NHK朝ドラ「おしん」に次ぐ視聴率を誇る「繭子ひとり」の主役も演じた女優・山口果林
★特集コラム 劇団俳優座80年の役者たち Vol.14
2024年2月10日に創立80周年を迎えた「劇団俳優座」。劇団俳優座で活躍した名優たちをクローズアップしてお届けする。第14回は女優・山口果林(1947~)
山口果林は、兜町界隈の証券会社で働く人たちに親しまれた「千代田書店」の四女として生まれた。桐朋学園大学演劇科を卒業後、1970年4月俳優座に入団。桐朋学園時代より作家・安部公房に師事。芸名「山口果林」は安部が名づけた。
初舞台は、1970年秋の俳優座劇場プロデュースのフリードリッヒ・デュレンマット作「メテオール」で、本作はスイス人の演出家と日本側は内垣啓一、千田是也の共同演出だった。
その後俳優座制作映画『若者の籏』(森川時久監督)、松本清張原作の連続テレビドラマ「張り込み」などに出演し、NHKの連続テレビ小説「繭子ひとり」のオーディションに合格。11作目となる朝ドラのヒロイン繭子を演じる。本作は三浦哲郎の小説が原作となり、青森で生まれた繭子が、家族を捨てて出奔した母親を探す間に多くの人と出会い成長していくドラマである。舞台が青森、宮城、広島、能登半島などさまざな場所となり、視聴者の望郷を誘った。語りは石坂浩二、繭子の母を草笛光子、祖母を北林谷栄、弟に石橋正次、他に露口茂、冨士眞奈美、黒柳徹子、宮城まり子、杉良太郎らが出演。期間平均視聴率47.7%を記録し、「おしん」に続く歴代2位である。昨年12月に放送された71年のNHK紅白歌合戦ではゲスト審査員も務め、石橋正次はじめ「繭子ひとり」の共演者たちが応援ゲストとして登場していた。
NHK朝ドラでは、2020年前期放送の「エール」で、入院患者の奥さん・松宮チエ役でも出演した。
▲72年11月公演の『リア王』。舞台装置は、安部真知が担当し、昭和47年度(第27回)芸術祭賞演劇部門優秀賞を受賞した。
72年12月、俳優座を退団。翌年1月正式に安部公房を代表取締役として株式会社の会社組織の形で「安部公房スタジオ」が設立され、12人のメンバーの一人となった。新田敞、藤井浩明、戸田宗宏が取締役、設立発起人には井川比佐志、仲代達矢、田中邦衛の三人が加わった。西武劇場での『愛の眼鏡は色ガラス』が安部公房スタジオの第1回公演作品となる。安部公房スタジオ第一回稽古場公演『鞄』『ダム・ウェイター』をはじめ、『S・カルマ氏の犯罪』(78)、アメリカ公演『仔象は死んだ』(79)など安部公房スタジオの看板女優としてして活躍すると同時に、テレビでは、「繭子ひとり」で人気を得た勢いで主演を務め平幹二朗と共演した「結婚の夜」、小峰元の人気小説『アルキメデスは手を汚さない』のドラマ化で主役の教師を演じた「女子高生殺人事件」、NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」をはじめ、時代劇や、サスペンス劇場など2時間ドラマにも数多く出演しており幅広い役を演じる。
映画出演はあまり多くない山口だが、『若者の旗』(70)、〝繭子の山口果林が岩下志麻と共演〟と週刊誌のグラビアにもなった『黒の斜面』(71)、『砂の器』(74)、『海潮音』(80)、浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子、山本陽子らベテラン女優たちの共演で話題になった『デンデラ』(2011)や、近年では23年に、藤竜也が昔の仲間を集めてゲートボール大会に挑む元気なおじいさんを演じる人情コメディ『それいけ!ゲートボールさくら組』に出演。主演の藤竜也とはお互い長い経歴があるにもかかわらず初共演だった。
さらに、1994年夏から地人会木村光一構成の「この子たちの夏」の朗読劇に参加。地人会が解散した後は、渡辺美佐子ら女優達で立ち上げた制作集団「夏の会」で、朗読劇「夏の雲は忘れない」を12年間にわたって上演。19年に幕を下ろしたがその活動を継続し、24年6月には、長内美那子と朗読会「いのちを見つめた言葉たち ヒロシマ・ナガサキ 一九四五年」を上演。戦争体験者が残した手記などを朗読し、原爆と戦争の悲惨さを伝え、核兵器のない平和な世界を願う活動を続けている。
参考:『安部公房とわたし』(講談社)