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キングスで再び“地元選手”が増え始めた理由「岸本選手や並里選手のように沖縄の子たちの夢に..」

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「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP」で初優勝を遂げたキングスU15©B.LEAGUE
チームメイトの好プレーに立ち上がって喜ぶ佐取龍之介(左)と崎濱秀斗=3月30日、沖縄サントリーアリーナ(長嶺真輝撮影)

プロスポーツチームにとって、本拠地とする地域で生まれ育ったり、学生時代に地域にあるチームでプレーしたりした「地元選手」は重要な存在だ。地域密着を象徴する側面の一つであり、チームに対してファンにより愛着を持ってもらう意味でもプラスアルファの価値がある。 プロバスケットボールBリーグ1部(B1)の琉球ゴールデンキングスで言えば、名護市出身の岸本隆一がその重責を担うプレーヤーだ。以前は日本人選手の多くが沖縄出身だったが、直近の3シーズンに限って見ると、先述の定義で言う地元選手は岸本のみである。 しかし、2025年に入ってから様相が変わってきた。 1月に那覇市出身の平良宗龍(キングスU15ー開志国際高校出身)、栃木県出身で中学3年生から沖縄の学校に通っていた佐取龍之介(キングスU18出身)の2人について、来シーズンからU22枠でチームに加入することを発表。さらに3月には、渡米していた沖縄出身の崎濱秀斗(福岡第一高校出身)がプロ契約の特別指定選手として電撃加入した。 崎濱と平良は全国トップクラスの強豪校でエースを張り、世代屈指のプレーヤーに挙げられてきた。佐取もBリーグU18の大会で何度もベスト5に輝いた実績を持つ。 3人のように、契約に値するだけの実力や将来性を備えていることが前提ではあるが、今のキングスのチーム作りを見ていると、また地元選手が増えていく可能性がありそうだ。

日本人の大半を占めていた沖縄出身選手

幼い頃に憧れた岸本隆一(右)と写真撮影に臨む崎濱秀斗。二人には15歳の差がある

3月28日、沖縄サントリーアリーナ5階のパノラマラウンジ。入団記者会見に臨んだ崎濱が、子どもの頃から憧れた“ゴールド”のユニフォームを身に付け、笑みを浮かべてこう言った。 「自分が子どもの頃、岸本隆一選手や並里成選手に楽しませてもらったように、次は自分が沖縄の子ども達に夢を与えられる選手になれるように頑張ります」 現在19歳の崎濱が小学3、4年生の頃にバスケを始めたきっかけは、キングスの試合をよく見始めたからだという。年齢的に10年ほど前だろうか。今季で9シーズン目を迎えるBリーグが開幕したのが2016年のため、bjリーグ時代ということになる。 キングスが9シーズンを戦ったbjリーグの頃、チームは沖縄出身プレーヤーが常に日本人選手の大半を占めていた。3度目のbjリーグ制覇を飾った2013-14シーズンで言えば、岸本と並里をはじめ、金城茂之や狩俣昌也(長崎ヴェルカ)、山内盛久(三遠ネオフェニックス)、山城吉超、新城真司らが所属していた。 この傾向はBリーグ開幕当初まで続いたが、リーグ全体のレベルが格段に上がった中、古川孝敏や石崎匠、橋本竜馬ら日本代表歴のある実力派を獲得して強化を図り、次第に沖縄出身選手の割合は減っていった。 ただ、その中でも崎濱が目を輝かせた岸本と並里は2018-19シーズンからの4年間でも共闘した。高い攻撃力を備える二人の独特なプレースタイル、自身と同じ小柄なPGということも相まって、特に印象が強かったのだろう。

安永GM「崎濱選手がロールモデルに」

崎濱秀斗の入団記者会見でマイクを握る安永淳一GM

合間に沖縄市出身のハーパー・ジャン・ローレンス・ジュニア(サンロッカーズ渋谷)らが特別指定選手として加入することはあったが、プロ契約で若手の地元選手が入団するのは久しい。Bリーグ開幕前後に津山尚大(島根スサノオマジック)や渡辺竜之佑(福井ブローウィンズ)が加入して以来だろうか。 崎濱の入団会見に同席した安永淳一GMに対し、平良と佐取も含めて地元選手との契約が続く背景について聞くと、以下のように答えた。 「やっぱり地元の人たちは、地元の選手が活躍している姿を見たいというのが、私が一番思うところです。本当に幸せなことに、岸本隆一選手がコート上もオフコートでもリーダーシップを持って、キングスを背負う形で仕事をしてくれています。その姿を見て、『岸本選手みたいになりたい』『並里選手みたいになりたい』と、子ども達が夢を見ることが大切だと感じています」 リーグ全体の競技レベルが上がる中、選手契約がより実力本位に傾倒してくことは避けられない。ただ、安永GMのコメントを聞く限り、クラブとしてBリーグが開幕して以降も地元選手を重要視している姿勢に変化はないのだろう。 そもそも、近年はなかなかB1に定着する沖縄出身の有望株が生まれてこなかったことも事実だ。この春に大学を卒業したルーキーイヤーのハーパーと山内ジャヘル琉人(川崎ブレイブサンダース)を除くと、B1チームに所属する岸本、並里、狩俣、山内盛久、津山はいずれもプロキャリアが10年以上に及ぶ。 安永GMは、高校時代に全国制覇を経験し、第17回「スラムダンク奨学金」で渡米もした崎濱のキャリアを念頭に、今後も沖縄から有力が若手が生まれてくることを期待している。 「崎濱選手はバスケットボールに対する情熱を持ち、現状に満足しない青年だと思います。彼のような選手が、中学生、高校生にとってのロールモデルになればいいなと感じています。キングスで仕事をしていただき、若くてもプロとしてしっかり稼げる選手になってほしい。それがまた、沖縄の子ども達にとっての夢になると思います」 岸本、並里への憧れを力に変え、崎濱がキングスに入団する夢を叶えたように、こういった好循環が継続する未来を描く。

成果が実り始めたユース年代

「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP」で初優勝を遂げたキングスU15©B.LEAGUE

平良と佐取のように、下部組織であるユースチーム出身の選手がトップチームとの契約を勝ち取るという道ができたことも、地元選手の増加を後押しするかもしれない材料の一つだ。 中学生年代のキングスU15は2018年、高校生年代のキングスU18は2021年にそれぞれ発足した。Bリーグの中でも先駆けて育成に力を入れ始めた球団であり、ユースの大会ではいずれの年代でも上位に食い込むことが多い。 特に最近は、キングスU15の存在感が際立つ。 Bリーグユース、部活動、街クラブがカテゴリーの垣根を越え、日本一を争った今年1月の「京王Jr.ウインターカップ2024-25 2024年度第5回全国U15バスケットボール選手権大会」では過去最高成績となる準優勝を果たし、3月にあった「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2025」では初優勝を達成した。大会MVPに越圭司が輝き、ベスト5には越に加え、キャプテンの宮里俊佑も名を連ねた。 CHAMPIONSHIP(CS)の決勝が行われた3月30日にあったトップチームの群馬クレインサンダーズ戦後、桶谷大ヘッドコーチ(HC)は記者会見で頬を緩め、こう言った。 「中学生ですけど、あの2人(越、宮里)のスキルセットは本当にすごいですね。メンタリティーも良くて、客観的にいろんなことが見えているなと思います。(キングスU15のHCである)末広朋也コーチが人としてどう成長していくかを重視しているからこそ、応援したいと思える選手が育っているんだと思います。今、U15、U18ともに本当に良い選手を育ててくれています。将来、彼らがトップチームに入ってきてくれることは楽しみの一つです」 クラブとして、ユースからトップチームに選手を引き上げたいという意思も明確に持っている。以下は安永GMのコメントだ。 「自分たちの組織の中で、トップチームに入って活躍できる人材を育てるためには、トップチームが求めていることをできるようにならないといけません。キングスは1対1のディフェンスだけでなく、チームで守ることを非常に大切にしています。そういう考え方をユースプログラムでしっかり教えていくことが大切だと思っています」 今後、崎濱や平良、佐取のようなプレーヤーがキングスの主力に定着し、後進にとってのロールモデルとなることができれば、「実力主義」と「地元出身」を両立した選手契約が増えていく可能性は十分にある。全国各地の強豪校で活躍する沖縄出身選手や、ユースチームの動向にアンテナを張りながら、キングスの将来像を想像するのも一興だろう。

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