳥などが用いられています」(「豊平館」公式サイトより)
「豊平館」は、完全な西洋式のホテルとして、1879年に建築をはじめ、1880年に完成、落成式が催された。最初の宿泊客は明治天皇で、1881年の札幌訪問の際の行在所に用いられたという。以後、要人の宿泊、祝賀会、各種大会に用いられる。大正天皇・昭和天皇も皇太子時代に滞在。その際に使用されたとされる品なども展示しているという。
基調は米国式だが、意匠の細部に和風のモチーフを採用していることも特徴だという。その一つが、天井中心飾の「鏝絵」というわけだ。
皆さんも豊平館を訪れたら、上を見上げるのをお忘れなく。