できないと練習から外れてしまう未就学児、できた子を褒めるのはできない子のハードルを上げる? 指導のポイントを教えて
体格も集中力もバラバラな未就学児クラス。飽きさせないように1つのメニューを短く設定しているが、うまくできない子が練習から外れてしまう。
また、うまくできた子を褒めることは、できない子に対して挑戦のハードルを上げているのか? と悩むコーチからご相談をいただきました。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、子どもが挑戦しだすための指導のポイントを教えます。
(取材・文 島沢優子)
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<お父さんコーチからの質問>
今年からクラブで未就学児クラスを新設し、担当しています。
年中と年長を対象としていますが、体格や集中力が異なるため、同じメニューをやっても年中組はなかなかやり切れません。
出来るだけ1つのメニューを5分程度で切り上げて飽きない様にしていますが、年中組は自分が上手く出来ないと練習から外れてしまいます。
上手く出来た子を褒める事は、逆に出来ない子どもに対してハードルを上げてしまっているのか? など、悩んでいます。
こういった質問に対して、失敗を怖がらせるような環境がある、という回答を見かけることもありますが、私どものクラブはすべての学年においてサッカーを楽しむことを大前提にしており、接し方なども情報をアップデートしているほうだと思います。
失敗しても大丈夫だよ、と明るく優しく言っても挑戦したがらない子たちも割といて、最近の風潮だなとも感じています。(優しく繊細な子が増えたような......)
こういった場合は、どの様に対応するのが良いのでしょうか?
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
子どもたちが挑戦しないということですが、トライするエネルギーは楽しさから生まれます。やっていることがつまらなければ自分から頑張ろうとは思わない。つまり、楽しくなければ挑戦しません。
■練習メニューが面白くなさそうだったらすぐに変えたほうがいい
私は大阪体育大学でコーチングや心理学の授業をします。そのなかで、スポーツなどさまざなことに取り組むモチベーション(動機付け)についても話します。
最終的に自分から「やりたい」と思える「内発的動機付け」にたどり着くことが重要ですが、スポーツの入り口では楽しいとか面白いからやる「外発的動機付け」を用意することが重要です。
サッカーの練習でも、コーチが用意したメニューを子どもたちが面白くなさそうであればすぐ変えたほうがいい。決めた時間はやると四角四面に構えるのではなく、臨機応変に「じゃあ次はこれはどうかな?」と手を変え品を変えやってみましょう。
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■「どんな練習がしたい?」と子どもたちに聞いてみるのも良い
「どんな練習がしたい?」と聞いてみるのもいいでしょう。特に幼児や低学年など小さい子どもに対して、私はよく尋ねます。
子どもはシュートが好きなので、「ゴールに向かってボール蹴りたい」というパターンが多かったです。鬼ごっこをしたいと言う子もいます。そんなとき「サッカーじゃないとダメ」と否定せずにどんどんやらせましょう。
そんなふうに子どもがやりたいいことを先にやってから、「じゃあ、次はこんなのはどう?」と練習メニューやらせてください。練習といっても、そこに競争があり、遊べるようなものがいいでしょう。
何だか遊んでいるだけでなかなかうまくならないと感じることがあるかもしれませんが、そんなにすぐにステップアップできるものではありません。
焦らず「どう楽しませるか?」に注目して指導をしてください。
■子どもたちが夢中になる「フロー状態」こそが最も上達する状況
また、うまくできたり、頑張ったり、粘り強く取り組めたりしたのなら、当然ほめてください。
プレーも能力も違うので、全員に対して同じ指導はできません。よって、同じくらいの力の子どもで競争させたり、グループによってハンデをつけるなど工夫してください。
例えばドリブル練習でも競争を取り入れます。背の順でやったら、次は遅い者同士で競争する。速い子と遅い子、上級生と下級生がやるときは、それぞれ前者にハンデをつけます。勝ち負けのあるゲーム感覚で行えるものが、子どもは大好きです。
そしてこういったハンデは、子どもに対する差別などではありません。すべての子どもが「どうやったら楽しめるか?」という視点に立ったものです。
わいわいと騒いでやっていると「真面目にやっていない」と感じる向きもあるようですが、子どもが夢中になるのはフロー理論上必要なことです。夢中になる「フロー状態」こそが最も上達する状況といえます。
■指導のポイントはスモールステップをほめること
その際、指導者はスモールステップをほめましょう。それはスキルの向上だけに限りません。
練習の途中で砂遊びを始めた子が、砂場から戻ってきたら「よく帰ってきたね。えらいね」とほめます。水分補給の後、すぐに集まれたら「早く来れたね」と認めてあげてください。常に子どもたちの行動の変化に敏感でいましょう。
子どもたちは、興味さえあればどんどんやります。練習そっちのけで草むらのバッタを追いかけ始めてまったく戻ってこなかったことがありました。そんなとき、声を張り上げて「練習しろ」と叱ったりしません。
私は草むらにボールを蹴り込みました。ボールが来てびっくりしたバッタがぴょんぴょん跳ぶので、子どもたちは大喜びします。そこで「誰がボールを持ってこれるかな?ドリブルしてコーチのところに持ってきて!」と言って競争させます。
子どもたちは興味があるから、バッタのいる草むらに行くわけです。そのような興味をうまく利用しましょう。
■みんなで一緒に何かをするのが苦手な子も増えているので、よく見てあげて
とはいえ、最近の風潮として、みんなで何かを一緒にやるのが苦手な子どもは増えているようです。
そこを踏まえて、一人ひとり違いを認めてあげられる練習をしてください。
前述したように、子どもがやりたくないと言えば「オッケー。じゃあ、練習を替えるね」とコーチ側が変化してあげなくてはいけません。
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■練習がフィットして楽しくなると子どもたちは挑戦する
練習がフィットして楽しくなると、子どもたちは挑戦します。
例えばリフティングが出来ない子は、ワンバウンドのリフティングでいいことにします。難易度が下がるので、できる子が増えてみんなが「コーチ、見て!」と言って見せに来ます。
出来ない子に「練習してこい」と言わずに、その子たちができるように練習を変化させましょう。大人側が子どもの気持ちをわかってあげなくてはいけません。
その都度「挑戦しない理由は何かな?」と考えながら指導すれば、やるべきことはおのずと見えてくるはずです。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。