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江戸を描いた、五つのまなざし ― 上野の森美術館「五大浮世絵師展」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳。美人画、役者絵、風景画などさまざまなジャンルで活躍し、江戸時代の浮世絵黄金期を駆け抜けた五人の巨匠たちは、まさに“ビッグ5”と呼ぶにふさわしい存在です。

五大絵師の作品を一堂に集め、それぞれの表現の魅力と進化の軌跡をたどる展覧会が、上野の森美術館で開催中です。


上野の森美術館「五大浮世絵師展―歌麿 写楽 北斎 広重 国芳」会場入口


展覧会は、柔らかな眼差しと繊細な筆致で女性の美しさを描いた喜多川歌麿から始まります。遊女や芸者だけでなく、市井の娘たちをも描き出し、当時の「理想の女性像」を提示した美人画の第一人者。

スカウト役・蔦屋重三郎との出会いによって才能が花開き、一躍人気絵師となった歌麿。その作品には、女性たちの内面までも映し出すような深い表情が息づいています。色香と詩情に満ちた世界をご堪能ください。


第1章「喜多川歌麿 ― 物想う女性たち」


「ばくれん」は粋で酒好きな女性のこと。建前では浅はかで不届き者とされますが、ここでは美人が酒を豪快に飲み、渡蟹を手づかみで食べる姿が描かれています。着物の柄も銘酒で、酒好きぶりが際立ちます。


喜多川歌麿《教訓親の目鑑 俗二云 ばくれん》享和2年(1802)頃


次は活動期間わずか10か月ながら約145点の作品を遺した東洲斎写楽。役者の顔を大胆にクローズアップした「大首絵」で知られ、見る者に強烈な印象を残します。

本章では、特に初期の作品を中心に紹介。誇張された表情やしぐさからは、舞台の熱気と緊張感がダイレクトに伝わってきます。まるで芝居の一幕を覗き見るような臨場感をお楽しみください。


第2章「東洲斎写楽 ― 役者絵の衝撃」


《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》は、寛政6年の芝居「花菖蒲文禄曽我」からの一場面。金貸し役を演じる二代目嵐龍蔵は、どこかユーモラスでもあります。背景の賛は後年のもので、写楽の描写力を高く評価しています。


東洲斎写楽《二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉》寛政6年(1794)


生涯を通じて挑戦を続けた葛飾北斎。70代以降に生まれた代表作《冨嶽三十六景》などを中心に、色彩と構図への探究心が際立つ作品群が並びます。

藍色の濃淡で表現された風景には、自然の雄大さと詩情が同居し、観る者を深く引き込みます。同時代に活躍した広重との比較展示にも注目。ふたりの視点の違いから、浮世絵風景画の多様性が見えてきます。


第3章「葛飾北斎 ― 怒涛のブルー」


『北斎漫画』は全15編からなる北斎の代表的な絵手本で、60年にわたり出版された大作です。テーマは特になく、北斎が自由に描いた印象で、弟子たちの手本とも言われます。後にフランスで注目され、ジャポニスムの意匠としても高く評価されました。


葛飾北斎『北斎漫画』 初〜15編 文政 11-明治11年(1828-78)


旅と名所ブームを背景に、《東海道五拾三次》《名所江戸百景》で人気を博した歌川広重。自然と人々の営みを、情緒豊かに描き出した風景画の名手です。

雨や雪、月明かりなど、気象や光の描写には、しっとりとした美しさと詩的な静けさが漂います。縦構図や遠近法を駆使した視覚的工夫も見どころのひとつ。構成美に富んだ広重の世界をご堪能ください。


第4章「歌川広重 ― 雨・月・雪の江戸」


「白雨」とは夕立のこと。松並木の山道で旅人たちが急な雨に慌てる様子が、生き生きと描かれています。風にざわめく竹藪や坂道を叩く雨など、夏の一瞬をとらえた動きのある構図が魅力的で、雪景と対になる「静」と「動」の演出は見事です。


歌川広重《東海道五拾三次之内 庄野 白雨》天保4-5年(1833-34)頃


最後を飾るのは、奇抜な構図と大胆な発想で知られる歌川国芳。武者絵や戯画、風刺画、美人画など多彩なジャンルで観る者を魅了します。

三枚続の大判絵に描かれた迫力あるヒーローたち、ユーモラスに描かれた動物や妖怪たち。西洋の画法を取り入れた風景画や、遊女の粋な美を表現した作品も並び、国芳の遊び心と想像力に満ちた世界が広がります。


第5章「歌川国芳 ― ヒーローとスペクタクル」


国芳は『通俗水滸伝』の成功を受け、日本の英雄たちを描く新たなシリーズを展開しました。本作はその一図で、宮本武蔵が人喰い鰐を退治する逸話が題材です。武蔵は、美濃と飛騨の山中で出会った農民たちとともに山に向かい、鰐を一撃で仕留めたと

いう物語が描かれています。


歌川国芳《本朝水滸伝剛勇八百人一個 宮本無三四》天保4-6年(1833-35)頃


浮世絵師たちが筆を通して捉えたのは、江戸という都市の熱気、そしてそこに生きた人々の感性そのものだったのかもしれません。

一枚一枚の絵から、音や匂い、空気の感触までが立ち上ってくるような感覚――そんな“江戸のいま”を描いた名品たちとの対話を、ぜひ会場で体験してください。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年5月26日 ]

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